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217話 試着

「えーっと、そっちいきますね……」


 奥の試着室に移動し、数分が経った頃。

 カーテンの向こう側からスイの声がきこえてきた。


「オッケー、じゃあいくっすよ! そらっ」


 それに合わせるようにアイネがバッとカーテンをめくる。

 ほぼ同時のタイミングでスイもおそるおそると言った感じで試着室から出てきた。


「……どうでしょうか?」

「おーっ! 可愛いじゃんっ!!」

「で、でもコレ、露出が……あう……」


 トワがびゅんびゅんと飛び回りながらはしゃぎだす。

 そんなトワから身を守るようにスイは両腕を抱きしめた。


 ──しかし、ヤバいなこれ……


 スイが着ていたのは派手な赤のワンピース──なのだがとにかく胸元が広く開かれている。

 そして両肩からサイドラインのシースルーレースのせいでどこを見てもスイの肌が目に飛び込んでくる。

 彼女の肌がここまで露出しているのを見るのは、初めてではないだろうか。


「おっ、先輩いい感じじゃないっすか」

「そ、そう……? あ、でもアイネいい感じだよ」

「んー、そっすかー?」


 あまりピンとこない表情でアイネは自分の服を見る。

 アイネが着ているのは黒のカーディガンに灰色のフレアスカートだ。

 スイの服とは対照的に露出は低く、普段のアイネの露出度から考えれば自然に受け入れられる。

 だが、だからこそアイネはあまり好みではなさそうだ。


 ──でも、なんで好みじゃない服を……?


「……あ、私達はお互いにお互いの服を選んでみたんです。その、自分で選ぶと似たような服ばっか集まるから……」


 と、そんな俺の疑問を見抜いたのだろう。スイが補足するように説明してくる。

 他方、アイネは──


「ねぇ……リーダー、こういう服にもドキドキするもんなんすか? あんま、肌とか見えてないのに?」


 そう言いながら俺の腕につかまってくるアイネ。

 ……これはわざとやっているのだろう。アイネの顔は若干赤くなっていて照れが隠せていない。


「アイネ、あんまリーダーを困らせないであげて……」

「アハハッ、スイちゃんは鈍いなぁ。男の建前に騙されちゃだめだよ」

「そっすよ。ほら、こんなに綺麗な肌してるんすから──ほらっ」

「う、うひぃっ!?」


 アイネがシースルーレースに指をつっこみスイの脇腹を撫でる。

 それに対し、からだをよじりながら抵抗するスイ。


「アイネッ! 変な所さわらないでっ! ただでさえスースーしてるのにっ……んあっ!」


 自分の声が妙に艶めかしくなってしまっている事に気づいたのか、慌ててスイが口を押える。


「だめっすよ先輩。そんな変な声出しちゃ!」

「んっ、じゃ、じゃあやめ──んぅっ!」


 ──なにやってんだ……?


 途中から彼女達の行動を思考停止で見てしまったのだが──

 流石にそろそろ周囲の視線が集まりはじめてきている。

 ここはリーダーの俺が彼女達の暴走を止めるべきだろう。

 それは分かっている。

 分かっているのだが、何故か俺の体も、視線も動いてくれなかった。



 ──何故だっ!



「あ、おねーさん達、早いですね。もう着替えおわったんですか?」


 俺が得体の知れない金縛りと格闘していると、シラハが試着室から出てきた。

 その恰好は先に彼女が着ていたものと同じようなメイド服だ。

 と、その姿を見てスイとアイネは動きを止める。


「あ、あれ? シラハちゃんはまだそのままなの?」

「へ?」


 トワそう話しかけるとシラハはきょとんと首を傾げた。


「わたし、着替えてきましたよ?」

「え……でも給仕服のままじゃん」

「はいっ! 給仕服の中からよさそうのを選びましたっ! 前に着ていたのとネクタイの色が違いますっ!」


 そう言って自慢げに首元の赤い蝶ネクタイを指さすシラハ。

 よくよく見てみれば青いメイド服という大まかな特著は一致しているが細かなディティールが異なっている。

 どうやら本当に着替えてきたらしい。アイネが深くため息をつく。


「……いや、いやいや。待ってシラハちゃん。そりゃあないっすよ」

「え?」

「せっかく服を買いに来たのに、同じような服買ってどうするのさ! レパートリー増やそうよー」


 トワがそう言いながら不満げに頬を膨らませる。

 まぁ、トワ程ではないにせよ俺も似たような事を考えていた。

 同じような服を揃えたいというのは分からなくもないが、それにしたってメイド服で統一するのはどうなのだろう。


「でもシャルル亭では給仕服が制服なのです。はいっ」

「制服じゃなくて私服を買いに来たんすよ!? もっと自由な時に着る服を選ぶんす」

「そう言われても……私、給仕服以外の服を着たことなんて殆どないのでよく分からないです。それにいつもお仕事ですし。はい……」

「あっ……」


 しゅんと俯くシラハを前に一転、アイネとトワは黙りこくってしまう。


 ──苦労してるんだなぁ……


 ケンゾーも働きづくめだと言っていた事を思いだす。

 まだ中学にもいかないような女の子が──


「あっ、クレハさん。着替え終わりましたか」


 と、雰囲気を切り替えるためだろうか。

 スイが明るい声色で俺の後ろにいる者に話しかける。


「……お兄さん」


 これまたいつの間にそこに居たのだろうか。

 クレハは隠れるように俺のコートにしがみついている。


「ど、どうでしょう……か……」


 俺の背後にしがみついているせいで視界に直接彼女をいれる事はできなかったが、近くには鏡がある。

 それを利用してクレハを見てみると──うむ、全然よく分からない。


「えっと、クレハさん? ちょっと一回離し──」

「あれー? クレハ、着るならこういう感じの服じゃないとシャルル亭で接客できないよ?」

「え? ちょっ……ちょっと……」


 俺が言葉を言い終わるまでもなく、シラハはクレハの腕をぐいっと引っ張って俺から引きはがす。

 急に皆の視線に晒されるような位置に出たせいだろう。クレハは顔を真っ赤にしながら小さく震えている。


 ──しかし、これは……


「いいんじゃないかな。凄く可愛いよ。優しい感じがする」


 自分で勧めておいてなんだが、クレハの服はとても似合っている。

 もう少し自然な笑顔ができれば小学生モデルだと言われても全く違和感が無い。


「ほ、ほんと……ですか?」

「うん。ミハさんみたいだ」

「……ふふっ」


 そしてその自然な笑顔は案外簡単に引き出す事ができた。

 その愛くるしさに思わず頭を撫でたくなってしまう。


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