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198話 魔剣技

「へぇ、やっぱり普通じゃないわね。あんた」

「がっ……っ……」


 ――紙一重。

 本当に紙一重というところで、仮面の女の剣はスイの首に届くことなく弾かれた。

 それでもスイは重傷を負ったかのごとく表情を歪める。


「この重さっ──! あ、貴方は……」


 剣を左手に持ち替えてスイは右手を胸の前で軽く握る。

 その一撃だけで十分、彼女は知る事ができた。



 ──この人は……ライルさんよりも強いっ……

 


「先輩っ!」


 次にスイが認識したのはアイネの悲痛な叫び声。


「いきなり不意打ちなんていい度胸っすね。容赦しないっすよ!」

「だ、だめっ、アイネッ! この人は──」


 そのスイの言葉はアイネに届かなかった。

 歯を食いしばって拳を振り上げる。


「ラアッ!」


 突進の勢いと上半身のひねりを加えた必殺のストレート。

 剣をスイに向けているため無防備な彼女の体に、それを叩き込むことは容易な事だった。



 ……それが普通の敵ならば。



「ふぅん……」

「っ!?」


 ──消えた……?


 ハッ、とアイネが息をのむ。


「こっちも今までのよりはマシね。そこそこやるじゃない。でも──」


 アイネは、その動きを認識する事ができなかった。

 気づいた時には仮面の女は宙に浮き、アイネの上をとっていた。

 仮面の向こうにある瞳が不気味に笑ったように見えたのは、ただの錯覚ではないだろう。

 自分に明確に向けられた攻撃の意思。だがそれを回避する事などできるはずもない。


「あんたは遅すぎるわ」


 ぐるりと体を半回転させながら、彼女の足がアイネの背中に向かう。

 それを拒もうとスイが剣を挟もうとするが──間に合わない。


「づああっ!?」


 背中に受けた蹴り。

 その痛みでアイネが表情を歪ませるよりも前に、アイネの体は壁に叩きつけられていた。

 その圧倒的な体術に、その場にいた誰もが顔を強張らせる。


「アイネッ!」


 悲鳴のような声色でアイネを呼ぶスイ。

 スイは予想していた。アイネが攻撃をしかければ、必ず彼女の反撃を受けてしまうことを。

 だが、それでもただの体術でここまでの被害を受けるとは想像もできなかった。


 ……一瞬、スイは体を震わせる。

 荒くなりそうな呼吸を抑え、改めて剣を握りなおした。



 ──この人、普通じゃない……!



 このやりとりで、スイははっきりと認識した。

 彼女は、とても自分が勝てる相手ではないのだと。

 今、自分達が行っているのは攻防なんて呼べるものじゃない。


「で、あんた達はどうするのかしら?」


 そう言いながら仮面の女はリルト、ポイドラ、エイミーの三人の方に体を向けた。

 含んだ笑い声が仮面の向こうから聞こえてくる。

 攻めてこようとしない彼らをあざ笑うかのような声色。


「チョーウォチャアチャウオグォ!」

「えっ──だ、だめっ!」


 そんな彼女の挑発に対し、最初に乗ったのはポイドラだった。

 その豊満すぎる肉体からは想像もつかない程に素早く剣を抜き、彼女に肉迫する。

 スイが注意を呼びかけた時には、ポイドラは既に剣を抜き、仮面の女に向かってそれを振り下ろしていた。


「ポイドラッ、だめだ──そんなにしたら……また出ちゃうよおおんっ!!」


 ポイドラが前に出た瞬間、リルトが恍惚な表情を浮かべながら銃を放つ。

 だが──


「なるほど。こいつらは今までと同じで微妙と。ていうかキモいわね」


 全ての弾丸は、彼女が振う大剣によってあっけなく弾かれてしまった。

 その動きは、ポイドラやリルトが目で追うこともかなわない。


「あんまり触りたくないけどっ──」


 失笑を混ぜながらそう言うと、彼女は拳をポイドラの腹に抉りこむ。

 

「ゴチャアアッ!?」

「それっ」


 動きを止めたポイドラの剣を奪い、彼女を蹴り飛ばす。

 そしてその剣を回転させながらリルトの方に投げ飛ばした。

 

「う、うそっ……ポイド──ゴフッ!」


 あまりに唐突に、かつ素早く自分に向けられた反撃にリルトは全く対応できない。

 彼女が投げた剣の柄が、リルトの脇腹に命中。そのままリルトはうずくまる。


「な、なな、ななっ、なななな……」


 その一連の動きにエイミーは体を震わせるだけだった。

 何も攻撃に転ぜず、何も防御しようとしない。


「……んで、アレは論外か。しょーもないわね。楽でいいけど」


 そんなエイミーに仮面の女は失望したようにため息をつく。

 その露骨に見せた隙をスイは逃そうとはしなかった。


「やあああっ!!」

「フッ──」


 しかしスイの剣は空を虚しく切る。

 スイの剣がそうなることは、あらかじめ予想していたと誇示しているかのように、仮面の女は挑発的に手招きをしはじめた。


「貴方は──貴方はっ、一体何なのですかっ!」


 一歩、前に足を踏み出して剣を薙ぐ。

 それを両方に伸びた鍔で受ける仮面の女。

 すかさずハイキックで反撃する。


「だからそれに答える必要なんてないでしょっ! あんた達はここで死ぬんだから」

「くっ!?」


 とっさに腕で頭をガードするスイ。

 しかし、その勢いを完全に抑えることはできず、ぐらりと体が大きく揺れる。

 その隙をついて、仮面の女が拳をスイの腹部へと打ち込んでいく。


「ったく。手間かけさせないで、さっさと死んでくれる?」

「お断りですっ!」


 だが、それは届かない。

 なんとか体をひねって剣の刃を体の前に出すスイ。

 それによって減殺された拳の勢いは、スイを大きく押し出すものの、彼女を転倒させるには至らなかった。


「みなさんっ! 逃げてくださいっ! この人──とてつもなく強いっ!」


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