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193話 自己中

「はぐれてしまいました。私達も探しています」

「えっ……そうなの? はぁ~……まぁ、スイがいればなんとかなるかなぁ……」


 スイの言葉に、エイミーは、ぼそぼそと呟いた。

 そしてやや大げさ気味にため息をつくと、エイミーはスイに視線を向ける。


「んで、入口はどこなのぉ? 案内してくれるんでしょぉ?」

「え……? あ、それはまだ私達も正確には把握してなくて……」


 エイミーの言葉に、申し訳なさそうに肩をすくめるスイ。

 先にアイネと確認した事から、ここがフルト遺跡の地下三階だという事は予想がついている。

 しかし、同じような形の部屋が連なっていたせいで、二人は、連なっている四角い部屋のどこに自分がいたのか正確に把握していなかった。

 と、エイミーはそんなスイの姿を見るやいなや、眉を吊り上げて鋭い声をあげはじめる。


「はぁ!? 困るわよ!! ちゃんとわたしのこと守ってくれないと!」

「えっ……っ!」


 そう言ってエイミーはスイの肩を突く。

 急にそんな事をされるとは思わなかったせいだろう。スイは呆けた表情のまま後ろに大きく体を傾かせた。

 だが、それでも持前の身体能力で素早く体勢を立て直すスイ。


「ちっ……」


 それが癪に障ったのだろうか。エイミーが露骨な舌打ちをする。

 そんな彼女の態度に、アイネは眉をひそめて言い返す。


「……一応、冒険者なら自分の身は自分で守ったらどうっすか?」

「はぁ? 説教ですかぁ?」


 アイネの言葉にエイミーは煽るように顎を前に出す。


「別にそういう訳じゃないっすけど……」

「じゃあ何なんですかぁ?」

「…………」


 言葉を出さず、視線で反論するアイネ。

 そんなアイネの態度に、エイミーはさらに苛立ったようだった。

 アイネの近くに詰め寄って威圧するような視線を向ける。


「すいません。すぐに現在位置を把握します。……アイネ」


 その険悪な雰囲気を食い止めたのはスイだった。

 すっと頭を下げてアイネに視線を配る。


「……まぁ、はい」


 小さくため息をつきながらアイネは地図を取り出す。

 ある程度地形を理解できた今なら現在地を特定することは可能なはずだ──




 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン




「ッ!?」


 突如として響いたその轟音に三人は飛びあがるような形で背筋を伸ばした。

 それとほぼ同時のタイミングで空間全体に大きな振動が走る。


「なっ、なによこれぇっ! 地震!?」

「いえ、これはっ……」


 体勢を低くして振動に耐えるスイ。

 くっと唇を結んで天井を見つめる。

 彼女は理解していた。この振動は下から来るものではないと。

 直前に聞こえてきた轟音は上から響いてくるものだった。


 誰かが上の階で戦闘を行っているのではないか。

 そうだとしたらこの振動の強さ──普通の強さでは無い。

 そんな事を考えながらスイは僅かに目を細める。



 ──もしかしてこれ、リーダーが……?



「んあああああっ! ポイドラ! だめだよポイドラアアアアアッ」



 だがそんなスイの思案もすぐに断ち切られる。

 振動が収まるや否や、聞こえてきたのはリルトの声だった。

 ガガガガガッという小刻みな爆発音がその直後にスイの耳に飛び込んでくる。


「銃声!? まさか敵と遭遇して──アイネッ!」

「オッケー、いくっすよ!」

「は!?」


 振動に耐え切れず転倒していたエイミーは、あんぐりと口をあけて二人を見た。

 そんな彼女をスイが手招きして急かす。


「急ぎましょう。リルトさんが危ないっ」

「走るっすよ!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!!」


 走り出そうとするアイネの手首を、エイミーがすがるように掴んできた。

 アイネが苛立った様子でそれを払う。


「なんすかっ! 今のきいてなかったんすか!?」

「きいてたから止めてるんでしょっ! わざわざ危険なところに首つっこまなくていいじゃない。今のうちに安全なところに逃げるのよ!」

「はぁ??」


 エイミーのその言葉に、アイネが素っ頓狂な声をあげる。

 呆れと驚きが混じった複雑な顔でそのままアイネは絶句してしまった。


「……エイミーさん。パーティメンバーを見捨てるつもりですか?」


 一度、深呼吸をしてスイがなだめるようにそう話す。

 するとエイミーは両手をひらひらとかざしながら首を横に振った。


「だってぇ、リルトはわたしの王子様じゃないもん。あの子、センス悪いんですよぉ」

「…………」


 そのエイミーの言葉をスイもアイネも理解する事ができなかった。

 それでもなんとか分かるのは、エイミーにリルトを助ける意思が無いということ。

 そして、緊急事態においてそんな相手と会話をする事が無駄だということだ。

 スイは小さくため息をつくと、アイネに視線を送る。


「……とにかく私達は助けに行きます。アイネ」

「うっす」


 この状況で意思連絡をするのはそのアイコンタクトだけで十分だった。

 スイとアイネはエイミーに背を向けて走り出す。

 そんな彼女達を見てエイミーは僅かな間、茫然としていたがすぐに声を張り上げてきた。


「ちょっと! わたしはどうなるのぉ!!」

「敵が怖いならそこで待ってればいいっすよ! でも、そこで襲われてもウチらは助けられないっすから」

「はぁ!? ちょっとぉ!!」


 アイネの言葉に恐怖を感じたのだろうか。

 慌てて起き上るとエイミーもスイとアイネの後に続いて走り出す。

 

「ちっ……だから女と組むと嫌なのよぉ……わたしのこと待ってくれないしぃっ! ほんっと自己中なんだからぁっ!!」


 涙ながらにそう叫ぶものの、スイとアイネはエイミーの事を待ってはくれなかった。


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