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196話 仮面の女

 そのあまりに高圧的な態度に、アイネは口をぱくぱくとさせる事しかできていなかった。

 そんなアイネを前に、エイミーは胸をわざとらしく張って人差し指を煽るように振る。

 しかし──


「クッチャクッチャクッチャクッチャ」


 勝ち誇るエイミーに水を差すように、その咀嚼音が鳴り響く。

 ゴーレムが倒れた事で周囲はかなり静かになっている。

 だからこそ、その音はいつもよりはっきりと、他の人間の耳に飛び込んできた。


「あーっ、うっさいのよアンタ!! ちょっと黙ってなさいよ」

「クッチャクッチャクッチャクッチャ」


 エイミーの声などどこ吹く風。

 いつの間にか取り出した新たな食べ物を淡々と食べ続けるポイドラ。

 そんな彼女にエイミーは頭をかきむしりながら喚き散らす。


「もぅ最悪っ! 変な所に飛ばされるし、きもいブタ女と一緒だしぃ。どうせならリーダーと合流すればよかったのにっ! もう無茶苦茶よぉっ!」

「ムッチャクッチャムッチャクッチャムッチャクッチャ」

「アンタ、ふざけて──うげっ!?」


 ポイドラを突き飛ばそうとして──エイミーはすぐに手をひっこめる。

 その原因は、顎から滴るポイドラの涎だ。


「さ、最悪よっ! 最悪っ! 最悪っ!!」


 エイミーは顔を歪めながら自分の弓に八つ当たりをしはじめる。

 そんな彼女に、スイは呆れたようにため息をつくと、リルトに視線を移した。


「このゴーレムは変異種ですか? とても普通のものにはみえないのですが」

「そ、そうみたいです……少なくとも普通のゴーレムより遥かに強いですね……ポイドラと二人がかりでも押されっぱなしでした……」

「それはアンタ達が弱いからじゃないのぉ?」


 いやみったらしくエイミーが口を挟んでくる。

 それに対し、アイネは眉をひくつかせながら反論した。


「ちょっと。そういう言い方はないんじゃないんすか?」

「なによ。事実競り負けてたんでしょぉ?」

「そうだとしても何の手助けもしなかったアンタにそんな事言う権利あるんすか?」

「はぁ? わたしを守るのがアンタの仕事でしょぉ!? 口出しするのは当然じゃないですかぁ」

「へー、じゃあアンタの仕事は足手まといになることなんすか。ほんっといいご身分っすね」

「あぁ!?」


 エイミーがアイネの肩を突き飛ばそうと手を伸ばす。

 だが相手は肉弾戦に特化したクラスだ。それを黙って受けてあげる程アイネは優しくはない。

 エイミーの手首を素早くつかむと思いっきり睨み付ける。


「なんですかぁ。それが年上に向ける目つきですかぁ?」

「……あんまり調子にのらないほうがいいっすよ? ウチ、先輩程優しくないっすから」

「なるほどぉ。随分と生意気なんですねぇ、アイネちゃんは。そういうのが可愛いって勘違いするお年頃なんでしょうかぁ?」

「このっ──」


 ほぼ反射的にアイネは拳を振り上げる。

 だがそれがエイミーに打ち付けられることはなく、アイネは身を震わせながらもなんとかそれをおろした。

 そんな一触即発の空気の中、リルトが怯えたように声をあげる。


「あ、あの……そんなに喧嘩しないで……確かに、僕は弱いので……」

「そんなことないです。ハナエさんも現在ギルドに居る中でレベルの高い者を選んだと言っていたじゃないですか」


 そう言ってスイはリルトに優しく微笑みかける。

 だがそれも一瞬のこと。すぐに表情を険しくしてスイはアイネとエイミーに視線を移した。


「とにかくエイミーさん。仲間割れを誘発するような発言は控えてください。アイネもお願い、我慢して。今はそんなことをしている状況じゃないから」

「……はい」

「なによ、別にわたしは……」


 何か言いたげに唇をとがらせるエイミーだったが、耳を垂らせて落ち込むアイネの姿を見て溜飲が下がったのだろう。特にそれ以上反論する事はなかった。

 それを確認し、ほっと一息つくとスイは話しを続ける。


「私もあのゴーレムは普通のそれより強いものだと感じました。いくら物理防御に優れたゴーレムとはいえ、三度スキルを使っても倒せないというのはおかしいです……」

「それ、嫌味のつもりでいってるのぉ?」

「えっ?」


 ふと、エイミーに投げかけられた言葉にスイはきょとんとした顔を見せる。

 だがすぐにその言葉の意味を理解したのだろう。スイはぺこりと頭を下げた。


「……すいません。配慮が足りませんでした。ですが見た目も普通のゴーレムとは明らかに違いますよね」

「まぁ……たしかに、あんな敵は見た事ないですねぇ……」


 スイが素直に謝っただろうか。エイミーがスイの言葉に同調する。

 アイネはそれを見て複雑な表情でため息をつくとゴーレムの死体を指さした。


「とりあえずあのゴーレムの事は報告確定っすね。もしかしたらゴーレムが増えた原因が分かるかもしれないっす」




「あら、それは面倒ね」




 ふと、その場に聞きなれない声が響いた。

 ゴーレムの死体の後ろから、この場にいる者ではない誰かの声が聞こえてくる。

 声からしてその主は女。それもかなり若く高めの声。


「誰っ!?」


 いち早く反応したのはスイだった。

 すぐさま剣を構え直し、声のした方向を睨みつける。


「誰……ですって? 答える必要があるのかしら?」


 その言葉と共に、声の主はゴーレムの死体の上に姿を現した。

 黒いローブと顔全体を覆い尽くす黒の仮面。自分の身体的特徴を隠そうとする服装には似つかわしくないあまりにも大きな黒ずんだ銀の剣。


「人っ!? い、生き残り……?」


 リルトが困惑した表情で声をあげる。

 だがそうではない事は、彼以外しっかりと認識していた。

 目の前の人間が先行した調査隊の生き残りであるならば、今彼女が放っている殺気について説明することができない。


「……答える必要が無いとは、どういう意味ですか?」


 スイはごくり、と喉をならして剣を握る手の力を強める。

 仮面の向こうから、その姿をあざ笑うような息遣いがきこえてきた。


「質問してくる割には察しがついているようじゃない。多分、あんたの思っているとおりよ」


 大剣を肩に掲げ、その女はゴーレムの体から降りてくる。

 そして腰を落としたと思いきや──


「あんた達には、ここで死んでもらうわっ!」


 彼女はそう叫びながら、スイ達に向かって突進をしかけてきた。


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