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22話 間接キス?

 そこの見た目は楽器屋──というより陶器屋と言った感じだった。

 外から中にむけて様々な陶器が無造作に並べられている。

 来る所を間違えたかとも思ったがアインベルの書いてくれた地図によればここで間違いないとのことだった。

 

「ここかぁ。へぇ……なんかふーりゅーっすねぇ」


 アイネがコメントし辛そうに苦笑いを浮かべている。

 確かに、予想していたようなところとは違っていた。

 だが少し奥に進んでいくと楽器らしき物が並んでいるのが見えてきた。

 中でも多いのは笛類だ。どうやらここは陶器でできた楽器を売っている場所らしい。


「これ、普通に楽器ですよね……魔物から作ったって本当なのでしょうか……」


 スイが怪しげにその笛を眺めていく。

 それもそのはず。見た目は完全に普通の笛だった。


「まぁ全部魔物の素材ってわけじゃないと思いますけどね」


 俺はそう言いながら一つの楽器を手に取った。


「ん、それオカリナっすか?」

「はい。そうみたいですね」

「ふーん……ゴーレムの泥を使っているみたいですね」


 茶色のオカリナを三人でまじまじと見つめる。

 楽器が置かれていた場所にはその楽器の説明が書かれていると思われる小さな紙が置いてあった。

 ゴーレムは石や土でできた像の魔物だ。いろいろ上位種が存在する魔物だが、一番低レベルなゴーレムとはゲームでも俺は戦ったことは無い。防御力が高くHPも多いため経験値がまずい敵として知られているからだ。


「へぇ、このへんじゃゴーレムなんてみないっすからねぇ。なんとも……先輩は戦ったことあるっすか?」

「うん、下位種のゴーレムなら何度か見たかな。確かにこんな色だったと思う」

「ほうほう、ちょっと吹いてみていいっすかね」


 アイネが俺にむけて手のひらを差し出してくる。

 しかし、吹く楽器だし売り物に口をつけるのはかなりまずそうだ。


「さ、流石に買わないとだめだと思いますけどね……」

「じゃあ買ってくるっす。ちょっとまっててくださいねー」


 そう言うと俺からオカリナをすっと奪い店主の方へと走っていく。

 一瞬の出来事に、俺は少し唖然としてしまった。


「行動力ありますねぇ」


 二重の感心の意味をこめて俺はそう呟いた。

あそこまで鮮やかに手から物をとれるなら、アイネは盗賊の適正もあるのではないかと思ってしまう。


「ふふっ、そうですね。でも私も吹いてみたいなぁとか思ってたり」


 スイが照れ臭そうに笑顔を見せる。

 だが俺も少し興味はあった。リコーダーなら学校で吹いた記憶があるがオカリナのような楽器はそうそう目にしたことはない。


「おまたーっす。ね、ね……」


 そんな事を考えているとアイネが俺達のところへと戻ってきた。

 店の外を指さすアイネ。早速、吹いてみたいらしい。

 俺もスイも魔物の体からできた楽器がどんな音を出すのか興味があるのは同じだ。

 その意図を察知し、すぐに店の外に出る。


「よーし……すーっ……」


 外に出ると、アイネは大きく息をすいこんだ。そしてそのまま思いっきりオカリナを吹く。


「ぴぃぃいいいいいいっ」

「きゃっ! アイネッ、止めてっ、止めてっ!」


 ……当然、耳触りな高い音しかでてこない。

 スイが慌ててアイネの前で手を振り回す。


「うへー、変な音しかならないっすね。微妙っす」


 期待外れだ、と言いたげに苦い顔を浮かべるアイネ。

 しかしどう見ても吹き方を間違えているのだからその評価は早計だろう。

 とりあえずその点を指摘してみるか。


「いや。今、全力で吹きませんでしたか?」

「当たり前っす。いい音出したいし」


 ふんっと鼻息を出して胸を張るアイネ。

 思わず笑ってしまう。心意気は良いのだが方向性が間違っている。


「吹き方があるんですか?」


 ふと、スイが不思議そうに俺の方を見てくる。


 ──って、貴方も全力で吹くのが正しいと思ってたりしませんよね?


「俺も詳しくはないんですが全力で吹くのは違うと思いますよ」

「じゃあやってみるっす、ほい」

「……えっ?」


 アイネがオカリナを手渡してきた。


 ──え、今貴方口つけましたよね?


「あ、じゃあ俺も買ってきます? あ、お金が……どうしよう……」

「いや、ここにあるじゃないっすか。ほら、どうぞ」


 ぐいっとオカリナを差し出してくるアイネ。

 慌てて辺りを見回すがティッシュやハンカチが置いてあるわけでもない。


 ──どうしたらいいんだろう。どう考えたって間接キスじゃないか。


 こんな所を気にするのは俺が童貞をこじらせているせいなのか。


「アイネ……」


 と、スイは俺の意図を察してくれたようだった。

 少し顔を赤らめながらアイネに無言でだめだよっと視線を送る。


「……?」


 だがまるで伝わっていない。アイネは怪訝な表情で首をかしげるだけだ。

 かといって敢えてこの点を指摘するのもどうなのだろう。彼女は気にしていないみたいだし、過剰に反応するのはアイネ自身を嫌がっているように見えてしまうのではないだろうか。


 ──よし、言い訳成立。


「……わかりました、やってみましょう」


 なに。こう見えて俺は妄想の世界でなら女の子とキスをしたことは何度でもある。

 今更間接キスごときで慌てふためく男じゃない。


「あれ、大丈夫っすか? なんか新入りさん、震えてる?」

「ハハ、そんなわけなじゃないでしょう。こう見えて俺、イメージトレーニングは得意ですからね。ハハハ」


 ――無心だ。無心になるんだっ、俺っ!


 ついているかどうか分からない美少女の唾液の存在ごときで我が脳内の神経が崩れ去り精神の平穏が害されるなど愚の骨頂であり理性的な判断を保つことはそう難しくないはずで今から俺が鳴らすのは二人に安寧をもたらす最高の音色だ見てろ。

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