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243話 汚れたエルフ

「えーっと、じゃあ何からきいていこうかー」


 泣きじゃくる少女の背中をさすりながら落ち着かせること数分間。

 だいぶ少女の泣き声が収まってきた頃合いを見計らって、トワがそう声をあげた。


「先ずは自己紹介からしようか。俺は――」


 まだ若干嗚咽し続けているものの、ずっと無言でいるのも気まずい。

 自分の名前と年齢を告げ、彼女に声をかけていく。

 すると、俺にならうように皆も自己紹介を始めた。


「私はスイ・フレイナ。年齢は16。クラスは剣士です」

「ウチはアイネ・シュヴァルト! 年は14っすよ。拳闘士をやってるっす」

「ボクはトワ。見ての通り可愛い妖精だよっ! 年齢はヒミツ!」


 少女の前で上下に飛びながら自分の存在をアピールするトワ。

 そんな彼女を見て少女の表情が僅かに緩んでいく――


「ユミフィ・ユグドラシア……12歳……」

「えっ――ユグドラシア!?」


 と思ったのも束の間。


「ひっ――」


 スイが大声をあげながらユミフィと名乗る少女の肩をつかむ。

 その鬼気迫った表情に一気に表情を硬くするユミフィ。


「ちょっ、スイちゃん? どうしたの?」

「いえ、その……ユグドラシアって……え? それは本当ですか?」


 スイは両手で頭をぐしゃぐしゃとしながらわたわたと周囲に視線を移していく。

 その普通じゃない様子にアイネが怪訝な表情で首を傾げた。


「どうしたんすか先輩。いきなり」

「知らないのっ!? ユグドラシアって――エルフの王族のネームだよ!? エルフの王国の名前がユグドラシアでしょ!」


 そう叫ぶスイを前に、アイネも表情を一気に強張らせる。

 それは俺も同じだった。


 ――そういえば、ユグドラシアってエルフの国の名前だったような……


「え……王族? 王族って王様とかがいる王族……?」

「それ以外の『おうぞく』って言葉、私は知らないよ……」

「……マジっすか。じゃあ、もしかしてこの子、お姫様……?」


 唖然とした表情でユミフィを見つめるアイネ。

 若干、気まずい沈黙が周囲を支配した。

 当然だろう。まさかエルフの姫君がこんなところで襲い掛かってくるとは誰も夢にも思わなかっただろうから。


「えっとー……ほんとに王族なの? ボクのイメージとちょっと違うんだけどなー……」


 そう言いながらトワが気まずそうに笑う。

 彼女の言う通り、ユミフィの恰好は王族と言葉から受けるイメージとは真逆のものだった。

 どちらかというと乞食のような恰好といえるだろう。

 そもそもエルフの特徴である長い耳も、ボサボサになった長い髪が隠していてよく分からない。

 と、ユミフィが苦い顔をしながら声をあげる。


「知らない……エルフの国、痛いことしか、しない……」

「痛いこと?」

「まどーぐ? ってもの、当てられる……変な光、出て……痛いの……」


 自分の腕をつかみながら、がくがくと体を震わせるユミフィ。


「虐待ってことですか……? でも魔導具って、ちょっと想像がつきませんね……」

「んー、でも先輩……」

「分かってる。多分、彼女の言うことは本当……」


 具体的にどういう事をされたのか、その言葉からは察する事はできない。

 ただ、彼女の仕草から、今まで受けてきた苦痛や恐怖が嫌という程伝わってきた。

 演技と言われればそれまでだが――嘘をつくなら王族のネームなんて使わないだろう。


「で、ユミフィちゃんはなんでこんなところに?」


 その点について掘り起こしても意味が無いばかりかユミフィを苦しめるだけになってしまう。

 それをいち早く察したトワがそう言ってユミフィの言葉を促した。


「世界樹のおかげ。私のこと、逃がしてくれた……」

「世界樹?」

「おっきな木。エルフ、たくさんいるところ……」


 きょとんとするアイネとトワ。そんな彼女にスイが声をかける。


「北東にあるユグドラシア王国のことだと思います。ユグドラシア王国は広大な森になっているのですが――その中で一番大きな樹木のことですね」

「なるほど……じゃあ、ユミフィは、エルフの国から一人で逃げてきたってことっすか?」


 アイネの言葉に、ユミフィはこくりと頷く。


「……え、一人で?」


 だが、それはにわかには信じられない事だった。

 こんな小さな女の子が、たった一人で、しかも徒歩で国から国へ移動なんてできるのか。


「ううん。森の木々や草達、私のこと護ってくれる……」

「護る? 木が?」

「食べ物とか、くれる。それに――えっと、スイ?」


 ユミフィがスイの事を指さしながら首を傾げる。

 まだはっきり俺達の事を覚えられていないのだろう。それを察したのかスイは優しく頷いた。


「スイの攻撃かわせたの、森の加護のおかげ……森、私に力くれる……」


 そう言いながら周囲の木々を見渡すユミフィ。

 だが残念ながら、すぐにその言葉にピンとくるものはこの場にはいなかった。


「どういうこと? ちょっと意味が分からないんだけど」

「そうですね……しかし、こんな嘘をつく意味も分からないですし……」


 俺も彼女達と同じように首を傾げる。

 だがしばらくしてようやく、それらしき心当たりを見つける事ができた。


「もしかして、シルヴァゲラドゥスってスキルのことか?」

「うん……ウイレンチャファルームも、そう。森の力、分けてもらって使えるスキル……」


 俺の問いにユミフィがこくりと頷く。

 森の加護――そんな仕様は少なくともゲームにはなかった。

 エルフという種族をキャラメイクの時に選択する事はできたが、そのキャラクターもそんなスキルは覚えない。


 ――もしかして、王族だけのユニークスキルとかあるのか……?


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