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203話 間一髪

 黒いオーラを消し去ったのは大量の黄金の火花だった。

 大量の火花が切り裂くようにオーラを消し飛ばし、その中心にいる紫色の髪をした少女を囲む。


「うああああっ!! うっ、あぅううう……」


 苦悶の声をあげる少女。


 俺が使ったのはスタンパリング。

 剣を装備した状態で物理攻撃を受けた時、その攻撃を無効化して相手をスタン状態にさせる剣士のスキルだ。

 それが決まったのを確認して、俺は安堵のため息をつく。



 ──あっぶねぇえええええっ!!



 詳しい状況は分からない。

 俺がこの場所に来た時には、一人の少女が黒いオーラを大剣に纏いスイとアイネに向かってそれをぶつけようと腕を振り下ろしていた。

 その時、彼女が詠唱したスキル名はダークネスブレード。

 闇属性が付与された巨大なオーラで超広範囲を薙ぎ払う必殺の一撃。

 俺がゲームで見た通りのエフェクトであったことも幸いし、なんとかその攻撃を無効化させる事ができた。


 ……しかし、一瞬でも遅れていたらどうだっただろう。

 このスキルはレベル150の敵が使ってくる大技だ。

 目の前の少女の容姿からは想像もつかないが、明らかに普通の相手ではない。



「リーダーッ!」

「っ!?」



 ふと、俺の腕に柔らかいものがぶつかった感覚が走った。

 すぐにその正体がアイネだと言うことに気づく。


「リーダー、リーダーッ!! う、うぁああっ……」

「アイネ……?」


 震える眉に強張った顔。潤んだ瞳のまま抱き着いてくるアイネ。

 涙を流しているようには見えないが──ほぼ、泣いていると言っていい顔だった。

 体の震えごと押し殺すような声をあげながら俺の胸に顔をうずめてくる。

 その耳と尾は彼女の内心を象徴するように激しく揺れていた。


「助かりました。ありがとうございます……」


 他方、スイはアイネとは異なり戦闘態勢を維持したままだ。

 この状況でも緊張を解かないのは流石というべきか。

 しかしそれでも、瞳の潤みまでは隠しきれていない。


「……ごめん、遅くなって」

「う、うぅっ……っ……」


 アイネの頭を軽く撫でる。

 彼女の震えと、スイの安堵の表情。そしてさっきあの少女が見せた攻撃。

 これだけ見れば、彼女達が後一歩のところまで追い詰められていたことがよく分かる。


 ──本当に危なかったな……


 心の中でパーティメンバーに感謝の言葉を述べる。

 フレッドの的確な案内が無ければ、この短時間でこのフロアまでくることはできなかっただろう。

 ジョニーも音の鳴る方向を正確に把握し、貢献してくれた。

 途中で出会ったリルト、ポイドラ、エイミーは二人が居る場所を教えてくれた。

 ノーマンは……とりあえずおいておくとして、彼らがいなければスイとアイネは間違いなく死んでいただろう。


「づっ……ぐぅっ、なんだ、お前はっ……!?」

「なんだお前はって……それ、俺の台詞でもあるんだけど……」


 目の前の少女にききたいことは山ほどある。

 だが最初にやるべきはスイとアイネを治療することだろう。

 特にスイにあっては口から血が滲み出ていてかなり痛々しい。


「ヒール……? えっ、まさか……」


 俺がヒールを使ってスイとアイネを治療していると、少女が驚いた表情をしているのが見えた。 

 とはいえ、それだけで戦意を喪失してくれるような敵ではないらしい。

 攻め込んではこないものの、じっと俺を睨みつけている。


「ヘイ、ユー!! つまらねぇライブ開いてたのはお前なのかっ!」


 そんな緊張状態に割り込んできたのはジョニーだった。

 俺の後から続くように入ってきた他の皆も、目の前の少女を睨んでいる。


「あぁ……? なんなの? 貴方達」

「正直な所、あまりにも一瞬すぎて正確に把握はしていていないんだけどそれでも予測は十二分につけることが可能といえるよ。君はいったい彼女達に何をしたんだい?」

「この声──あ、あいつですっ! あいつらが僕達をっ!!」

「クッチャクッチャクッチャクッチャ……」


 リルトとポイドラが少女を指さして叫んでいる。

 少女は彼らを一瞥すると、わざとらしくため息をついた。


「あんた達……なんで生きている?」

「あははははっ、リーダーさんが助けてくれたんですよぉ。あんまり調子にのってると痛い目あいますよぉ?」


 少女の問いかけにエイミーが勝ち誇ったように声をあげた。


「その通り! この筋肉を見て打ち震えるがいいっ!! さぁエイミーよ! 俺の後ろへ!!」

「リーダーさーん。わたしのこと守ってくださぁ~い」

「んぬううっ!?」


 ノーマンが鬼のような形相で俺のことを睨んでくる。

 放っておくとめんどうなことになりそうだが……それを止めてくれたのはフレッドだった。

 ノーマンよりもさらに前に出てエイミーに声をかける。


「駄目だよエイミー。彼は今、あの敵と戦おうとしているんだ。迂闊に距離を近づけては君の命が危険だ。大丈夫、僕達の近くにいれば少なくとも君は安全だからね」

「…………」


 だがエイミーは俺に黄色い視線を送るだけでフレッドに反応しない

 そんな彼女のことを心配するようにフレッドはもう一度エイミーに声をかける。


「エイミー?」

「分かりましたよぉ~……」


 億劫そうに口をとがらせながらエイミーを下がる。


「リーダーさーん。がんばってぇ!!」


 と思いきやすぐに黄色い声援を送ってくるエイミー。

 正直、彼女のことは昨日のこともあり苦手意識がある。

 とはいえ無下にするのも気まずくて結局苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 すると少女は、不快感を表しながらエイミーに声をかけてきた。


「あんた、さっきはビビッて何もしなかったのに随分余裕じゃない。何考えてるわけ?」

「はいぃ?」


 それに対して、わざとらしく体を大きく倒して耳に片手を当てるエイミー。

 その煽りが効いていることは少女のひきつった顔を見ればよく分かる。


「わざわざ大勢の人間を連れて戻ってくるなんてね。相当死にたいのかしら」

「えぇ~? 驚きですぅ。この状況でまだ自分が勝てると思っているんですかぁ?」

「この状況? どの状況?」


 失笑しながら周りを見渡す少女。


「まさかとは思うけどあんた……数の差で有利がとれてると思ってるのかしら? だとしたら本当にバカね」


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