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262話 通行税

「おおーっ、なんか見えてきたああっ!!」


 日が落ちる頃までルドフォア湖畔の周囲を進み続けた俺達は、前方の景色が大きく変わった事を確認した。


「あれが魔法都市ルベルーンですか……噂には聞いていましたが、凄いですね」


 トワの歓声にくすりと笑うスイ。とはいえ、スイ自身もかなり驚いているようだ。

 遠くには一際高くそびえたつ巨大な塔があり、その塔の周辺には薄く紫色に光るリングのようなものが浮かび上がっている。

 さらに、その周辺には城のようなデザインの建物が連なっていた。

 ゲームの知識だが、紫色のリングは空中通路になっていて様々な建物と繋がっており中央のタワーはルベルーンギルドとしても活用されていたはずだ。


「先輩、こっちには来たことないんすか?」

「うん。私は剣士だし、魔法に縁があるか商人じゃないとここら辺には来ないんじゃないかな」

「どんなところなんだろ、楽しみだねっ」

「そっすねー! なんか楽しそうっす!」


 目をキラキラと輝かせるアイネとトワ。

 だがそこに、若干のデジャヴを俺は感じてしまった。


 ――たしかシュルージュに来る前もこんな空気になったよな……


「はは……どうでしょうね。嫌な予感しかしないです」

「えっ、なんで?」


 苦笑いするスイに、トワがきょとんとした顔を見せる。

 するとスイは一つため息をついて言葉を続けてきた。


「アイネ。前にリーダーが差別主義者だって言われたの、覚えてる?」

「へ?」

「ほら、トーラで……」


 人差し指を立てて記憶を促してくるスイ。

 たしかスイとアイネと三人で陽の日を過ごしていた時に二人組の男にからまれた記憶がある。

 その時に魔術師は差別主義者だと言われたのだ。


「あぁ……確かに魔術師ってなんか評判悪いっすよね」


 それを思い出したのだろう。アイネが表情を曇らせた。


「そう。南の方だとあまり見かけないけど……結構魔術師って横柄な人が多いんだよ」


 ――そういえばミハもそんな事言ってたな……


 苦笑いを浮かべながら話しを続けるスイを見て、シャルル亭での話しを思い出す。

 だがアイネもトワも、いまいちピンときていないのか首を傾げたままだ。


「へぇ、横柄って?」

「それは例えば――あっ、そろそろ検問ですね。通行税の準備もしないと……」


 と、ルベルーンの門が見えてきた事に気づいたスイが慌てた様子で荷台の方にふり返った。

 それを察したトワが、いつもスイが貴重品を入れている袋をとってくる。

 トワに向かって軽く頭を下げ袋の中を確認するスイの横で、アイネが怪訝な顔を浮かべた。


「通行税? そんなもんがあるんすか?」

「うん。大きい街に入るときは払うんだよ」

「でもシュルージュでは払ってなかったじゃん。それにカーデリーでも……」

「冒険者ギルドに登録していると通行税を払わなくていい街もあるんです。魔物を倒して周囲の安全を確保する人への功績みたいなものですよ」

「じゃあルベルーンも無しにしてくれたらいいのに。ケチだなぁー」

「それだけルベルーンは設備が整っているので……まぁ、通行税に関しては経費としてもらっているのでよしとしましょう」

「まぁそれならいいけどさー。あ、じゃあボク一応隠れておくね」

「あのなぁ……お前は……」


 嬉しそうにコートの内ポケットに飛び込んでくるトワ。

 何故かドヤ顔を見せるトワに思わず苦笑する。


「ほら次! 貴様らの番だ。さっさとしろっ!」


 ふと、やたらとギラギラと輝く装飾品で身を纏った門番がこちらに向かって声を張り上げてきた。

 それをきいてスイが慌てて馬車から身を乗り出す。


「あ、はい。こちら四人分でお願いします」

「よこせ」


 門番はスイの手から乱暴に皮袋を奪い取るとその中からいくらかの硬貨をとっていく。

 そしてそれをスイに向かって投げ返しながら、嫌味な表情を浮かべてきた。


「なんだ貴様ら。いかにも魔力の無さそうなツラだなぁ?」

「すいません。お届け物ですので。少しだけお邪魔させて頂きます」

「ふんっ……」


 スイの素直な態度に拍子抜けしたのだろうか。 

 門番はつまらなそうに元にいた場所に戻っていく。


「……嘘でしょ? ねぇ、まともな人っていないの?」


 あまりに乱暴な態度に絶句する俺達の中で最初に声をあげたのはトワだった。

 するとスイが思いっきり気まずそうに苦笑いを浮かべてくる。


「まぁ……魔術師さんってこういう人が多いですね……そういうものだと割り切った方がいいですよ」

「むぅ。お兄ちゃん、そんなことないのに……」


 唇をとがらせて不満そうに呟くシルヴィ。

 そんな彼女を見て、ふと思う事が出てきた。


「それにしても、この辺りの人たちはスイの顔を知らないんだな」


 本人は謙遜するがスイは大陸の英雄と呼ばれる程の実力者だ。

 顔が知られていてもおかしくないと思っていたのだが――


「『魔法都市』ですからね。魔力の薄い人たちには興味を示さない人が多いですから。それに私、他の英雄って呼ばれる人に比べれば弱いですし。別におかしくないですよ」

「むー、そんなことないと思うんすけど……先輩だって……」


 複雑そうな表情のアイネ。

 スイが弱いなんて評価されるのは嫌だという反面、ライルとスイの剣捌きを見て、ある程度理解してしまっているのだろう。

 少なくともスイはライルより格下だと。


「んー……でも実際、他の英雄って呼ばれている人たちも名前だけ知ってるっていう場合の事の方が多いよ。例えばあの人もそうだけど……カミーラさんも顔知らないでしょ? それに私、ここに来たことないし」

「あー、たしかにそっすね」


 その話しをきいて自分を納得させる事ができたのだろう。

 アイネは腑に落ちたと言った感じで軽く微笑む。

 だがトワはやはり微妙な表情のままだった。


「まぁいいや。さっさとギルドに渡すものだけ渡して帰ろうよ。あんまいいところじゃないみたいだし」

「はは……さっきと言ってる事真逆だぞ……」

「だってー」


 唇をとがらせて俺の肩の上で足をばたつかせるトワ。

 だがまぁ、気持ちはなんとなく分かる。

 この対応、シュルージュで受けたようなものに近いものがあるからだ。


「お兄ちゃん、ギルド、行く……?」


 ふと、シルヴィが不安げに眉をひそめながら俺の事を見上げてきた。

 どうやらトワの発したギルドという単語に反応したらしい。


「大丈夫。シルヴィを渡すために行くわけじゃない。信じてくれ」

「そうそうっ! ボク達、届け物しにきただけだからっ!」


 自分の失言を察したのか、トワが慌てて弁解する。

 そんな俺達を見てシルヴィは少し表情を緩めるものの、思うところがあるのか首を傾げて俺の事を見上げてくる。


「うん。でも私、隠れてた方、いい?」


 シルヴィは行方不明者としてギルドで捜索クエストが発せられている。

 特に公にはされていないようだが、彼女はエルフの姫君だ。幹部クラスの者であればその情報を知っていてもおかしくない。

だとすれば迂闊にシルヴィの姿を見せているとトラブルになる可能性もある。


「むしろリーダーの近くにいた方が安全では? それに……やっぱりどうみても別人ですよ」


 だが、スイが真っ先にその意見を否定した。

 たしかに彼女の言う通り、シルヴィの外見はもはや別人レベルで変わっている。

 ハリネズミのようなボサボサの髪は綺麗な銀髪に生まれ変わり、可愛くツーサイドアップにまとめ、派手なゴスロリワンピース。

 今の彼女を見て、彼女がユミフィである事が分かる者などいないのではないだろうか。


「シルヴィの好きにしていいぞ。どっちがいい?」

「一緒。ギルドの人、怖いから」

「そっか」

「うん。ごめんね、お兄ちゃん」


 そう言いながら俺の腕にだきついてくるシルヴィ。

 そんな愛らしい姿を見ているとついつい頬が緩んでしまう。


「……なんかリーダー、『お兄ちゃん』って呼ばれる時、鼻の下伸びてないっすか?」

「えぇっ!? そんなことないだろっ」


 心当たりがありすぎるアイネの指摘に心臓が凍りつくような感覚が走る。

 

「ムキになる所が怪しいなぁ……もしかしてリーダー君、妹欲しいタイプ?」

「えっ――」


 ニヤニヤと笑いながら追撃しかけてくるトワ。

 虚をつかれて言葉を詰まらせていると、スイがくすくすと笑いながら話しかけてきた。


「あっ、そうなんですか? ではこれからはリーダーのこと、お兄様と呼びましょうか?」

「はぁっ!?」

「冗談ですって。そんなに焦らないでください、お兄様」

「~~~~~~っ!」


 出会ったばかりの頃はこんなに俺のことをイジってくるタイプには見えなかったのだが。

 いつからこの子はこんなに変わってしまったのだろう……


「ほらほら、バカなことやってると馬達が困っちゃうよー」

「あっ、すいません。えっと、道順は……」


 そんな気持ちでやきもきしている俺の内心を知ってかしらずか、スイはすぐに真面目な顔に戻って手綱を握り始めた。


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