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194話 コンビネーション

 その場所は他とは違い、やけに真新しい外観になっていた。

 ぱっと見ただけでは傷を全く認識できない淡い灰色の石の壁は、アーチ状の石の柱にぶらさがったランプの炎の光を不気味に反射している。


「駄目だよポイドラッ!! 僕達の力じゃ無理だっ! あああっ!!」


 そんな空間の中でリルトが背中を反らして叫んでいた。

 両手には二丁のマシンガン。彼の叫びに呼応するようにその銃は弾を次々に吐き出していく。

 その前には顎が外れているのではないかと疑う程に、顎を上下に動かして肉のようなものを食べ続けるポイドラが、剣で対峙する敵の攻撃を防いでいる。


「クッチャゲプォゴッチャムッチュゴチョアァアア」


 ……いや、防いでいるというより耐えているといった方が正確だろう。

 彼女が一噛みするよりも早く、その剣はボロボロに砕けてしまっている。

 それに抗うようにさらに素早く、さらに激しく咀嚼を続けながら剣に力をこめるポイドラ。


「んああああっ!! そんなに食べるなんて……ポイドラアァッー!!」


 気色悪い咀嚼音が鳴る度に、リルトが体を痙攣させる。

 それはまさしく性的絶頂を迎えた男のようなもので──



「……何やってんすか、あの人」



 一見するとふざけているようにもとれる彼らの言動。

 それを目の当たりにしたスイとアイネは一瞬、眉をひそめて嫌悪の感情を露わにする。


「さ、さぁ……でもっ」


 とはいえ、その状況はいつまでも呆けている事を彼女達に許してくれなかった。

 リルトとポイドラが対峙しているのは、体の中心部からマグマのようなものを吹き出したゴーレム。

 それはカーデリーに来た時にスイとアイネが遭遇したものよりも大きく、手には斧を持ち、そして体の岩が紫に不気味に輝いている。

 そのゴーレムはリルトが放つ弾幕を受けながらも、怯むことなくポイドラに攻撃を放ち続けていた。


「ちょっとぉ! 置いてかないでよぉ! アンタ達助っ人なんでしょ? 責任もってわたしを守りなさいよぉっ!!」


 そんな緊迫した状況には全く似つかわしくない声色で、新たにその空間に入ってきたのはエイミーだった。

 アイネの肩を乱暴につかみ、不満を訴えるエイミー。

 そんな彼女に露骨に嫌悪感を示しながらアイネが振り返る。


「あーもぅ! エイミーさん? アンタ──」

「アイネッ! 続いてっ!」

「──ッ!」


 だがスイがその言葉を遮った。

 その言葉にアイネはハッと目を見開いて拳を握る。


「クッチャクッチャ──グチャアアアッ!?」


 ほぼ同時のタイミングで、ゴーレムの斧がポイドラの体を剣ごと抉った。

 口に含まれた物体を吐きながら、まるまると太ったその肉体が嘘のように宙に舞う。


「グチョア、コポォッ!」

「ポイドラアアアッ!」


 響くのはリルトの悲痛な声。

 周囲の石の壁は、彼の絶望を嬉々として記録するかのごとくそれを何度も反射する。

 トドメをさそうと宙を舞うポイドラにむかってゴーレムが腕を振り上げる。


「ソードアサルト!」


 しかしそれは通らなかった。

 ポイドラの場所まで弾丸のごとく飛ぶスイ。

 ゴーレムの斧と交差するように跳躍し、その通り際に彼女の剣がゴーレムの斧を大きくはじく。


「ムチョクチョエエエエエッ!!」


 自分の数倍もの巨体を誇るポイドラを、片手でつかみあげながら天井までジャンプ。

 苦悶の表情を浮かべる彼女に一瞬、心配そうな表情を見せるスイだったがそれを気遣って行動する余裕は無い。

 体を半回転させて天井に足をつけ、自分の体が重力によって落下する前に天井を強く蹴る。

 その動きに全くついていけてないポイドラは奇妙な声をあげながら体をじたばたと動かすだけだ。


「フォースピアーシングッ!」


 しかし、そんな事でスイの動きは鈍らない。

 天井からゴーレムの頭に向かって一気に落下し、剣をそこに向かって突きつける。

 彼女の剣から青白い光が真っ直ぐに放出。それは一瞬の間にゴーレムの体を貫いた。



 オオオオオオオオオオオオオオオオッン



 苦悶の声、というにはあまりにも無機質な不気味な響き。

 奇妙な残響音に包まれながら、スイは剣をゴーレムの体に当てながら体の向きを変えて着地する。

 そして素早くポイドラの体を抱きかかえると、彼女をゆっくりと地面におろした。

 自分の限界を超えた動きに振り回されたせいだろう。ポイドラはそのまま四つん這いになってしまう。


「ゴヘェ、コホォー、コホォーッ」

「……大丈夫そうですね」


 体中に傷を負い、鎧もボロボロになり、かなり息を荒くしているものの、ポイドラが致命傷を負っているようには見えない。

 であれば、スイがとるべき行動は彼女を気遣う事ではない。


「やはり、倒しきれませんか……」


 何度か大きく腕を振り回すゴーレムを見て、スイが唇を一文字に結ぶ。

 今の攻撃でゴーレムはこの場で最も脅威となる者を把握したのだろう。

 表情など存在しないはずなのに、その場にいる誰もが認識できた。ゴーレムは明確にスイに殺意を向けていると。


「やああっ!」


 ゴーレムの腕の軌道を剣で反らし、スイが攻撃をしのいでいく。

 人と比べるのもバカらしい程に巨大な腕はただ適当に振り回すだけで尋常ならざる破壊力を生む。

 しかし、それだけではスイにダメージを与えることはかなわない。

 大振りな腕の動きはスイが見切るにはあまりに容易なものだった。

 とはいえ、スイの近くにはポイドラが居る。不用意に攻撃に転ずる訳にはいかない。

 そこで──


「アイネッ!」

「任せるっす!」


 スイの掛け声に応じて、アイネが背後からゴーレムの頭の近くへジャンプする。

 既に彼女の拳は練気がかけられていた。青白く光る拳を振り上げ、渾身の一撃を叩き込む。


「剛破発剄!」


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