207話 戦い終えて
「あっははははははは! なんですかぁ~あれぇ~!?」
誰もが唖然とする中で最初に口火を切ったのはエイミーだった。
それに続くようにフレッドが失笑しながら声をあげる。
「彼女はある特殊な思想や信仰の持ち主なのかもしれないね。頭ごなしに否定するのはよくないことだとは理解しているがそれでも失笑を禁じえないよ」
「まさかあそこまでガキんちょだったとは思わなかったですぅ~」
エイミーのその言葉に妙な安堵感を覚えた。
やはり俺が知る妊娠の仕組みは間違いではないらしいし、俺が強姦魔だとも思われていないらしい。
「まったくだ。赤子はコウノトリが愛し合う男女のもとに届けてくるものだというのに」
「…………」
ノーマンはまぁ──おいておくとして。
とりあえず俺はスイとアイネのいる方に歩み寄る。
皆、気まずそうな笑顔を浮かべていた。
「……え、えっと……」
そんな中、リルトがおそるおそるといった感じで声をかけてくる。
ちらちらとゴーレムの方を指しており何かを言いたげだ。
その仕草から彼が言いたい事を察したのだろう。スイは気を取り直すように頷いた。
「では、とりあえずゴーレムの体を一部持ち帰ってみましょうか」
「そ、それがいいと思います……こ、このタイプは見た事がないので……」
エイミー達がてんやわんやしているなか、スイの態度に安心したのだろう。リルトはほっと胸をなでおろす。
そんな彼を前にスイはふっとほほ笑むと俺の一歩前のところまで近づいてきた。
「とにかくリーダー。本当にありがとうございました」
「あ、あぁ……」
にこりと笑いながら改めてお礼を言ってくるスイ。
だが、あまりにその笑顔が可愛くて若干声がうわずってしまった。
「また助けられちゃったっすね……ありがとう……」
そしてタイプが若干違うが同じようなレベルの美少女がもう一人。
少し照れくさそうに後頭部に頭を当てながら話しかけてくる。
「……あぁ。間に合ってよかったよ」
その真摯な声色は真っ向から向き合うのには少しまぶしすぎた。
思わずアイネの顔から視線をそらしてしまう。
「アハハッ、そんなに照れなくてもいいのに」
「照れてないって……」
当然嘘なのだが、ニヤニヤしているトワの言葉を肯定するのが癪なので子供じみた態度をとってしまう。
くすりと笑う二人の声。それに気づかないふりをしながら俺は周囲に視線を泳がす。
そんな雰囲気から逃げるためだけの行動だったが、俺はある事に気づいて声を出した。
「それにしてもここ……随分綺麗だな……」
「え?」
俺の言葉にアイネがきょとんとした顔をみせる。
「いや、随分激しい戦闘があったと思うんだけど傷が全然ついてないだろ。凄いなって思って」
「あ……」
俺の言葉にアイネだけじゃなくスイもハッとしたように目を見開いた。
この部屋というか、広間の外観は妙に真新しい。ここに入る前は遺跡というだけあってかなりボロボロの見た目だったし実際に中身もそんな印象があった。
しかしこの広間はどうだろう。周囲の石の壁は大理石を使った新築の建設物のように美しく光を反射しており歩くことをためらう程に傷一つついていない。
……本当に、傷一つ無いのだ。少なくともパッとみた感じでは。
「そういえば……ここだけ随分新しくみえますね」
「たしかに……」
スイ達も俺につられるように周囲を見渡しはじめる。
聞こえてきた衝撃音から察するに、ゴーレムとも激しい戦闘をスイ達はしていたはずだ。
この広間にきた瞬間にみたレシルの攻撃は広間ごと切り裂くようなものだった。
ここまで傷がついていないのは、あまりに不自然ではないだろうか。
「ちょっとこの部屋を見て回るっすか?」
アイネもそう考えたのだろう。
小さく手をあげてそう提案してくる。
「うーん……」
それに対しちらりとゴーレムの死体を見るスイ。
すると今度はスイの言いたいことをリルトが察してくれた。
「あっ……か、解体なら僕達でやりますので……調査をしたいなら、ど、どうぞ……」
「クッチャクッチャクッチャクッチャ」
──本当に解体するんだよな……?
リルトはともかく顎を上下に動かすポイドラを見ると彼女は解体ではなく食事を行おうとしているのではないかという不安がよぎってしまう。
とはいえせっかくの申し出だ。役割分担もできそうだし、そもそも俺に解体なんてできそうにない。俺はありがたくその言葉に甘えることにした。
「助かります。では見て回ってみますね。敵がいないかも確認したいですし」
「じゃあリーダー君、あっちの方みってない? ほら」
俺の襟をひっぱるトワに促されその方向を見る。
そこにはとってつけたような──それこそハリボテではないかと思うほど変な形で作られた木の扉があった。
「あれ、あんな扉あったんすか」
「私も気づきませんでした。妙な扉ですね」
薄暗い空間に加えてその扉はかなり小さい。
言われればかなり目をひくが言われなければずっと気づかなかっただろう。
素直にその注意力に感心する。
「よく気づいたな、トワ」
「えへへ。なんか気になってたんだ」
「じゃあそっち行ってみるっすか」
アイネの言葉に俺達は頷いて答える。
その扉に近寄ってみるとますます奇妙な感じが強くなってきた。
スイが眉をひそめながら上半身を軽く前に倒す。
「最近になって無理にとりつけたような感じですね。レシル……でしたっけ。彼女がこの遺跡に何かしたのでしょうか」
「とりあえず開けてみるっす」
「あ……」
一瞬、遺跡に入った時のようなトラップが作動しないか身構えたがそれは杞憂だった。
特に何事も起こることなく扉が自然に開いていく。
「……部屋?」




