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258話 本当の自分

 携帯シャワーで軽く汗を流した俺達は、二つのテントに分かれて寝る事になった。

 シルヴィが俺とシャワーを浴びたがっていたが――あの狭い空間の中で裸の女の子と一緒になるのは、まだ俺には早すぎた。

 なんとかスイと一緒に浴びてくれるようにお願いし今に至る。


「さて……寝ようか、二人とも」


 テントの中で寝袋をひいてシルヴィとトワに声をかける。

 するとトワが微妙な面持ちで返事をしてきた。


「んー、別にいいけどさ。本当によかったの? 皆と一緒じゃなくて」

「シルヴィもいるんだから余計狭くなるだろ。明日に響く方がまずいって」


 以前、一つのテントで三人寝た時に地獄のような狭さを体験したためテントは二つ用意している。

 俺達はスイとアイネとは別のテントで寝ることになっていた。


「ん。分かった。お兄ちゃんも早く」


 と、寝袋の中に入ったシルヴィが俺に向かって手まねきをする。

 そういう行動をすることは分かってはいたが――流石に女の子と一緒の寝袋というのはどうだろう。

 彼女はそういうつもりはなさそうだが、ちょっとまずすぎる気がする。


「いや、俺はいいよ。このまま寝るから」

「なんで? 絶対、寒くなる」

「いやいや、ほらコートあるし」


 無邪気にきょとんとした顔をみせるシルヴィに俺は自分の来ていたコートをみせる。

 するとトワが真っ先に不満げな声をあげてきた。


「だめだよリーダー君っ! そのコートが無いとボクが寝れないじゃんっ!」

「あーっそうか。えーっと……どうしよう?」

「なんで? 一緒、よくない?」


 戸惑っている俺に対し、シルヴィが悲しげな視線を送ってきた。


 ――いや、まずいだろ……


 シラハとクレハのこともあり、どうしてもそういった意識が芽生えてしまう。


「リーダー君。ここは照れてる場合じゃないぞー」

「う、うるさいな……分かったよ」


 純な視線を送ってくるシルヴィを見て、俺がいかに邪な存在かを改めて思い知らされる。

 とはいえ、ここで無理に一緒の寝袋で寝ることを拒むのも――それはそれで彼女を傷つけそうだ。

 覚悟を決めて俺はシルヴィのいる寝袋の中に入り込む。


「ん。お兄ちゃん。やっぱり一緒。ありがと」

「おう……」


 それはもう温かくて柔らかくて――だめだ、考えるのは止めないと。

 シルヴィの銀髪が首辺りに当たってくすぐったい。


「ん……んっ」

「っ!?」


 それを手で払おうとすると、シルヴィは自分が頭を撫でられていると勘違いしたのだろう。

 俺の胸辺りにぎゅっと頭をうずめると背中の方に手を回してきた。


「昨日、よかった。すごく寝れた」

「……ソウカ。キョウモヨクネレルトイイナ」

「うん。寝る。昨日より、寝れそう」


 そう言いながらシルヴィは俺を抱きしめる力を強める。

 昨日、シャルル亭で寝たときにはベッドも大きかったしシルヴィが先に眠ってしまったためここまでくっついていなかった。

 


 ――なんとかアレがアレにならないようにアレをアレしておかないと……



「……でも、その前に聞かせて。お兄ちゃん、どういう人?」

「えっ?」


 ふと、シルヴィが俺の胸に顎をくっつけて見上げてきた。

 その表情を見て、俺はぴったりとくっついたその体に緊張する事も忘れてしまった。


「私、マナの流れ、見える。だから分かる。お兄ちゃん、普通じゃない」


 青い瞳がじっと俺の目を縛る。

 さっきまで感じていた体の熱が一気に冷えていく。


「お兄ちゃん、マナの流れ、おかしい。色んな人のマナ、無理矢理混ぜたみたい」


 僅かに目を細めながらシルヴィが言葉を紡ぐ。


「一緒にしてくれて、嬉しい。だからお兄ちゃん、信じる。でもそのマナ、やっぱりおかしい。多分お兄ちゃん、何か隠してる」

「っ……」


 その顔を見て、俺はふとシラハとクレハの事を思いだす。

 月明かりの下で驚く程に妖艶な表情を見せたあの子達。

 子供から感じるものとは到底思えないような異様な雰囲気――それをシルヴィも放っている。


「お兄ちゃん、私に、話さない。私のこと、信じられない?」


 ふと、考え込む俺にシルヴィが眉をひそめながら話しかける。

 背中に回された腕は小さく震え、その瞳は僅かにうるんでいるように見えた。


「……いや、違う。違うよ」


 そう言いながら、俺はシルヴィの頭を撫でる。


「リーダ君、話すの?」

「あぁ。この子だけ知らないのもな」

「ん、そっか」


 特に俺の事を止める訳でも促すわけでもなく、トワは飄々とした声色でそう答える。

 だが、この事は既にスイとアイネは知っていることだ。

 行くあてがなさそうなシルヴィが俺達の敵になる事は考えられないし――隠すことでもないだろう。


「俺はこの世界の人間じゃない。他の世界からきたんだ」

「他の世界?」


 俺の言葉をオウム返ししながら、首を傾げるシルヴィ。


「あぁ。本当の俺は全然戦えない人間でさ。この世界に来た時に戦う力を授かったのかな……?」

「……?」

「んー、まぁいきなりそう言われても信じられないよね。なんかリーダー君も伝え方下手だしっ」

「う、うっさいなぁ……」


 トワの言葉に軽く頬をかいて反発する。

 実際に何が起こっているのか分からないのは俺も一緒なのだ。

 三週間前にはこんな事が起こるとも思わず、世の中が聖なる――否、性なる夜が近づいていることに浮かれているのを疎ましく感じ、ひたすらにゲームをしていた人間が今や女の子達と野宿しているこの状況を、小さな子供でも分かるように伝えられる人が世の中にどれだけいるというのだろう。


「……ううん。信じる。お兄ちゃんのマナ、特別だから。お兄ちゃん、別の世界から来た」


 だがシルヴィはそれでも納得してくれたのか、こくりと頷いてくれた。

 さっきシルヴィは『色んな人のマナ、無理矢理混ぜたみたい』と言っていた。

 実際、俺がこの世界で扱える力は俺がゲームで育成していた様々なキャラクターのものだ。

 恰好は最後にプレイしていた魔術師のものになっているが、その中身というか力の部分に関しては全てのキャラクターが混ざり合っている。

 その点を知らないはずのシルヴィがそう表現したということは――彼女の言うマナが見えるという言葉はやはり本物なのだろう。


「でも、ちょっと分かんないとこ、ある」

「はは。まぁそうだよな」


 ふと、シルヴィが思い出したようにそう言いながら首を傾げる。

 

 ――まぁ、伝わる訳ないか……


 そう自嘲を込めて笑っていると――


「『本当の俺』ってなに? 今のお兄ちゃん、本物じゃないの?」


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