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220話 張り合い

 すぐに俺は気付いた。というか、気づかされた。

 俺の背後から漂う不穏な空気に。


「アハハ……リーダー君……」


 苦笑するトワの表情から、振り返るまでもなく、その正体は予想がつく。

 だからこそふり返りたくはなかったのだが──なぜだろう、まるで力づくで首をひねられているかのような感覚がする。

 そして、その感覚に抗えぬまま後ろを振り返ると──


「……リーダー、もしかしてウチにあんま興味ないっすか?」

「…………」


 二人の少女が、まるで親でもを失ったかのような悲しみの表情で俺の事を見つめていた。

 ぞくり、と背中に悪寒が走る。



 ──これは……もしかしなくても修羅場というやつでは?



 そう感じるのは俺が自意識過剰なせいだろうか。


「あ、あーっ! そうじゃないよアイネちゃん。ボクが選んであげたらって──」

「…………」


 いや、少なくともアイネに関しては違う。

 彼女はしっかりと俺に言葉を伝えてくれたのだから。しかも、デートの約束までしているのだ。

 そんな彼女を前にしながら他の女の子の服を選ぶというのは──やはり悪手だったか。

 何も言わない俺に、アイネがさらに不満を増したのか眉を吊り上げながら迫ってくる。


「リーダー、なんでさっきから──!」

「アイネ」


 だが、スイがそれを遮った。

 さっきの表情から一変し、穏やかな笑みに戻っている。


「シラハちゃん、凄く似合ってます。かわいいですよー」

「え、え……? ほんとですか?」

「はい。アイネもそう思うでしょ?」


 その朗らかな声色が逆に恐ろしい。

 一体何を考えているのか。探るようにスイの顔を見てみると目があった。

 すると、スイは困ったような顔をしながらふっと口元を緩める。

 ……これは、俺の気持ちを察してくれたということなのだろうか。

 少なくとも何か俺に向けて黒い感情を向けているようには見えない。

 さすがスイ――なんてできた子なんだっ!


「……まぁ、確かに可愛いと思うっすけど」


 ぼそり、と悔しそうにアイネが呟く。


「はいっ! おにーさん、選んでくれてありがとうございますっ!」

「あ、私も……ありがとうございます……」


 改めて、二人がぺこりとお辞儀をしながらお礼をした。

 この二人はさっき、スイとアイネが出した不穏な空気を察知していないようにみえる。

 それが逆に俺にとっては救いだった。


「あら、そちらお買い上げですかー?」


 と思ったのも束の間。

 待っていたと言わんばかりに店員が俺達に声をかけてくる。


 ──やべぇ……金、無いぞ……?


 散々、試着しておいて今更だが俺に手持ちの金は無い。

 だが、そんな俺の焦りが声に出るよりも前に、シラハは試着室の方から何かの袋を持ってきた。


「あ、じゃあこれお願いしますです。はいっ!」

「出る時にケンゾーさんがお小遣いくれたんですけど……足りるでしょうか……」

「では、確認させていただきます」


 いつの間にそんなことをしていたのだろう。

 そんな疑問を感じている間に、店員は手際よく袋の中から金貨を取り出していく。

 やけにニコニコしているのが少し怖い気がするが──さすがにそれは邪推か。


「はい。十分ですよ。それでは新品の物をお持ちいたしますので少々お待ちください」


 そう言いながら店員は俺達の前から立ち去っていった。

 その姿が俺達から見えなくなると、シラハは鏡の前でくるくると回りながらシラハに話しかける。


「えへへ、クレハ。これどこで着よっか」

「……私、部屋の中で着る」

「えーっ、ずるいよ! クレハ、私と仕事変わって!!」


 そんなふうにじゃれる二人は微笑ましい。

 微笑ましいのだが──


「…………」


 アイネの表情が硬いままだ。

 これを放置するのはいただけないだろう。


 ──仕方ない、覚悟を決めるか……


「アイネッ!」

「えっ」


 あれこれ考えても仕方ない。

 俺はアイネに近づくと肩をつかんで言葉を畳み掛ける。


「お、俺に──服を選ばせてくれっ!」

「ひえっ!?」


 ……なんか、若干怖がられているような表情をされているが。

 ここまで来たらゴリ押しするしかないだろう。

 半ばヤケクソになりながら言葉を続ける。


「ぜ、絶対、今よりもっと可愛くするからっ!!」

「っ…………」


 アイネは目をパチパチとさせながら俺を見ているだけで何を考えているのか分からない。

 しばらくの間、アイネの肩を掴みながら硬直する時間が続く。


「あ、あのー……私は? 見えてない、ですか……?」


 そんな中、スイが苦笑いを浮かべながら話しかけた。

 そこで俺は自分に皆の異様な視線が集中しまくっている事に気づく。


「あっ! 違うっ! そうじゃなくて、違うっ!」


 何が違うのか自分でも全く分かっていないが、とっさにそんな事を俺は口走っていた。

 するとアイネが俺の裾をつかみながら不満げに声を出す。


「違うんすか?」

「いっ!?」


 少し目を潤ませながらの上目使い。それがさらに俺の狼狽を加速させる。

 じっと、硬直しながらアイネの事を見つめること数秒間。


「あっはははは! リーダー、そんなテンパらなくてもっ」


 急にアイネが大声で笑いだす。

 その直後、ハッとしたようにアイネは口をおさえると悪戯が成功した子供のような笑みを見せる。


「すいません。ちょっといじけすぎたっすね」


 そんな彼女の姿を見て改めて確信した。


 ──この子、やっぱ子悪魔だ……


 とはいえ、アイネが怒っていないようで安心した。


「えっと、スイ……その……」

「大丈夫です、私も分かってますから。からかってごめんなさい」


 俺の言葉を遮ってスイは優しく微笑む。

 そんな彼女の姿を見て改めて確信した。


 ──この子、やっぱ天使だ…………少し今の恰好はやばいけど。


 ふと、アイネが俺の前に改めて立つと自分をアピールするように両手を前に広げる。


「じゃあリーダ、ウチらのこと可愛くしてくださいね!」

「あ、あぁ……任せとけ」


 少なくとも今着ている迷彩模様のジャージより可愛くなる服を選ぶぐらいのセンスは持ち合わせているだろう。

 そうでなくとも、俺に選んでほしいと期待している女の子が二人もいるのだ。

 いつのまにかオシャレな雰囲気に気圧されなくなっている自分に驚きつつ、俺は服を選びにいった。


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