221話 奇遇
「わぁ……」
スイとアイネが試着室のカーテンから出てきた時、最初に聞こえてきたのはクレハの感嘆のため息だった。
それもそのはず。服を選んだ自分で言うのもなんだが今のスイは文句無しと言えるレベルで可愛らしい。
スイが露出度を高めた服にチャレンジしたいという気持ちを考慮してトップスは袖なしのものを選択。それでもあまり派手になりすぎないように色は清楚な白。
スカートも膝上まで短くして、スイが好きそうな穏やかな色のピンクを選んでみた。
シンプルだがちょっとした色気も兼ね備えたコーディネート。若干、男受け要素が強すぎるような気もするが――スイの表情から確かな手ごたえが感じられる。
「…………」
「はは……な、なんか言ってほしいっす……」
アイネがそう催促するが、すぐに俺達は声を出す事ができなかった。
アイネはセクシー系というかパンクな感じが好きな印象を受けている。
その通りのチョイスとは言い難いが最大限好みに反しないように配慮するため、だぼっとしたTシャツであまあま系になりすぎないように調整。スカートは可愛らしくふんわりしたベージュ色。おまけでアイネがおさげにしている髪用に黄色のシュシュを合わせてみたのだが――思った以上によく似合っている。
「凄いです! 可愛いですよ、おねーさん!!」
「そ、そうですか?」
「うん……お姉さんたち、素敵です……」
「あ、ありがとっ、シラハちゃん、クレハちゃん……」
今までクレハに滅多切りにされていた反動だろうか。
二人は物凄く恥ずかしそうに俯いてしまっている。
「うん……おにーさん、センスいい……それだけじゃなくて、ちゃんと相手の事考えてるのが伝わってきます……」
俺は俺で、クレハの尊敬の眼差しがかなりくすぐったい。
ゲームでキャラクリエイトをする時、女の子アバターを可愛くするのに必死になった事があるのだが――もしや、その時の経験が活きたのだろうか。
……それはともかく、あんまり黙っていたら二人が不安になるだろう。
照れ臭さを押し殺して俺は正直に思った事を告げる。
「二人とも似合ってるよ。凄く可愛いと思う」
「っ――!」
「……えへへ」
俺の言葉に二人が頬を緩ませる。
先ほど一瞬漂った不穏な空気はどこへやら。
俺達の間に再び和やかな空気が流れていく――
「たしかに可愛いですねぇ~、わたしも選んでほしいです~」
……はずだったのだが。
その声をきいた瞬間、スイとアイネが一気に表情を凍りつかせた。
「げっ!? エイミーさんっ!!」
アイネが上ずった声を出す。
その言葉通り、振り返ると妖艶にほほ笑むエイミーの姿が見えた。
エイミーはアイネの言葉を受けると、ふふんと鼻で軽く笑う。
「『げっ』ってひどくないですかぁ? 一緒に戦った仲じゃないですかぁ」
「一緒にって……よくいうっす……」
アイネは、エイミーから視線をそらしてぼやくように呟く。
――どうしたのだろうか?
どうもアイネはエイミーの事を嫌っているようにみえる。
一見して、アイネが好きそうなタイプではない事は分かるが少し嫌悪感を露骨に示し過ぎではないだろうか。
もしかしたらフルト遺跡でバラバラになった時に何かあったのかもしれない。
「あ、こんにちは! 今回はシャルル亭をご利用いただき、誠にありがとうございましたっ、はいっ!」
シラハが無邪気な声をあげるものの、アイネのピリピリとした雰囲気は変わらない。
それに対して一番敏感な反応を示すのはクレハだった。
さっと俺の後ろに隠れるように移動する。
「エイミーさん、奇遇ですね」
……とにかく、いつまでも無言でいる訳にはいかない。
アイネが苦手だというのならとりあえず俺が相手をして適当に話を切り上げるとしよう。
「奇遇っていうか、運命かもしれませんよぉ」
「は、はぁ……」
――と思ったのだが。あいにく俺はそんな話術を持ち合わせてなどいない。
にんまりと笑いながら唇をなめるエイミーを前に若干気圧されてしまう。
「ねぇ……こんなガキんちょ相手で退屈しない?」
「え?」
「もっと大人のデート、楽しみましょうよぉ」
そう言いながら俺の首に手をかけるエイミー。
ぞくりと走る鳥肌。反射的に一歩、後ずさりしてしまう。
「ちょっ、ちょっとエイミーさん!?」
そんな俺を守るようにアイネがエイミーの前に立ちふさがった。
露骨に嫌な顔をしながら返事をするエイミー。
「なにかぁ?」
「な、何かじゃないっすよ! いきなりベタベタして……!」
人差し指をつきつけながらアイネは口をぱくぱくと動かす。
俺と同じく、エイミーの唐突な行動に頭がついてきていないようだ。
そんなアイネの追撃をするようにシラハがアイネの横につく。
「エイミーさん、おにーさんは、おねーちゃんの王子様なのですっ! はいっ! だからそんなことしないでくださいっ!」
「横取り、しないでっ……」
――え、何言っちゃってんの!?