197話 合流へ
「このような事から僕達が現在立つこの場所はフルト遺跡の地下二階であると言う事が認識できるわけだね」
そう言うと、フレッドは自慢げに口角をあげながら手に持った地図を軽く叩いた。
彼らと合流した後、俺達は周囲を移動し地形を把握していた。
そして俺達の中で一番早く現在地を特定したのがフレッドだったのだ。
「……凄い。随分慣れているんですね」
思わず、ため息をつく。
フルト遺跡の地図は昨日の夜に何度も見たのだが──俯瞰した視点でのゲーム画面ならともかく、リアルの世界で自分がその場所に行ったか否かの差は大きい。
俺だけではこんなに素早く今自分が居る場所を特定することなど到底不可能だっただろう。
「無論だ。何のために僕達がここにいると思っているんだい。僕がここに来るのは初めてのことじゃない。そこの筋肉バカはともかく、ここら辺りの地理を把握するなんて普通のことなのさ」
なるほど。たしかに調査隊としてハナエが選抜しただけの事はある。
その自信に満ちた口調には素直に頼もしさを感じてしまう。
「流石ですね。早く合流できてよかったです」
「それはオレ達の台詞だぜリーダーッ! どうだ、オレをファンにするつもりはねえか!?」
「えっ、はい? あなたが……えっ?」
唐突にかけられたその台詞に困惑し、苦笑する。
一方、ノーマンの方はそんな事に興味が無いと言いたげに淡泊に声を放った。
「ふむ。して、エイミーはどこにいるのだ?」
「それが分かったら苦労しないよ。でもこうなった以上、皆入口に向かって移動しているだろうからね。僕達も妙な行動はとらない方がいいだろう」
「何っ! では貴様はエイミーがここで死んでも構わぬというのかっ!!」
「君の筋肉で構成されている脳がどのような思考経過を経てその結論を導いたのかは不明だが敢えて簡略に一言で言葉を返すとするのであれば、君はバカだね」
「んぬううううう!」
「まぁまぁ、ここは落ち着こうぜ。オレがバラードでも弾いてやろうか?」
──仲良いな、アンタ達……
喧嘩する程仲が良いとはよくいったものだ。
言葉では言い争っているもののなぜか険悪さをそこまで感じない。
そんな彼らが少しうらやましくて、しばらくの間その様子を見守っていると──
「ね、ねぇ? なんか音がきこえてこない?」
トワが俺の頬をちょんちょんとつついてきた。
「音? きこえるか?」
「うん。多分下の階から」
「下?」
そう言われても三人達が騒いでいるせいか、俺にはそれを認識できない。
それを把握したのか、トワが三人に向かって声をかける。
「ね、ねぇっ! ちょっと静かにしてっ。音がきこえるんだけど」
「ん……?」
それに気づき、三人は一気に口を閉ざした。
今までよりも一気に静かになったためか、余計に沈黙が際立ったように感じる。
だが──
「なんだ? この音は」
注意して耳を傾けてみると、確かにドン、ドン、という音が地面の方から聞こえてきた。
明らかに人為的に生み出された衝撃音のような音。それに伴い僅かに足に振動が伝わってくる。
──下の階で何かが起こっている……?
心当たりがあるか、とフレッドに視線を向ける。
「地震──なんて考えるのは愚かだよね。戦闘が始まっている可能性を考慮した方がいいだろう」
「んぬっ! エイミーに危険が!?」
……エイミーかどうかはさておき、誰かが戦闘をしているとなれば見過ごすことはできない。
そもそも本当に戦闘が行われているかどうかも不明だが、それでも無視するにはあまりに不気味な音だった。
どうやら先に入口に戻るという選択肢は潰れてしまったらしい。
「分かりませんけど、急いだ方がよさそうですね。フレッドさん、下の階までの道を覚えていますか? できれば先行してほしいんですが。護衛はしますので」
銃士を先行させるというのはあまり良い選択とはいえないだろうが彼が一番の適任者な気がした。
俺がそう話しかけると、フレッドが前髪をこれみよがしに撫で上げる。
「無論だ。先も言った通り僕はこの遺跡探索の経験があるからね。また転移系のトラップがあったら厄介極まりない事は確かだが僕の記憶が君の役に立つのであれば光栄極まりないことだよ。ノーマン、ジョニー、君達もリーダーの提案に対して異議を申立てたりすることはしないだろうね?」
「当然だっ! オレらの熱いソウルを届けにいこうじゃねえかっ!」
「待ってろエイミー! いま俺がいくぞおおおおっ!」
「これは珍しい事だね。僕達の意見が完璧に合致するなんて。でもそんな奇跡のような事象に胸を打たれている暇は、今は無いようだからね。全力で走るとしようか。ついてくるといいっ!」
どうやって話しているのか疑いたくなるほどの早口でそう叫びながらフレッドが走りだす。
それに続き走り出す二人。俺もそれに続こうとしたが──
「あ、忘れるところだった……」
ふと、俺はコートの中からオカリナを取り出した。
トワが怪訝な表情を向けてくる。
「……ん、どうしたの? リーダー、そんなもの取り出して」
「あぁ。念のためだよ。大丈夫。走りながらでもできるから」
──頼む、届いてくれっ!
そう強く願いながら、俺はオカリナに口をつけた。