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233話 第二夫人

 ゲーム上でそんな設定があったかどうかは思い出せないが――そういうものだと言われても不自然さは感じない。

 王制がとられている国では宗教の理由でもない限り側室とかも普通にありそうだし。

 

「そういうもんなんすよ。女が複数の男と付き合うとか、お風呂に入るとか? 娼婦でもない限りそんな事しないっすよ? したいとも思わないっす」


 アイネは涙をぬぐいながら引き笑いを続けている。

 胸に手を当てて少しずつ呼吸を整えていくアイネ。


「リーダーの元いた世界? ってのがどんな常識だったのか知らないっすけど。少なくともこっちはそういうもんなんすよ」

「そうか……」


 そういうものだ。

 その一言で片づけていい問題なのだろうか。

 トワからも聞いていたがどこか心にしこりが残る。


「あーもーっ! リーダーは哲学者にでもなるつもりなんすか?」


 するとアイネは、いらついた様子で俺の肩を掴んできた。

 そのままがくがくと俺を揺らしながら言葉を続ける。


「世界の真理とか、そういうの探しちゃうタイプなんすか?」

「いや、そこまでは……」

「だったら! もうそんな事考えないでほしいっす! 怒るよ? ウチはそんなことしないから」


 そう言いながらアイネは僅かに目を細める。

 急に冷えた感じに変化したアイネの声色に俺は息をのんだ。


「そもそもっすよ。常識がどうだとか、そんなの――関係ないよね?」


 強く、そしていつもと違ったものに変化したアイネの口調。

 俺が黙っていると、アイネが言葉を畳み掛けてくる。


「だってそうでしょ? ウチらの関係をどうするかはウチらで考えないといけないことだから。世界の常識なんて関係ない」

「アイネ……」


 俺の瞳を真っ直ぐと見つめてくるアイネ。

 彼女の顔には幼さがまだ残っており、体も成長しきっていないように見える。

 でもその瞳の奥にある輝きは、立派な一人の大人しか出せないものだった。


「……ウチはね。リーダーが『人を見る姿』を好きになったんだと思う」


 すっと目を閉じて、アイネが何かを思い出すように小さく顔を下に向ける。


「多分ウチは、リーダーが『ウチだけ』を見てくれるから好きになったんじゃない。リーダーの『人』の見方に惹かれたんだよ……旅に出てから、改めてそう感じた……先輩と向き合うリーダーを見て、もっともっと好きになった」

「っ……」


 顔が熱くなるのを感じて、思わず頬に手を当てる。

 にこりと笑うアイネ。


「だからリーダー。特別な人だけに優しくしようと無理に自分を変えないで。ウチは今の貴方が好き。それに、ちゃんと言ったでしょ」


 そこで一度言葉を切って、アイネは一歩前に出た。

 すぐにでも俺の胸に顔をうずめる事ができるような距離で、彼女が笑う。


「『私は、貴方の気持ちを尊重したい』って」

「…………」


 その笑顔を前に、俺は言葉を返す事ができなかった。

 俺の中にある不安をすべて払う不思議な力。シュルージュの時といい、そんなものをアイネの言葉から感じてしまう。


「凄いな。アイネは」

「え? な、なにが?」

「凄いよ」

「あ……」


 そんなアイネが愛おしくて、彼女の背中に手を回す。

 抵抗は無い。むしろ俺に寄りかかり体を預けてくる。


「ど、どうした……の……?」

「わからない……」

「ふふっ、うそつき」


 さりげなくアイネの手が俺の背中に回った。

 言葉が切れ、沈黙の中で彼女の温もりを感じること数十秒。

 

「ね、リーダー。さっき、場所を変えるだけって言ってたよね?」


 恥ずかしそうに微笑みながらアイネが顎を俺の胸に突きつけてきた。


「今こうしてるってことは……そういうこと、だよね?」

「…………」


 言葉が出ない。

 確信が無い。

 勇気が沸いてこない。


「否定しないんだ……そうだよね。ね、リーダー……」


 そんな俺を見てもアイネは優しくほほえんでくれた。

 だから俺はそのまま――



「あーっ! おにーさんじゃないですかっ!!」

「っ!?」



 聞き覚えのある背後からの声で、俺とアイネは一瞬の間で距離をとる。


 ――危なかった……


 あのまま流されていたら、もう確実に俺はアイネにキスしてしまっていただろう。

 流されるままキスしてしまうなんて――アイネは喜んでくれるのかもしれないけど、でも……


「シ、シラハちゃんっ! クレハちゃんもっ……」


 振り返ると予想通りシラハとクレハの姿があった。

 二人とも今日買った服を着ている。


「アイネおねーさんもっ! お世話様です。はいっ!」

「う、うっす……でも、なんでこんな夜遅くに二人がいるんすか?」

「えへへっ、買ってもらったお洋服で外を歩きたかったのです。はいっ!」

「明日からまた仕事だから……外でこれを着れる機会がいつくるか分からないので……」


 ばつが悪そうに苦笑いを浮かべるシラハとクレハ。

 まるで悪戯がばれた子供のようだ。

 と、そんな無邪気な表情に似合わないような言葉が次の瞬間クレハの口から出てきた。


「……驚きました。アイネお姉さんって、第二夫人だったんですね」

「えっ!?」

「だっこしてたじゃないですか。今」


 クレハの指摘に俺とアイネは絶句する。

 見られているとは思っていたが改めて言葉で指摘されるのはさすがに恥ずかしい。

 そんな俺達を見たせいだろうか。シラハが慌てた様子でクレハに声をかける。


「クレハッ! そーゆーことを言うのはデリカシーに反するんだよっ!」

「そう……ごめんなさい。お兄さん、アイネお姉さん」


 両手を前にくんで丁寧にお辞儀をするクレハ。


「いや、謝らなくても……えと……」

「ちょっ、ちょっとタンマ! 第二夫人ってどういうことっすか?」


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