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241話 子供の抵抗

 後ろの方から、トワの慌てふためいた声が聞こえてくる。

 だが、どうもそれにかまっている場合ではなさそうだ。

 俺と二人の間に展開された魔法陣の中心から、いくつもの氷の礫が放たれる。

 スイとアイネ側に飛んで行ったそれは、スイが空中に舞わせた土によって弾き返されていた。


 問題は俺の方向だ。俺の後ろには馬車が――トワがいる。単純に避けるわけにはいかない。

 さほど威力があるものとは思えないが念には念を入れて――


「エメラルドバニッシュメント!」


 ほぼ反射的に俺はそのスキル名を言う。

 魔力が右手に集まっていく感覚。それに流されるように俺は右手を前に突きつけた。


「わっ――」


 トワの小さな悲鳴がきこえてくる。

 俺を中心として緑色の魔法陣が展開。その魔法陣の中に入ってきた氷の礫がエメラルドグリーンの竜巻状の光の渦に巻き込まれて消滅していく。

 エメラルドバニッシュメントは、範囲内に飛んできた遠距離攻撃を無効にする防御魔法。

 咄嗟に使ったが無事に発動できた事を確認できてほっと息をつく。


「魔物っすか!?」

「違うっ! さっき結界を張ったばかりでしょっ! 盗賊かもしれないっ」


 スイのグランドディフェンサーによって舞い上がった土が再び地面に戻った時に見えたのは、背中合わせで周囲を警戒する二人の姿だ。


 ――盗賊?


 スイの言うとおり、さっき魔よけの結界を張ったばかりなのだから魔物というのは考えづらい。

 だが、これが盗賊による攻撃だと考えるのはどこか違和感を覚える。

 


 ――財産狙いなら俺達が戦闘訓練を始めた後にこっそり馬車を狙うのが得策じゃないのか……?



 とはいえ、そんな違和感など現在の状況に比べれば些細なものだ。

 氷の礫が収まり、魔法陣が消えたのを確認すると俺はその中心部分に視線を移す。

 そこにあったものは――


「矢? これって――」

「リーダーッ! 上ですっ!」

「えっ……」


 スイの声に促され、引っ張られるように視線を上に移す。

 その瞬間、目に飛び込んできたのは三本の青白く輝く矢が上から降ってくる光景。

 もう一度スイが剣を構えてグランドディフェンサーを使おうとする。


「大丈夫。もう一度防御するっ!」


 直前に使った魔法だ。スイにそう言いながらでも簡単にイメージができる。

 俺はもう一度エメラルドバニッシュメントを発動させた。

 ゲームでは矢による攻撃は遠距離攻撃であり直接攻撃扱いにならない。

 その仕様通り、落ちてきた矢は竜巻状の光に包まれて次々に消滅していく。


「――っ!?」


 と、どこからか小さく息をのむ声がきこえてきた。

 刹那、スイがその方向に向かって剣を振り下ろす。


「ブレイズラッシュ!」


 スイの剣先が地面にぶつかると、炎の壁がその方向に向かって出現した。

 その炎によって焼き払われる木々。


「あっ――うあっ!?」


 聞き覚えの無い声。その主が悲鳴をあげる。

 ドスン、と何かが地面に叩きつけられたような音が、ごうごうと燃える炎の中でもはっきりと聞こえてきた。


「このっ……!」


 スキルによって発生させた炎は、ある程度の時間がたつと消滅する。

 周囲の木々に燃え移ることなく消えていく炎の中で、そのシルエットがはっきりと見えてきた。

 ボサボサの灰色の髪は、ハリネズミの針のように背中にぼうぼうと伸びている。前の方にも無造作にのびた髪の毛でその顔を良く見ることができないためパッと見ただけでは性別は分からない。

 ズタボロのローブで身を包み、とってつけたように背中に矢筒を背負っている。片手にはこれまたボロボロの弓が握られていた。


「え、子供……?」


 そんな中でもはっきりと分かるのはその人物が子供だということだ。

 体格はかなり小さくアイネより年下の子供のように見える。シラハとクレハの間ぐらいだろうか。


「騙されないで! 子供でも賊はいますっ」


 と、スイが俺の気を引き締めなおしてくる。

 敵の姿が確認できたせいだろうか。スイは気を昂ぶらせているようだ。


「ソードアサルトッ!!」


 とん、と軽く地面を蹴るスイ。

 そのワンシーンからは想像もできない程の猛スピードでスイがその子供に突進していく。


「っ――シルヴァゲラドゥスッ!」


 だがスイが子供に剣を振り下ろすその直前、その子供の体が緑色の光に包まれた。

 そして信じられないことにスイのスピードを上回る素早さでその子供はスイの背後に回り込む。


「なっ……!」


 すぐにそれに気づいたスイは体を半回転させながら剣を横に薙いで牽制する。

 そのまま突進のスピードに流されるように後方へジャンプ。着地した後に数回後転して立ち上がって剣を構えなおした。


「うそっ! 先輩の技をかわした!?」


 反撃を許さないスイの立ち回り方は流石だ。

 だがやはり俺達を驚かせたのは子供の方だった。

 一瞬とはいえ、この子供のスピードは完全にスイを上回っていたのだから。


「なに……このスピード……」


 だがその子供の方もスイのスピードに対して驚きを示していた。

 やや唖然とした様子で剣を構えるスイを見つめている。


「なんですか貴方はっ! いきなり攻撃するなん――」

「フォースショット!」

「っ!?」


 だがそれも束の間、その子供は素早く弓を構えなおして青白く光る矢を放つ。

 しかし、狙いが外れたのかその矢はスイの横を通り過ぎて行った。

 と、スイに気を取られているのを好機としてアイネが背後から挑みかかる。


「問答無用ってことっすか! いい度胸っすねっ」

「んぐっ――フォースショットッ!」


 ふり返りざまに青白く光った矢を放つ子供。しかしその矢も当たらない。


 ――いや、当たらないというより……


「リーダー君? 何やってんのさ。ボーっとしてないであの子を捕まえないとっ」

「いや、アイツ……」


 と、いつの間にか俺の近くまで飛んできたトワが声をかけてきた。

 しかし俺の中で生じたある違和感が彼女の言葉に従うことを拒ませる。


「ラァアアアアッ」

「シルヴァゲラドゥス!」


 アイネの青白く光った拳はむなしく空を切る。

 その場に残ったのは淡い緑色の光の粒子。


「えっ、うそっ――」

「ウイレンチャファルームッ!」


 アイネの背後に回り込んだその子供は片手に持った矢を振り上げる。

 するとその子の持った矢先が緑色の光を纏い、まるで剣のように形状を変えていった。


 ――なんだ、この子のスキル……?


 先ほどから使っているシルヴァゲラドゥス、そしてこのウイレンチャファルームというスキルはゲームで聞いた覚えが全く無い。

 全職業の分だけキャラクターをつくりレベルをカンストさせた俺が知らないという事は、彼女は何か特殊なクラスを持っているということなのだろうか。


「させないっ」


 ふと、スイの気合の入った声が聞こえてきた。

 その直後に子供の持った剣がスイの剣によって弾かれる。


「きゃっ――」

「やあっ!」


 その後の動きも一瞬だった。

 スイは左手でその子の肩をつかみ、剣を首につきつけている。


「動かないでください。貴方の負けです」


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