190話 猛る勇者の応援歌
「ご、ごめんっ……」
トワが俺にしがみつきながら不満の声をあげる。
ゲームとは違いこの世界では自分の攻撃で地形が破壊されてしまう。それを考慮してかなり手加減をしたつもりだったのだが、どうやら攻撃が強すぎたらしい。
「ノーマンさんっ、大丈夫ですかっ!」
とはいえ、彼はかなり追い詰められていたように見えた。
とりあえず反省は後にして俺は急いで彼の無事を確認する。
「……は?」
「……い、今のは……」
近くにいるフレッドともども、ノーマンは唖然とした表情で霧散していったゴーレムが居た場所を眺めていた。
ワンショットキルは銃士のスキル。銃士の使うスキルの中でも一、二を争う程の威力を誇り、敵を貫通するものの同じ敵に二度使うと威力がゴミになるというものだ。また、自分のレベルより低い相手には即死効果を与える事があり、その確率はレベル差が開けば開く程上昇する。
もっとも、即死効果を与えると何故かアイテムをドロップしないため一種の地雷スキルと言われていたのだが……
それは光に巻き込まれて消滅していくゴーレムの姿を見て理解する事ができた。
「んぬううううっ!? なんだこの破壊力は!?」
我に返ったのか、血みどろになりながらも腕を振り上げているノーマン。
──大丈夫そうだな、これは……
そんな彼の姿を見て一息つく。
とはいえ怠けている訳にはいかない。
すぐに俺はノーマンにヒールをかけてジョニーを襲うゴーレムを視界にとらえる。
「うおおおおおっ! なんてアツさだっ! そのロック、もっと華やかに見せてやれっ!いくぜっ、ファーストナンバー──猛る勇者の応援歌っ!!」
どこにそんな余裕があるのか。ジョニーは敵の攻撃をかわしまくりながら三味線を奏で始める。
同時に俺の──というか、ここに居る全員の体から赤い粒子が出始めた。
猛る勇者の応援歌は吟遊詩人のスキルだ。
パーティメンバーの攻撃力を上昇させる効果を持つ支援効果を持っている。
「さぁ、リーダー。お前のソウルを魅せる時が来たぜっ!」
そう叫びながらジョニーは弓なりに背中を反らして大きくジャンプし、薙ぎ払われたゴーレムの斧をかわす。
そのままくるりと後方に宙返りし綺麗に着地。その後で彼を追うゴーレムの拳もギリギリのところで回避する。
……なるほど、ゲームで言うならジョニーはAGI支援型といったところだろう。
吟遊詩人は楽器を奏でることでパーティメンバーに何かしらのメリットをもたらすスキルが多い。その範囲はかなり広く一気に多数のプレイヤーに支援がかけられるため集団戦では吟遊詩人は重宝されていた。
だが歌のスキルは吟遊詩人が攻撃を受けたりすると効果が消えてしまうという弱点がある。それをカバーするために吟遊詩人は俊敏さを高めて敵の攻撃を受けないようにするか、あるいは効果範囲を広げる装備品をつけて敵の攻撃を受けない位置に立ち回るという──
──ん、効果範囲を広げる……?
「リーダー君、何してるのっ! 早くジョニーも助けてあげないとっ」
「あ、あぁ。悪い」
トワの声にハッとして俺はもう一度ジョニーを狙うゴーレムを改めて見つめた。
先ほどの大きな揺れがあったのにも拘わらず、そのゴーレムはジョニーだけに執拗に狙いを定めている。
「さっきの攻撃は止めてよっ! あんなのがもう一度きたら、下手したらボク達生き埋めだよ!」
「分かってるって……」
ライルの時もそうだったが、わざわざ攻撃スキルを使うまでも無さそうだ。
練気・全と無影縮地を使いゴーレムとジョニーの間に回り込む。
「っ!?」
急に俺が接近したせいだろう。ジョニーが息をのむ音がきこえてきた。
だが俺は振り返らずにジャンプしてゴーレムの顔に接近する。
「シッ……」
そのまま拳を振り上げてゴーレムの額にそれを叩き込んだ。
スキルなどではない。ただの通常攻撃。
だが、それだけでゴーレムの頭は内部に仕込まれた爆弾が起動したかのように爆発する。
「ゴォオオオオオオオオオオ」
一瞬遅れて、轟音とともに、頭部を失ったゴーレムの体が後方に倒れこんだ。
巨大な体が打ち付けられた事で再び遺跡が振動する。
僅かな間、流れる沈黙。
「ばかなっ……! ただのパンチで一撃だとおおおっ!?」
「あ、ありえない……」
「フオオオオオオオッ!! お前のソウル、確かに見届けたぜこのオレがっ!!」
一瞬の間を置いて騒ぎ始める三人。……どうやら、今度こそ安心していいらしい。。
周りを見ても敵の姿は確認する事ができない。
「よしっ、倒しましたね……」
「お疲れリーダー君。相変わらず派手な攻撃だねー、流石イケメンッ!」
後ろの方から飛んできたトワは意地悪い笑みを見せていた。
そのしつこいイジリに俺は苦笑しながらトワの事を小突いてやった。
「だからイケメンはやめろって、このっ」
「んっ……やんっ……」
──はい?
妙に色っぽい声を唐突に出したトワに体が固まる。
直後、トワは顔を赤くして自分の腕を抱きしめながらジト目を俺に送ってきた。
「ちょっ、ちょっと! 変なところさわらないでよっ!」
「え、変なとこ? うそだろっ!」
そんなつもりは全くなかったのだが。
トワの疑いの眼差しは全く消えていない。
「えっ……マジ?」
「マジ……」
冗談ではない事は彼女の震えた声をきけばすぐに分かる。
「えっと、ごめ──」
「ど、どういうことだ! 君は一体その服の中にどれだけの筋肉を隠しているのだ?」