226話 興味
「ふぅ……今日は疲れましたね……」
食事を終え個室に戻るやいなや、スイは大きくため息をついてベッドに腰掛けた。
その直後、スイは少しハッとした表情になりながら自虐的にほほ笑む。
「って。なんかさっきもこんな事言いましたね、私」
「ははっ、そうだな。でもまぁ、今度こそ休めるからゆっくりしようよ」
「はい……」
そう言ってスイはぼーっと天井を見つめ始めた。
俺も傍のソファにこしかける。
そこから数分間。周囲を張りつめるような沈黙が支配した。
――わ、話題がねぇっ……!
最初はそうでもなかったのだが、次第に気まずさがどんどんと増していく。
おぼろげに周囲を見渡しながら時間を潰して誤魔化し続けるのも限界になった頃、俺は覚悟を決めてスイに話しかけた。
「あ、あー……そういえば、さ。さっきアイネと何話してたんだ?」
「え?」
スイが慌てて姿勢を正して俺の方にふり返る。
少し申し訳なく思いつつも俺は言葉を続けた。
「ほら、なんか耳打ちしてたじゃないか」
「あ……あっ!」
俺の言葉に、スイは顔を赤くしながらバタバタと足を動かして答える。
「いや、それはなんでもないです。なんでも」
「そ、そう……」
明らかになんでもない様子ではないのだが。
あまり答えたくなさそうなのでそこは触れないでおく。
「…………」
再び訪れる沈黙。
我ながら会話を発展させる事が下手すぎて呆れてくる。
「あ、あのー……?」
そんな俺に助け舟を与えてくれたのだろうか。
スイがおそるおそると言った感じで話しかけてきた。
「この服、リーダーの好みなんですか?」
「え?」
自分の胸辺りに手をおきながらおずおずと俺の事を見つめてくる。
スイのために選んだとはいいつつも俺が可愛いと感じるものを彼女に渡したのだ。
そのためスイの言う通りと言えば言う通りなのだが――それをあっさり肯定するというのも変に受け取られたりしないだろうか。
「凄く可愛いって本当ですか……?」
「えっ……」
「そう……言ってたじゃないですか……」
妙にやきもきした気持ちを抱きながら自問自答をしていると、少しスイが不安げな表情を見せる。
何かを言ってほしそうなその表情。スイがどんな言葉を求めているのかは流石に分かる。
「うん、可愛いと思う……」
「本当ですか?」
「……うん」
「…………」
半ば言わされるような感じになってしまっただろうか。
スイは半信半疑と言った感じで半目になりながら俺の事を見つめている。
――いや、二人きりの時にそんな事いうのは流石に恥ずかしすぎるんだって……
そう内心で訴えながら逃げるようにスイから視線をそらした。
「あ……あの、リーダー。私、一つ貴方に訂正しておかなければならないことがあります……」
「え?」
俺の視線を追いかけるように、スイがベッドから立ち上がり近づいてきた。
何を考えているのかとスイの顔を見上げる。
「あと……その、えと……えと……」
もじもじとしながら俯くスイ。
それはまるで想い人に対して告白をするような――
「た、多分なんですけどっ! わ、私ですね……」
そこで一度言葉を切り、大きく息を吸う。
――な、何を言うつもりなんだ……?
「私っ、あると思います! た、多分っ」
ジン、と一回空気が振動する。
僅かに流れる沈黙。ぎゅっと目を瞑るスイ。
その表情を見るに、覚悟をもってその発言をしたことは見て取れる。
「……え?」
だが、その意味は分からなかった。
あるとかないとか、まるで心当たりがない。
数秒程たって、スイも俺に何も伝わってない事がわかったのだろう。
慌てた様子で言葉を足していく。
「あ、えと。えと……その、アレです」
「ん?」
「興味です! 興味っ!! 貴方にっ」
勢いよく指をつきたてて宣言するスイ。
だがすぐに顔を真っ赤にして声の勢いが落ちていく。
「その……私、貴方に興味が無いとか前に言った気がするんですけど……違いますから……本当はあります……興味……!」
「あ、あぁ……」
――な、なんか肩すかしだな……
好きだとか言われるのかと思った自分が恥ずかしい。
「でっ、でも、その……わ、分からないんです……私、貴方の事……頼りにしてますし……その……気になったりするけど……でも、アイネの気持ちと同じなのか全然分からない……ど、どんな気持ちが……その、アレなのか知らなくて……」
スイの声の勢いがさらに落ちていく。
――これ、当たらずとも遠からずなんじゃ……
「で、でも……でもですね、その……あ、貴方の喜ぶことだったら……その、したいとは思ってます……本当に……」
「スイ? どうしたんだよ、いきなり」
「いえ、そのっ……」
視線を切ってスイが何かを考え込む。
「あ、あのですね! わ、私……今日も、貴方に助けられましたよね……?」
「え?」
「レシルから。貴方が居なければ、私は本当に死んでいたと思うので……」
「あ、あぁ……」
戦闘が終わってからも色々と長かったのであまり実感もないのだが。
律儀にお礼を言いなおしてくるスイを前に若干気恥ずかしくなって、俺は言葉を詰まらせる。
「だ、だからですね……そのっ……いを……」
途切れ途切れになりながら言葉を紡いでいくスイ。
自分を落ち着かせるように胸に手を当てながらすぅーと息を吸う。
「お礼っ! しますっ!! お背中流させてくださいっ!!」
――はい?