205話 動きを封じて
「……た……つ……?」
かすれた声をあげながら、少女が俺を見上げてくる。
口をパクパクと動かしてはいるものの、うまく言葉が吐き出せていない。
「え?」
いったい彼女が何を言おうとしているのか。それを確認するため、じっと彼女の言葉を待つ。
そんな俺の意思を感じ取ったからだろうか。目の前の少女は一度大きく深呼吸をしてゆっくりと言葉を紡いでいった。
「貴方、レベルいくつなわけ……?」
恐怖と驚愕に満ちた表情で、震えた声を紡ぐ少女。
──これはどう答えればいいんだろう?
正直に答えてもバカにしているとしか彼女は思ってくれないだろう。
とはいえ嘘をつく程、頭が器用にまわるわけでもなく──
「……いくつに見える?」
そんなふうに聞き返してしまった。
それこそ、バカにされていると思ったのだろう。
少女の目が怒りに燃えていく。
「……このっ!」
「!?」
一瞬の間に、少女は俺の手をすり抜けて俺の背後に回り込む。
そのまま俺の方に振り向きバックステップをしながら大剣を十字に交差した。
「クロスプレッシャーッ!」
剣の軌道が黒く輝き、ごうごうとした音をたてながら俺に襲い掛かってくる。
「リーダーッ!」
その直後に届いてきたのはスイの悲鳴のような声。
それもそのはず。俺が振り返った頃には既にその光は俺の目と鼻の先にまで移動していたのだから。
少女の放った十字の光はそのまま完全に俺の体に直撃した。
「ハッ!」
爆発音の後、周囲に響いたのは得意気な少女の声。
だが──
「……なるほど。さすが、あの二人を追い詰めただけの事はあるな」
「っ!?」
その一撃も俺の命を奪うことはできなかった。
彼女の攻撃を見てスイやライルよりも格上なのはすぐに分かった。
だが、それでもレベル2400の体に傷をつけるには到底及ばないものだった。
「う、うそ……」
目を見開きながら唖然とする少女。
いや──少女だけではない。この場にいる殆どの者が信じられないと言わんばかりに口をぽかんとあけて俺を見つめている。
「なんでっ! たしかに直撃したはずじゃ……」
「まぁ、そうだな……」
「『そうだな』って!? なんで無傷なのよっ!!」
悲痛な声を出す少女を前に思考が停止してしまう。
すると──
「あっはははははは! さっきまで偉そうにしてたのに、もう撃沈ですかぁ~?」
離れた位置からエイミーが高らかに笑い声をあげる。
その見下しきった声色は少女を激昂させるには十分すぎる程苛立たしいものだった。
「く、このっ──」
案の定、少女はエイミーに向かい襲い掛かろうとする。
「待てって」
「うわっ」
俺は少女の手首をつかんでそれを制止した。
すると少女は思いっきり目を丸くして叫び始める。
「ちょっ!? な、なにやってんのよっ!!」
「なにって……」
「こ、この──! 離せっ!!」
顔を真っ赤にしながら力いっぱい腕を動かす少女。
だが当然、手を離すわけにはいかない。
「いや、離したら暴れるだろ」
「ふざけっ──このっ! このっ!!」
……どこか犯罪的な絵になっている気がするが。
それでも手を離すわけにはいかない。彼女が落ち着くまで手首をつかんで待ち続けることにする。
「ばーかばーか! 調子にのるからですよぉ~! ざまぁみろーっ!」
「貴様ああああっ!!」
だが、この状況ではいつまでたっても少女が落ち着いてくれることはなさそうだ。
エイミーの執拗な煽りに少女が声を荒げさせる。
──なんか可哀そうになってきたな……
「ちょっとエイミーさん。相手を挑発しないでください」
このままではいつまでたっても会話ができそうにない。
俺はエイミーの方にふり返りそう注意する。
するとエイミーはいかにもわざとらしく頬を膨らませて不満をアピールしてきた。
「えー!? だって最初にわたし達に攻撃してきたのはそっちですよぉ~?」
そういう彼女にフレッドが声をかける。
「ここは彼の言う通りにした方が賢明だといえるよエイミー。僕達の任務はここの調査だろう。彼女はどうやらこの一連の事件に関わっているようだし会話が進まない状況がいつまでも継続するのは決して好ましくない状況だからね」
「そんなことよりぃ、ちゃんとわたしにナマ言ったあの子におしおきする方が大事なんじゃないですかぁ?」
「当然だ! 貴様がエイミーを傷つけたというのなら許さんぞっ!!」
──だめだ、話しが通じそうにない……
目の前の少女には酷な気もするがエイミー達は放置することにした。
「……とりあえず、名前を教えてくれ。このままじゃなんて呼んだらいいか分からない」
「ふ、ふざけんなっ! 離せ、離せっ!!」
目に涙をためながら手を振りまわす少女。
──そ、そんな嫌?
若干、傷ついた気がしなくもないが俺まで冷静さを失ってしまっては埒が明かない。
とりあえず自分の名前を告げてみることにする。
「あぁ。悪い。俺から名乗るべきだったか。俺は──」
「知らない! 興味無いっ!! 離せっ!!!」
「そんな暴れるなって。何が起こったのか、ちゃんと話してくれ。ほら、傷は治すから」
「はぁ? えっ──」
自分の体を取り囲むエメラルドグリーンの光を見て、少女の動きが止まった。
ぱちくちと目を見開きながら俺の事を見つめなおしてくる。
「ちょっ、やっぱあんたって、完全無──!」
「もう痛くないか?」
「……ぅ」
少し顔を赤くしながら大人しくなる少女。
みるみるうちに戦意が衰えていくのがみてとれる。
「……な、なんなの、あんた。変わってるわね」