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215話 女子空間

「へーっ! これは正直、驚きっすねー!」


 クレハの言う通り進み、その建物に入るとアイネが感嘆のため息を漏らした。


「……そうですね。カーデリーにこんなところがあるなんて知りませんでした」

「わ、私も入ったのは初めてです……」

「私もですっ、はいっ!」


 地味な外壁からは想像もできないような派手な内装。

 壁にはいくつもの色鮮やかな石が埋め込まれており、天井からは綺麗なランプがいくつもぶら下がっている。

 シュルージュギルド程ではないが、かなりの人の多さだ。ここもカーデリーギルドと同じく地下があるらしく見た目以上に規模が大きいらしい。

 

「アハハッ、でもトーラにも服屋さんはあったんじゃないの?」

「トーラの服屋はジジババ臭いのばっかしか売ってないんすよ。こういう若者向けの服はないっすねー」


 近くにある服に軽く手を触れながら、アイネがキラキラとした笑みをみせる。

 やはり女の子というのはこういうショッピングが好きなのだろうか。


 ──それにしてもこのリア充空間、背中がかゆくなるな……


 まさか、俺が自らシャレオツな服屋に来ることになろうとは。


「まぁ、客層が全然違いますからね。カーデリーはトーラより若い人が多いみたいですし」


 言われて周囲を見渡してみる。 

 なるほど、確かにここにいる人達は二十歳前後といったところでかなり若い。


「ほえー、おねーさん達はトーラってところからいらっしゃったのですか?」

「そうそう。でも地味ーな感じのところっすよ。この服は父ちゃんが外に行ったときに買ってきてくれたやつなんす」

「師匠……」


 自慢げに服をアピールするアイネと対照的に、スイはかなり苦々しい笑みを浮かべている。

 ……こういうセクシー路線がアインベルの好みなのだろうか。


「それはともかく……大丈夫か? アイネ」

「ん、なにがっすか?」

「ほら、前に人の多さでちょっと酔っちゃってただろ」

「あー。でもここ全然雰囲気も違うしあそこまで人多くないんで余裕っすよ。つーか、よく覚えてたっすね?」


 そう言いながらアイネが照れ臭そうに笑う。

 シュルージュギルドに入った時に少し気分が悪そうにしていたから心配だったが──どうやら杞憂だったらしい。


「とにかく、せっかくの自由時間──ちょっとはりきっちゃうっすよ」

「私も楽しみです。はいっ!」


 ぐっと構えるアイネとシラハに対してスイが苦笑する。


「あ、あんまはしゃがないように……他の方の迷惑になっちゃ──」

「ウチらなんて静かな方っすよ。ほらほらっ!」

「あ、ちょっと……」

「アハハッ! ぐずぐずしてると置いてっちゃうぞー」


 戸惑うスイ等なんのその。アイネはスイの手をひいて奥の方へと進んでいく。

 本当にここに初めて来たのかと疑いたくなるほど、手際良く人と服をかきわけ進んでいく女の子達。

 俺の視界から皆の姿が消えるまでそう時間はかからなかった。

 

 ──ヤベ、どうしよ……


 この雰囲気の中、ソロプレイを貫くのは正直辛い。

 しかも中途半端に彼女達を追いかけてしまったせいでレディース服の販売フロアに迷い込んでしまった。

 見渡す限りの女子、女子、女子。おしゃれな服を着こなす木製のマネキン。可愛くデコレーションされたシャンデリア。

 胸焼けしそうな程のファンシーな空間の中、俺は逃げるように周囲をさまよう。

 

「いらっしゃいませお客様。本日は彼女さんへのプレゼントですか?」


 そんな俺を見かねたのか、あるいはカモだと思ったのか。

店員がいかにも営業といった感じのトーンで話しかけてきた。


「えっ、あっ……はい……?」


 だぼっとした裾のグレーのセーターに水玉模様のスカート。

 マネキンが着ているものと同じ組み合わせの服を見事に着こなして、にこにこと笑う二十代前半と思わしき女性。

 真っ赤なリップが印象的で、一瞬厚化粧なのかと思ったが──これは女性受けを狙っているのだろう。 

 少し濃いと思われるようなチークも、つけすぎなのではないかと思うアイシャドウも、全体としてみると顔の立体感を見事に際立てており、女の子に受けそうなキラキラした感じの仕上がりになっている。


 そんな女性に、営業とはいえ満面の笑みを向けられてしまっては──


「う、あ、えーとですね……」


 変などもり声しか出すことができない自分に若干、自己嫌悪する。


「あらら、あのお客様のお連れ様だと思ったのですが、違いました?」


 ふと、店員があさっての方向に手を差し出す。

 その方向を見てみるとスイとアイネが服かけの向こうからこっちに向かって手を振っている姿が見えた。

 手を振りかえすと二人はにこりと笑って視線を下に移す。

 隠れて見えないがシラハとクレハと話しでもしているのだろう。

 そんなやりとりを見て、店員は声色を高くしながら言葉を続けた。


「やっぱりそうなのですね! なんて可愛らしい彼女さん達なんでしょう! 正直、あそこまで整った容姿の方々ですとどんな組み合わせでも可愛く見えてしまうんですよね。同じ女として嫉妬してしまいますわ」

「あ、あはは……」

「特にあの青い髪の子──もしかして、最近有名なスイさんですか?」

「えっ、それは……」


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