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187話 罠

「フッ、どうしたんだいエイミー。君を守るのは過去も現在も未来も僕だろう」

「何を言う! こと戦場にあたっては彼女を守れるのは筋肉を持つ者の他はありえないっ!」


 斧を天にかざしながらノーマンが叫ぶ。

 それを見てリルトが頭をおそるおそると言った感じで手をあげながら声をあげた。


「ちょっ、ちょっと皆……リーダーが困った顔してるから……そ、そんな争うのはやめようよ……」

「争うとは心外だね。そもそも争いというものは力が拮抗していなければ生じえない事柄だ。両者の間に明確な力の差がある場合、それは争いとは言わずただの蹂躙と表現すべきだからね。であれば今回の僕とノーマンの関係をどのように定義されるかは自明の理だと思わないか? もっとも僕は殊更彼を貶めるつもりも無いわけだから蹂躙という言葉も不適切かもしれないね。であるならば──」


 しかしリルトの頑張りは全く効いてくれなかった。

 早口でまくしたてるフレッドに思わずため息が漏れる。

 とはいえ一応俺はリーダーだ。形だけでもそれっぽいことをしておかなければまずいだろう。


「えっ、えっと……皆さん。色々気になることはあると思いますけど、今はクエストの事だけ考えてくれると助かります。一応、危険なところだと思うので」


 パーティの人数が多いからだろうか。思った以上に緊張して変に声がうわずってしまった。

 だがその点について皆からつっこみがくることはなく。

 

「そうだな。今回のオレ達の探索は様子見みたいなもんだ。オレのロックをクールに轟かせてやるぜっ!!」

「フッ、言われるまでもないさ。僕が真摯かつ冷静にこの依頼にとりくまなければエイミーを死の危険に晒す可能性があるからね。そのような事態は絶対に避けなければならないゆえ、僕が持つ最善の力を尽くすことをここに誓おうじゃないか」

「我が筋肉に死角無しっ! リーダー、背中は任せるといいっ!! 腹でもかまわんがなっ!!」

「ぼ、僕も頑張りますっ……」


 ……妙に男衆の士気は高まっていた。

 なんというか──この人達は、根は素直なのかもしれない。

 もっとも、エイミーは少し不機嫌そうだったし、ポイドラにいたっては会話に全く参加せずにピンク色の物体を食べているだけだったが……


「と、とりあえず遺跡の中入りましょうか。リーダー」


 そんな彼らを見つめていると、スイが苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。

 彼女の言う通り、いつまでもこうしている訳にはいかないだろう。

 俺はアイネ、トワ、と順番に目配せすると黙って首を縦に振った。


「うわ~ん。この階段、きつ~い」


 背後からエイミーの愚痴る声がきこえてくる。

 こちらの世界での俺の肉体は疲労を感じることが無いが、たしかに階段を上るという動作を淡々と続ける事は精神的に辛いものだ。

 ノーマンが俺に任せろだとか、フレッドが早口でやたら喋っているのをスルーして階段を上ること数分間。ようやく遺跡の入口と思わしき地点にまで到達する。


「おおー……これはでかいっすね……」


 遠くから見てもそう思ったがこうして近くにくるとその巨大さが一際目立つ。

 アーチ状の柱がいくつも連なった場所を通過。すると身の丈の三倍は超えるであろう扉の前に出た。

 見たところ、その扉は石でできており押すことによって開く仕組みになっているようにみえる。


 ──でも、いくらなんでも大きすぎないか……?


 パッみた感じでは人の力で開閉するようなものには見えない。

 しかし周囲を見渡してみてもこの扉をあける仕組みらしきものも見つからない。


「これ、押せるんすか?」

「アハハ……そうなんじゃない?」


 そのあまりの巨大さに気圧されているのは俺だけではないようだ。

アイネがひきつった半笑いを見せている。

 すると予想通りというべきか、ノーマンが俺達の前に出て声高に叫びはじめた。


「任せろ! この俺が開けてやろうっ!」


 扉の前に立ち筋肉を見せつけるように腕を曲げるノーマン。

 若干の冷めた視線もどこ吹く風。彼は扉に両手を突きつけると、ぐぐっと体を前に倒す。


「んぬううううううっ!!」


 雄叫びとともに徐々に扉が開いていく。

 この巨大な扉を一人で開けるとは──なるほど、確かに筋肉に固執するだけのことはある。


 ──でも、こんな扉ゲームにはなかったよなぁ……


 そんな事を考えながら開いていく扉を見つめている時だった。



「むっ、なんだこれはっ!」



 ノーマンの衝撃を受けたような声が響く。

 その原因はすぐに認識する事ができた。というか、認識させられた。


「え、え?」

「ちょっ、まずいよリーダー君! これって──」


 トワが俺に注意を促してくる。

 だがその時には既に目の前の扉は異常を発していた。

 扉の奥から目を貫くように飛び込んでくる強い白の光。

 その光はこの世界に来てからというもの何度か見たものだった。


 ──この光は……転移魔法の……?


 その考えに至った瞬間。

 俺の視界から扉が消えた。


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