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248話 理性

 ――やばい、これ……


 更衣室の中。

 コートを脱いだ後、俺はどう動いたらいいか分からずにいた。

 ここに入るや否や、ユミフィは躊躇なく服を脱ぎだしたのだ。……まぁ、一緒にお風呂に入るのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 かといって彼女の裸体を真正面から見るわけにもいかず……


「お兄ちゃん、脱ぐの下手?」


 ――ふと。俺の横からユミフィの怪訝な声がきこえてきた。

 その方向に視線を向けると、色々とまずい事が起こるので視線をずらす訳にはいかない。

 とにかく、持ってきたバスタオルをユミフィのいる方にかざしながら返事をする。


「ユミフィ。タオルを巻いてくれ」

「え? タオル、汚れちゃう」


 遠慮がちな声色でそう言うユミフィだが、そんな事は些細な問題だ。

 有無を言わさずユミフィの頭にそのタオルをかぶせる。


「いいから」

「んみゅ!?」


 ユミフィの変な声をきいて少し申し訳なくなってしまうがやむを得まい。

 五、六歳の幼女だったらともかく、彼女はもう十二歳だ。

 子供とはいえ女性の特徴は備えつつある体つきをしている。


「……んしょ、できた」


 布がこすれる音が数回した後、ユミフィはそう言いながら俺のベルトを引っ張ってきた。

 それを聞いてほっと一息つきながら――


「それと、ズボン脱ぐから向こう向い――うおっ!?」


 ユミフィの方を振り返るのは、愚かな選択だとすぐに気づいた。


「頭に巻くんじゃない! 体にまくんだっ!」

「え?」


 一瞬――ほんの一瞬だけ、彼女の全身が目に入ってきてしまう。

 頭にバスタオルを無理に巻きつけているものの、肝心の体の部分は完全なSUPPONPON。

 それが記憶として刻まれる前に俺は視線を上に固定する。


「いやっ、だから――こうやって」

「んっ……」


 口で言っても伝わらなさそうなので、俺が彼女にタオルを巻いてやることにした。

 ぎゅっと目を瞑りながら、彼女の肩の位置を頼りにタオルを巻く。

 おそるおそる目を変えると――我ながら綺麗にバスタオルを巻くことができていた。


「これでいいの?」

「あぁ」

「わかった」


 こくりと頷いてじーっと俺のことを見つめるユミフィ。

 ……なんとなく察してはいるがとりあえず伝えてみる。


「ユミフィ?」

「え?」

「えっと、あっち向いてくれないでしょうか……」

「なんで?」

「脱ぐからさ。俺」


 そう言ってはいるものの、ユミフィはやはりピンときていない表情を浮かべている。


「手伝う?」

「だ、大丈夫だって!」

「でもお兄ちゃん、手間取ってる……」

「うわっ」


 油断していたらユミフィの手がベルトの方に伸びてきた。

 外し方が分からないのかベルトを乱暴に引っ張っている事しかしていないが――事故ったら危険地域に手がつっこみそうな体勢である。


「まて、まてユミフィ。しゃれにならないからまてっ!」

「……? うん、待つ」


 だが、俺がそう頼むとユミフィはロボットの如くピタリと動きを止めた。

 そのあまりに素直な対応に少し吹き出しそうになる。


「えっとな。先にお風呂いっててくれ。ほら、あそこ」

「ん。湿気、凄いとこ?」

「そう」

「分かった」

「あっ、走るなよ。危ないから」

「うんっ」


 ユミフィはあまり表情に感情が出てこないタイプのようで、その表情はいつも真顔に近い。

 だが声の抑揚から感情の動きはある程度察知できる。


「うわ……わ……!」


 浴室の方から聞こえてくる感嘆に満ちたため息。

 自分達も前に来た時は同じような感じにはなったものの、そんなリアクションをとられるとどこかくすぐったい気持ちになってくる。

 まるで本当に妹ができたような気分だ。しかも従順で可愛いときた。


「よーし。先にシャワー浴びるぞ。ユミフィ」

「ん」


 服を脱ぎ、タオルを腰に巻く。

 相当恥ずかしい格好であることは間違いないのだが、無邪気に喜ぶユミフィを見ていると邪な気持ちもそこまで湧いてこない……はず。


「ここに座って」

「変な椅子」


 シャワーの前にある椅子をつんつんとつつくユミフィ。

 何事にも興味を示すその姿はとても微笑ましい。

 とはいえ、ユミフィの体は土まみれだ。いつまでもこうしている訳にはいかない。


「じゃあ先ずは体洗うぞ……」

「ん――きゃっ!?」


 ふと、シャワーから水を出すとユミフィが小さく悲鳴をあげながら飛び跳ねた。


「ど、どうしたっ!」

「水っ! 水? 魔法?」


 やや警戒した表情でじっとシャワーを見つめるユミフィ。

 そんな彼女を前に思わず苦笑いを出してしまう。


「ただのシャワーだよ。危ないものじゃない」

「シャワー?」

「見たことないのか? ここをひねると水が出るんだ。ほら」

「うあ……わ、わー……!」


 目を真ん丸にしながらシャワーを見つめるユミフィ。

 その初々しい反応を見ていると、自分の発明品でもないのに何故か得意気な気持ちが湧いてきてしまう。


「じゃあ洗うぞ」

「このまま洗う?」


 と思っていたのも束の間。

 割と深刻な問題に直面していることに気づき俺は言葉を失ってしまう。


「……そうですね。どうしましょうか」

「?」


 首を傾げるユミフィ。

 しかし、体にタオルを巻きつけたままじゃ体なんて洗えるはずがない。

 結局、意を決して俺はユミフィに向かって話しかける。


「ユミフィ」

「ん?」

「……すまない。タオルをとってくれ」

「結局とるの?」

「あぁ……その、洗うから」

「分かった。はい」

「うわっ!?」


 急に脱ぎだすユミフィ。

それを見て俺は自分の迂闊さを後悔した。


「……なんで目、瞑ってるの?」

「えっと……そうだな。ユミフィを傷つけないため……?」

「なんで? 洗うのに??」

「えと……とりあえず洗うからな」

「うん」


 複雑な気持ちになりながら、俺はユミフィの体にシャワーをかけていく。

 気持ちよさそうに身を任せてくるユミフィ。

 俺はそんな彼女の姿が視界に映らないように慎重に石鹸を手にとり泡立てていく。


「泡? なんで、泡?」

「綺麗になる泡だから安心してくれ」

「そうなの? ……ん」

「どう、気持ちいいか?」

「うん。でもお兄ちゃん、なんで同じとこばっか、やる?」

「え……じゃあ続きは自――」

「こことか全然洗ってくれない。ほら――んあっ!?」


 びくん、とユミフィが腕の中で跳ねた。

 妙に艶めかしい声色に反射的に目を開けそうになるが――俺にはレベル2400の理性がある。こんなものどうということはない。


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