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195話 咀嚼

 アイネの気力を纏った掌底はゴーレムの頭に大きなヒビをいれた。

 その直後、ゴーレムの体から噴き出るマグマが異常を示す。

 内側で何かが爆発したような動き。確実にアイネの一撃はゴーレムにダメージを与えていた。

 しかし──


「……だめっ、先輩っ!」


 それでもゴーレムは倒れない。

 すぐに体勢を立て直し、アイネにターゲットを移す。

 空中から着地をしようとしているアイネは反撃をするには絶好の無防備状態だ。


「大丈夫!」


 だがそれを認識しているのはゴーレムだけではない。

 そもそも、この連携をするにあたってこうなることは最初から予想していたことだ。


「クロスプレッシャー!」


 ゴーレムの拳はスイの十字斬りによって食い止められた。

 その軌道が黒く輝き、ゴーレムの拳を押し返す。

 これはゴーレムにとっては予想外だったのか。慌てて片方の足を後ろに下げるものの、攻撃を耐え切れず尻餅をついてしまう。


「ヒートストライクッ!」


 その隙をスイが逃すはずもない。

 剣を赤く光り輝かせ、ゴーレムの足を薙ぎ払う。

 耳をつんざくような衝撃音の中、ゴーレムがのた打ち回る。

 ……しかし、こうまでしてもゴーレムはその活動を停止しない。


「アイネッ、トドメをっ!」

「了解っす!」


 とはいえここまでダメージと、そして何より時間を稼げば勝利を得るには十分すぎた。

 着地したアイネは、既に練気をかけなおし次の攻撃の準備を終えている。


「地襲崩獣拳!」


 体をねじりながら右腕を振り上げる。虎の頭のようなオーラがアイネの腕を纏う。

 それを金色に輝かせながらアイネはゴーレムに肉迫。


「ラアアアアアアアアアアアアアッ!」


 渾身のアッパーがゴーレムの脇近くに命中。

 オオオオンという、悲鳴のような不気味な衝撃音が鳴り響く。

 そして──


「……お、終わりっすね!」


 息を切らしながら膝をつくアイネ。

 ゴーレムの体を纏っていた紫色の輝きが失せ、噴き出るマグマも動きを止める。

 その様子を数十秒ほど見つめ、何もないことを確認すると、スイはほっと息を吐いた。


「お疲れアイネ。助かったよ」

「は、はは……そんな余裕そうな顔で、よ、よくいうっす……」

「そんなことないよ。私には相性が悪い相手だったから」

「へへっ……そ、それは分かってるっすけど……はぁっ、はぁっ……」


 地襲崩獣撃はアイネの持つ中で最強の威力を誇る技だ。

 その分、消費する気力も大きく彼女にとっては負担が多きい。

 とはいえ、アイネの表情は誇らしげだった。


「た、助かったぁ……あ、ありがとうございます……」


 よろよろとした歩き方をしながらリルトが二人に近寄ってきた。

 その安堵と感謝に満ちた表情を見て、少し照れくさそうにスイは返事をする。


「はい。お怪我はありませんか?」

「は、はい……僕は大丈夫です……でも、ポイドラが……」

「あっ、そうでした!」


 ハッと息を吸い込むとスイはポイドラの方に駆け寄った。

 致命傷は無いものの体の傷は軽度とは言えない。それに、自分が結構乱暴に振り回してしまったこともある。


「グチョオ、クチュアァ、グッッチャア……」


 四つん這いになるポイドラは口の中に含んだ食べ物ごと、涎をべたべたと垂らしながら息を整えている。

 ……それは言葉を選ばなければあまりに醜くて、あまりに汚らしい──なかなかに見る者に強烈な印象を与える姿だった。しかし、彼女が苦しんでいるのもまた事実。


「ポイドラさん、ハイポーションです。それなりに体力回復ができるかと」


 スカートの中からポーション瓶を取り出し、それをポイドラの口に当てる。

 するとポイドラは瓶を丸のみするような勢いでそれを咥えこんできた。

 それにビクリッ、と体を震わせるものの、これがポイドラのポーションの飲み方だと気づいたのだろう。すぐにスイは穏やかな笑みを浮かべる。


「……クチャ!」


 ポイドラがニタリと口角を上げると、顎にこびりついた脂肪がぷるりと震える。

 どうやらかなり効果があったらしい。ポイドラは素早く体を起こし、顎を上下に動かし始めた。


「あはは。元気になったようでなによりです」


 その汚い咀嚼音に苦笑いを浮かべながらも、その様子にスイは安堵する。

 だがそれに異議を唱える者が一人いた。


「ちょっとぉ! いつまでそんなブタを相手にしてんのよぉ。まだ安全なところに着いた訳じゃないんでしょぉ? ちゃんと、わたしを守ってよぉっ!!」


 キンキンとした金切声をあげるエイミー。

 そんなエイミーの言葉に、アイネはダンッ、と地面を足で叩いた。


「もーっ! エイミーさんはちょっと黙っててほしいっす!! なんでアンタだけ戦わないんすか」

「はぁ!? だってアンタ達助っ人でしょぉ? わたしを護衛するのが仕事なんじゃないのぉ?」

「んぐっ、それは──」


 言葉を詰まらせるアイネを見て、エイミーは勝ち誇った表情を浮かべる。


「自分の仕事をちゃんとしないのに説教するとかぁ。ほんと何様なんですかぁ?」

「こ、このっ──!」


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