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188話 通常攻撃

「うっ……」


 俺の視界を覆っていた光が消えたのは、その時から数秒も経たない時だった。

 この世界にきてからあの光を何度か見たせいだろう。唐突な出来事であるにも拘わらず意外に俺は平常心を保つことはできていた。


「やっぱり飛ばされたのか……」


 予想通り、周囲の光景はさっきまで俺が居た場所とは全く異なっている。

 四角い空間の中に石の壁。ところどころにある石柱にはランプのようなものがぶら下がっていた。とはいえ日の光は無く、かなり周囲は薄暗い。

おそらくフルト遺跡の中だろう。扉を開けた事で何か罠のようなものが作動したのだろうか。


「……最悪だな」


 思わず漏れたその言葉と共に、一気に焦りの感情が湧き出てきた。

 周囲を確認して分かった事など二つしかない。一つは自分が何らかの方法で転移されたこと。そして二つ目──俺は仲間からはぐれてしまったということだ。

 言うまでも無く問題なのは後者だ。まさか初っ端から護衛対象とはぐれてしまうとは。


「うーん……やっぱ転移魔法だったかぁー……」


 ふと、肩から聞こえてくるトワの声。


「トワ!? 居たのか……」

「えーっ!? 気づいてなかったの?」


 露骨に頬を膨らませるトワ。

 どうやらあまりにも周囲の見渡すことに集中しすぎてしまったようだ。


「まぁいいけどさ。それよりも、今のって転移魔法かな」


 そう言いながら、トワはふわりと俺の肩から飛び立って俺の顔の前に移動する。


「分からないけど。さっきの光はトワが転移魔法を出す時の光と似ていたな」

「へーっ、転移魔法の使い手ってボクだけじゃないんだ」

「使い手……」


 その言葉に少しだけ身が震えた。

 もし仮に誰かが魔法を使って俺達をバラバラにさせたということは、それは俺達に対して敵意を持っている者がいる事になるのではないだろうか。

 この遺跡に仕掛けられたトラップが原因とも思ったが──少なくともゲームでそんなトラップは無かったはずだし、そもそもそんなトラップがあるのならばこの世界でフルト遺跡はもっと危険な場所だと認識されているはずだ。


 ──やはりこの遺跡は何かある……


 その何かについては見当もつかないがここであれこれ考えていても仕方ない。

 俺は一つ深呼吸をして自分の焦りを押し殺しトワに声をかけた。


「とりあえずトワ。入口に戻ろう。転移を頼む」

「うん。任せて」


 俺の言葉に元気よく頷くとトワは手を前にかざして目を閉じる。

 ……が、十秒程待っても転移の光が放たれる気配が無い。


「トワ?」

「あ、あれっ?」


 トワがあたふたと上下に動いている姿を見て嫌な予感がした。


「ごめん。なんか発動しない……」

「えっ……マジ?」

「マジ……」


 冗談ではないことは彼女の震えた声をきけばすぐに分かる。


「何故発動しないんだ? 魔力切れか?」

「ご、ごめん。ボクも本当に分からない……でも、魔力が切れてる感覚なんてないよ」


 まぁそれはそうだろう。そんなになるまで魔法を使ったことなんて無いのだから。


 ──しかし参ったなこれは……


 ゲームでも一部のマップではテレポート系のスキルに使用制限がかかっていた事がある。

 だがそれは特定のクラスで無ければ入れないような場所や、クエスト進行のために特別に用意されたマップに、条件に該当しないプレイヤーが入るのを防止するために設けられたものだ。

 それが、現在トワが転移魔法を使えない理由になっているとは思えない。


「……あの、ごめんね……?」


 俺が考え込んでいたせいだろうか。

 らしくもなくトワがしょげた顔で俺のことを見上げてきている。

 そんな彼女の事を励ましたくて俺は努めて明るい声を作って返事をする。


「いやいや、トワが気にすることじゃないよ。でも現状位置だけでも把握しよう。ここは──」



「んぬうううううううっ! 何が起きているのだああああっ!」



「っ!?」


 これまた唐突に聞こえてきた声に慌てて周囲を確認する。

 だが俺が見渡せる場所には声の主はいないようだ。


「これは……ノーマンさんの声だよな?」

「こっちからきこえたよっ! リーダー君、早くっ!」


 遠くから聞こえてくるその声をトワが追う。

 彼女に付いていくと遺跡の入口で見たものと似ている巨大な石の扉が見えてきた。


「この先だよっ!」


 トワの言葉に強く頷く。

 彼女の言葉通り、この先からノーマンの叫び声が聞こえてくる。

 とりあえずその扉に手をかけて押してみた。


「くそっ、開かない……」


 しかし扉が開く様子は全くない。

 重いとかそういう問題ではなく鍵でもかかっているようだった。

 僅かに押せるものの、どこかでひっかかっているような感触がする。


「あーっ、もう壊しちゃえ!」

「仕方ないか……」


 遺跡を破壊するという行為は決して褒められたものではないのだろうが緊急事態だ。

 俺は一つ大きく息を吐くとその扉を殴りつける。

 すると目の前の扉はダイナマイトで爆破でもされたかのように木端微塵になりながら吹っ飛んで行った。


 ──凄いな、俺の『通常攻撃』……


 もはや慣れてしまったことはいえ我ながらその破壊力には苦笑するしかない。

 すると背中に隠れたトワがからかうように口笛を吹いてきた。


「ヒュウ、やるぅ」

「あぁ。行くぞ」


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