表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/479

256話 ソードイグニッション

 日が落ち始めた時間帯。

 ジャークロット森林を進む途中、開けた場所を見つけた俺達はそこで野宿をすることに決めた。

 簡単にテントと結界を張り、食事を終え一息ついた頃。

 昨日できなかったスイとアイネとの模擬戦をやることに決め、俺達は距離をとる。



「じゃあいくっすよ。リーダー」



 ぺこりとお辞儀をして、軽く何度かジャンプするアイネ。

 体には既に練気がかけられており、淡い青白い光がアイネの体を纏っている。


「よろしくおねがいします――」


 スイがそれに続いて軽くお辞儀した瞬間、彼女の目つきが一気に変わる。

 ほぼ同時のタイミングでアイネが強く地面を蹴る。


「ラアッ! 剛破発剄っ!」


 一直線に走り、距離を詰めてきたアイネが俺に向かって掌底を突きだしてきた。

 軽く右側に体を傾けてよけると、アイネは読んでいたと言わんばかりに体をひねる。


「螺旋旋風脚っ!」


 アイネの足を纏う練気が一気に強く輝き強い風を巻き起こす。

 その風に乗るようにジャンプしたアイネが俺の頭に向かって蹴りを入れてきた。


「んっ――ひゃっ!?」


 左手の甲を使ってそれを受け、アイネの体をはじき返す。

 空中でバランスを崩し、小さな悲鳴をあげるアイネ。


「ヒートストライクッ!」


 と、背後からスイの鋭い声が聞こえてきた。

 いつの間に回り込んでいたのだろうか。

 俺がスイの位置に気づいた頃には、赤く光り輝いたスイの剣が俺の二の腕を切りつけていた。


「おっと……」


 しかし、全くダメージはない。

 完璧に直角に入った剣の刃も、紙でも触れたのかと錯覚してしまう程度の感覚しか俺には与えてこなかった。


「くっ――」


 だが、スイの攻撃はとまらない。

 すぐに剣を引くと、俺のこめかみを狙ってハイキックをしかけてきた。

 それを受けたとしてもダメージは無いだろうが――見た目はかなり痛そうだ。出来るなら、そんなキックなんて受けたくない。

 考えるよりも前に俺はスイを突き飛ばそうと手を前に出す。


「今だっ――気功縛・当身投げ!」


 その瞬間、アイネがスイと俺の間に割って入ってくる。

 俺の手はスイに当たる前にアイネの体に触れ、それと同時にアイネの上半身を纏っていた光が縄のような形状に変わって俺の体を縛り上げる。


「ラアアアアアアッ!」


 光の縄をつかって俺の体を宙に上げるアイネ。

 そこに仕掛けられるスイの剣撃。


「クロスプレッシャー!」


 十字に斬られた感覚を背中に感じながら、俺はただただ感心していた。

 この連携はあらかじめ計算していたのだろう。そうでなければ、ここまで見事に技を決めていく事などできるはずがない。

 まるで格ゲーのコンボの練習台にでもなった気分だ。


「フォースピアーシングッ!」


 そして放たれるトドメの一撃。

 アイネの気功縛によって動きを封じ、空中に打ち出された無防備な敵を貫く青い光。


「うおーっ、やるじゃんっ! 凄い連携プレーだねっ!」


 それが俺の体を貫くと、トワの歓声がきこえてきた。

 だが――


「……そうですね。ダメージが通る相手であれば、ですけど」


 体勢を立て直して着地する俺を前に、スイは複雑そうな笑みを見せていた。

 その横でアイネがぽかんと口を開けている。


「リーダー、マジどんな体してんすかっ! 今ので無傷って……」

「レシルとの戦いで手ごたえがあったものを組み込んでみたのですが……流石ですね……」


 一瞬の間にスキルを連発したせいだろう。

 二人は僅かに肩を上下させて呼吸している。


「まぁえっと……どうだ? なんか強くなった感じとかある?」


 ともかく、女の子に向けられるそういった視線はどうもむずがゆいものだ。

 照れ隠しに俺はその反応を無視してそんな質問をしてみる。


「そんな一回の模擬戦闘で強くなれたら苦労しないっすよ。それに、リーダー全然反撃してこないじゃないっすかー」


 そんな俺の内心に気づいたのだろうか。アイネがクスリと笑ってそう答える。


「実践でそんな無抵抗な相手はいないですよ。そんなに遠慮しなくても大丈夫ですよ? 私、死なないので。多分」

「だ、だから冗談きついって……」


 スイは死ぬ死ぬ詐欺イジリにはまっているのだろうか。

 そうでなくとも、スイの真面目なイメージと柔らかな態度だと、冗談で言っているのかどうか分かりにくい。


「……何、やってたの?」


 と、遠くから俺達の様子を伺っていたシルヴィが心配そうに俺の方に走り寄ってきた。

 どうやらボコボコにされていた俺の事を心配しているらしい。コートをめくりながら傷があるかどうかを確認している。

 そんな彼女を安心させてあげたくて、俺は意識して優しい声色でシルヴィに話しかけた。


「大丈夫、ただの訓練だよ。もっと強くなれるようにって」

「なんで? ここの魔物、倒す?」

「そうじゃないけど強くなるにこしたことないじゃないっすか。という訳で絶賛、試行錯誤中っす」

「そっか。お兄ちゃん、強いから」


 アイネの言葉に、シルヴィがこくりと頷きながら俺の方にふり返る。


「はい。私達もリーダーに任せきりではいられません。強くならないといけませんから」

「……そう。多分二人とも、私より強いのに。凄い」

「先輩はともかくウチはそんな事ないっすけどね……」


 シルヴィの言葉に苦笑するアイネ。

 そんな彼女達の様子を見て、ふと思う事があった。


「少し気になったんだけど、二人は他に何のスキルを覚えているんだ?」


 と、俺の言葉にスイがきょとんとした顔を返してきた。


「えっと、そうですね……私ってそこまで大技は使えないんですよ。私が使えるスキルはあらかたリーダーにもお見せしたかと思います」

「あれ、そうなんすか?」


 アイネが意外そうに首を傾ける。彼女にとってスイの一撃一撃が必殺の威力を持っているせいだろう。

 だがゲームの知識がある俺からすると、そう意外でも無かった。

 今までスイが俺に見せたスキルの中で威力倍率が高めに設定されているのはヒートストライクぐらいなのだが、このスキルはかなり低レベルの段階から習得できるもので基本技と呼ばれるようなものだ。

 スイはスキルそのものの威力というより自前のステータスの高さで威力を出している印象が強い。


「まぁそれはおいといて、アイネはどうだ?」

「そっすね……ウチは気功縛系統のスキルを一通りっすね。後、リーダーの前で使ってないものだと守護金剛とかっすね」


 守護金剛は連気・体状態で使えるスキルで自分の防御力を大幅にあげるスキルだ。

 デメリットとして自分の攻撃がクリティカルヒットしなくなったり、攻撃速度が低下したりする。

 それはさておき、俺は気になっていた部分を聞いてみる事にした。


「えっと、一応きいていいかな。スキルってどうやって覚えてる?」

「私の場合は師匠に教わって覚えました。アイネもそうでしょ?」


 スイの視線にアイネがこくりと頷く。


「アインベルさんか……ちなみにシルヴィは誰かに教わったのか?」

「ううん。戦って、覚えた」

「おおーっ、シルヴィちゃんって天才肌なんだねぇ」

「?」


 トワの言葉にシルヴィが怪訝な表情で首を傾げている。

 ……ダメだ。結局、どういうふうに彼女達がスキルを覚えているのか具体的なイメージが浮かび上がってこない。


「えっと――とりあず最初は見様見真似でやってみて、って感じで覚えるのかな?」

「そうですね。だいたいそんな感じです」

「そっか。じゃあ剣を貸してくれないかな」

「え? いいですけど……もしかして」


 俺のやりたい事を察したのだろう。

 スイの言葉に頷くと、彼女も無言で頷き返し剣を渡してきた。

 気のせいか、その瞳がキラキラしているようにみえる。期待させてしまっているのだろうか。

 若干のプレッシャーを感じながら俺はスイ達と距離をとり、剣を振り上げた。


「よしっ、ここら辺で……ソードイグニッション」


 スキル名の詠唱により、自分の右腕に気力が具現化する感覚が走る。

 そしてそのまま剣を地面に叩きつけると――


「わっ!?」

「ひゃああっ!?」

「――っ!」


 剣先から前方に向けて巨大な爆発音と共に大量の土煙が吹き荒れた。


 ソードイグニッションは、ブレイズラッシュと同じく火属性を有する剣士のスキルだ。

 ブレイズラッシュに比べて威力が格段に上がっており、優秀なスキルとしてプレイヤーの人気が高い。


 この攻撃は火属性を有しているのだが――周囲の木々が被害を受けないようにかなり威力を控え目で撃ったせいだろう。地面には炎が走っているものの、その量は決して多くはない。

 その代わり、空中には土煙の中で踊るように巨大な炎が舞い上がっていた。おそらく攻撃対象がその場所にいる事を想定したせいだろう。


 しばらくの間、それを見つめ続け炎が落ち着いた所でスイを見る。


「……って感じのスキルなんだけど、どうだろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ