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24話 陽の日

 翌日。俺はいつものように服をきてギルドの受付場にまで移動する。

 すっかり俺の中で仕事をするということが日常にくいこまれるようになった。

 今日はどういった作業をするのだろうか。そんな事を考えているとアイネが声をかけてきた。


「う、ういーす! 新入りさんっ!」


 少しだけ気まずそうに手をふって挨拶をしてくるアイネ。

 まだ昨日のことを引きずっているのだろうか。

 隣には、やはりスイの姿があった。


 ──この二人はもう相棒だな……


「あぁ、こんにちは。早いですね」


 俺もアイネに手をふって挨拶する。

 実は少し驚いていた。今はまだ、ギルドが出すクエストを掲示板に張る作業がまだできていない早朝の時間帯だ。つまり営業時間前であって、二人がここにいる理由が思いつかなかったのだ。朝食をとるため食堂は営業しているのだが彼女達がこの時間帯にまで早くきたことは今まで無い。

 と、その疑問を解決する言葉をすぐにスイが言ってくれた。


「今日は休みですよね。どこかいきませんか」

「ん、そうなんですか?」


 ──おかしい、何もきいていないぞ。


 何か聞き忘れがあったのかと思い、俺は受付に視線をうつす。

 カレンダーが置かれていると教えてもらったことがあるからだ。

 しかしその行動は無意味に終わる。

 ……忘れていたのだ。俺は文字が読めない。当然数字も曜日も分かるはずがない。


「おぉ、言い忘れてた。今日は陽の日だからな。休みだぞ」


 ふと、アインベルの声がしたので振り返る。

 どうやら食堂から出てきた直後だったようで、そこに繋がる扉の付近に彼はいた。


「陽の日?」


 俺は聞きなれない言葉に首をかしげた。ゲームでは聞いたことが無い単語だ。

 そんな俺を見てスイは目を丸くする。


「……ん、知らないんですか?」

「随分変わってるな。曜日も知らないのか?」


 アインベルの言葉で察しがつく。


「あぁ、日曜日ってことか……すいません、俺がいた所とは言い方が違うみたいで」

「あ、なるほど……」


 スイが少し気まずそうに頷いた。

 そういえば、と文字を教わろうとしたことがあったのを思い出す。

 他の事がいろいろあって結局流れてしまっているが、やはりカレンダーぐらいは読めるように勉強しておくべきだろうか。


「そ、それでっ……どっすか? 遊びにいきません?」


 アイネが改めて俺を誘ってきた。

 まぁ休日だし勉強なんて、がらでもない事をして時間をつぶすのももったいない。

 俺は二人の方に歩いて行きながら首を縦に振った。


「そうですね。特に予定もないので、お邪魔でなければ」

「では、そうですね。適当に歩きながら行く場所考えましょうか」

「トーラってなんもないっすからねぇ……あんまり期待はしないでほしいんっすけど……」


 そう言いながらアイネは苦々しく笑う。

 と、背後でアインベルが豪快に笑いだした。


「ナッハハハ、そうイチャ……」

「ちがうからね! ウチそういうつもりじゃないから! いつもしつこいよっ!」


 アイネもそれは予想できていたようでアインベルの言葉を無理やり遮る。

 体をくの字に曲げ、耳と尾をピンと立たせる威嚇のポーズ。


 ──妙に愛らしいんだよな、このポーズ。


「ナッハハハハ! まぁ楽しんで来いっ!」


 アインベルも同じ気持ちだったのか笑い声はとまらない。

 そのままパンと手を叩きながら俺達を見送ってくれた。

 少しアイネは不機嫌そうだったが……すぐに直るだろう、いつものことだ。




 †




「そういえば、なんですけど……アイネさんって、普段の口調はどんな感じなんですか?」


 ギルドの敷地から出た時、俺はふと疑問を口にした。

 と、アイネは質問の意味が分からないと言いたげに怪訝な顔を見せてきた。


「ほぇ? ウチはいつもこんな感じじゃないっすか」

「いや、でも時々口調変わりませんか? いつもなになにっす、って言ってるのに……」

「え、そ、そっすかね?」


 視線を泳がせながら恥ずかしそうに頬をかくアイネ。

 さっきのアインベルに対してもそうだったが時々口調が普通になるような気がする。

 どちらがいつも通りのアイネの言葉づかいなのだろうか。

 そんなふうに考えているとスイはクスクスと笑いはじめた。


「ふふっ、アイネなりに頑張って言葉づかい意識しているってことですよ。全然下手だけど」

「えぇっ! 丁寧に話してるつもりなんすけどねぇ……一応言葉づかいの勉強もしたんすけど……」


 スイの言葉にアイネは耳をぺたんと垂れさせる。

 それをみて、ごめんねとフォローしながら、スイは俺の方を見た。


「まぁ最初はギルドの年配の方にも友達口調でしたから。余裕がなくなると素が出ちゃうみたいなんですよ。許してあげてください」

「う、うーっ……お恥ずかしいっす……」

「いえ、別に俺は丁寧な言葉つかわれる立場ではないですし……」


 そうは言ったがアイネの気持ちはなんとなく分かる。

 俺も綺麗な敬語が使えるわけではないからだ。

 あれはかなり練習しないと自然に出てくるものではない。


「そういえば、新入りさんはいつも丁寧な言葉づかいっすよね。もっとフランクに話してほしいっす」

「え? 俺がですか?」


 話題の矛先が変わったことに驚く。


 ──随分、唐突だなぁ。


「そうですね……私たちより年上みたいですし、普通に話してくれてもかまいませんよ?」

「い、いやいや……年齢とか関係ないですよ。二人の方が、立場が上ですし……」

「むぅ、ちょっとショックっす。一応ウチら友達だと思うんすけど。そーゆーの気にしてほしくないっす。なんか距離を感じるっす……」

「そうですよ。変に礼儀とか尽くされて距離を置かれるのは寂しいです。気軽に話してください」


 と、二人とも不機嫌そうに半目になりながら俺の事を見つめている。

 そう言われても急に言葉づかいをかえる事なんてできるはずがない。

 俺は少しどもりながらそれに対して返事をした。


「いや、だって……そういう二人も言葉づかい丁寧じゃないですか。特にスイさんとかアイネさんと俺への対応違いません?」


 こういう時は矛先を変えるに限る。

 論点をずらしで逃げるのは俺の得意技だ。


「だ、だって、貴方は年上じゃないですかっ。だから私はいいんですっ。それに全然関係ないですよ!」

「そっす。今は新入りさんの話をしてるんすよ?」


 だが、割と無茶苦茶な理屈でそれを封じられた。


 ──同じような話だと思うんだけどなぁ。


 俺は諦めて、ため息を一つつく。


「わ、分かりました。気を付けます……」

「全然分かってないっす!」

「分かってないですね……」


 自然に出てしまう丁寧語で二人はさらに不機嫌そうに眉をひそめた。

 だがそう言われても急にタメ口をきけるほど、図太い性格なんてしていない。


「そ、そんなこといきなり言われても難しいですよ。か、勘弁してくださ──」

「そうですっ、魔術師なんかと親しくする必要はありません!」


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