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250話 ユミフィのクラス

「っ……」

「おー……」

「うわ……」


 風呂場から出るや否や、驚きに満ちた三重の声が俺達を出迎えてくれた。

 その声の主達に向けてユミフィが少し不安そうに首を傾ける。


「まだ私、変?」

「へ、変じゃないけど……えと、あれ? ユミフィちゃんだよね」


 半笑いになりながら声を返すトワにユミフィがきょとんとした顔を見せながら答える。

 

「名前、忘れた? 私、ユミフィ・ユグドラシア」

「いやいやっ、そうじゃなくてさ!」


 左右に首を横に振りながらトワが上下に飛び回る。

 そんな彼女を前にしてユミフィは意味が分からないと言いたげに怪訝な表情を見せていた。


「驚きましたね……お風呂に入っただけでこんなに変わるものですか」

「……まぁ、あんだけ汚れた人なんて見た事ないっすからね」

「あぁ。こうしてみると普通に可愛い女の子だよな」


 髪の毛はまだ若干ボサボサしているが、色に関しては美しいとしか表現のしようがない。

 顔もしっかりと整っているし、もっとおしゃれに知識のある人が手入れしてあげればキッズモデルとして活躍できそうだ。


「なんか、すごくすっきり。お風呂、いいとこ」

「これからはちゃんと入れるっすよ。安心してほしいっす」

「そうなの? ありがとう」


 自分の髪に手ぐしを通しながら口元を緩ませるユミフィ。

 そんな彼女を見て、スイは安心したように微笑むとアイネに視線を移した。


「じゃあアイネ、私達も入ろうか」

「そっすねー。ユミフィ、お腹とか減ってないっすか?」

「すいてない。スイとアイネ、出てくるまで待ってる」

「じゃあウチらもお風呂済ませてくるっすよ。ホントはリーダーと一緒に入りたかったけど」


 そう言いながらアイネが俺の方にわざとらしいウィンクを投げてきた。

 スイが小さくため息をついてアイネの肩に手を置く。


「アイネッ……ほら、いくよ」

「アハハッ、いってらっしゃーい!」


 右手を大きく振ってスイとアイネを見送るトワ。

 二人が浴室へ姿を消した事を確認すると彼女はユミフィの顔の前まで飛んでいく。


「ねーねー、ユミフィちゃん。森の加護ってどんなことができるようになるの?」


 と、その言葉で俺もふと思い出した。

 俺達はまだ森の加護というものについて完全に把握していない。


「そういえば具体的な事はきいてなかったな。ユミフィ、森の加護について説明ってできるか?」

「ん、えっと……森の中だと私、特別なスキル、使える。それが森の加護。あと、スキルだけじゃなくて、私自身、強くなる」


 そう言いながらユミフィは右手を軽く胸に添えて俺の事を見上げてくる。

 どうやら他にも質問が無いか配慮してくれているようだ。


「森の加護ってエルフなら受けられるものなのか?」

「分からない。私、殆どエルフと――ていうか、人と話した事、無い」


 妙にユミフィの言葉が舌足らずにきこえるのはそのせいなのだろうか。

 まぁこの点については他のエルフに会う機会があればきいてみた方がよいだろう。


「ユミフィは自分のレベルは分かるか?」

「レベル? 強さのこと?」

「……知らないみたいだね」


 ユミフィの反応を見てトワが苦笑いを浮かべる。

 だが自分の聞かれている事の意味は分かっているようで彼女はすらすらと答えはじめた。


「でも私、スイやアイネより弱いと思う」

「そうなの? 結構戦えてたと思うけど。最初、凄くびっくりしたんだから。何者!? って感じで」

「それ、森の加護のおかげ。普通に戦ったら、スイに絶対勝てない。もしかしたら、アイネ、勝てるかもだけど……十回やって三回勝てるかどうか……それに」


 と、ユミフィはそこで言葉を切って俺の方を見つめてきた。


「私、分かる。お兄ちゃん、森の加護があっても勝負、ならない。それだけのマナ……感じる。お兄ちゃんこそ、何者?」


 済んだ青い瞳から放たれる鋭い視線。

 敵意ではないものの、その真剣な眼差しに思わず気圧されてしまう。

 数秒の沈黙の後、トワが逃げるように声をあげた。


「えーっと……ユミフィちゃんは、自分のクラスも分からないの?」

「クラス?」


 オウム返しに答えながらユミフィが首を傾げる。

 この様子ではクラスの意味も分かっていないらしい。

 だが、それでも俺達と戦った時に使っていたユミフィを思い出せばある程度は察しがつけられる。


「フォースショットを使ってたから弓士ではあると思う。他に使えるスキルはあるか?」

「えっと……トリプルショット、レインアローとか……? 森の加護、あると、イーチェサジータ、テアライエラ……」

「うーん……知らないスキルもあるな……」


 トリプルショットもレインアローも弓士のスキルだが、それ以外のスキルはきいたこともない。


「でもさ、スイちゃんとアイネちゃん二人相手にあそこまで戦えているんだよ? 思わぬところで戦力補強ができたねっ」


 そう――冒険者である以上、命の危険とは隣り合わせだ。

 またフルト遺跡のように別々に戦わなければならない機会が無いとも言い切れない。

 そういう点では戦力が確保されるのはトワの言うとおり嬉しいことではある。

 ただ、本音を言えば皆にはそんな危険に晒されてほしくも無いのだが――それはこの世界では強欲すぎる考え方なのだろう。


「あの、お兄ちゃん。これからどうするの?」


 ふと、ユミフィがくいくいと俺の裾を引っ張ってきた。


「あぁ。俺達はルベルーンに届け物をしてるところでさ。次はそこに行くって決めてるよ」

「るべるーん……」

「アハハッ、ピンとこない感じ?」


 トワの言葉に、ユミフィは黙って頷く。


「私、一応、戦える。ついていって、いい?」


 やや不安げな声でそう話しかけてくるユミフィ。

 この宿において行かれるとでも思ったのだろうか。

 その杞憂っぷりに思わず苦笑してしまう。


「今更だな。パーティも組んだだろ」

「そうだよーっ、ボク達もう友達だからねっ!」

「えへ……」


 数時間前まで戦闘をしていたとは思えないのどかな雰囲気に若干のシュールさを感じつつも、その柔らかな微笑みの前ではどうでもいいことだった。


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