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185話 童話の少女

 テーブルの上にはフルト遺跡の地図の他に、俺が風呂に入る前にトワの転移魔法ではずしてもらったミハのロザリオがある。

 それを見てスイは納得したように頷いた。


「あれがミハさんの物だってことを知ってたみたいで、それで教えてくれたんだよ。他にもクレハさんって妹がいたな」

「へぇ。ロザリオに違いなんてあるもんなんすか」

「分からないけど名前でも書いてあったんじゃないか?」

「どれどれ。ボクが見てみるよ」


 そう言いながらトワがテーブルの方に飛んでいく。

 その数秒後──

 

「あ、あれ!? なにこのロザリオ!!」


 トワの出した頓狂な声に俺達は首を傾げた。

 何か変な特徴があっただろうか。


「ちょっとそっちに送るから、よく見てみて!」


 トワがそう言った瞬間、俺の手にミハのロザリオが現れた。転移魔法を使ったらしい。


「ん? なんか刻まれていますね」

「ほんとっすね。どれどれ……」


 スイとアイネがぐぐっと体を寄せて覗き込んでくる。

 二人の頭で手元のロザリオが良く見えない。仕方ないので彼女達に任せていると──


「えっ、なにこれ……」

「マジっすか……」


 二人が体を起こしてため息をついた。

 その妙な反応が気になって俺もロザリオを顔に近づけてよく見てみる。

 確かに二人の言う通りロザリオには小さな文字が刻まれていた。しかし、当然ながらそれを解読することは俺にはできず。


「え、なに? どうしたんだ?」

「どうしたも何も──あっ、そういえばリーダーは文字が読めないんでしたっけ」


 そう言いながら俺から視線をそらすスイ。


「……何が書いてあるんだ?」


 奥歯に物が挟まったような物言いが気になって質問を繰り返してしまう。

 するとアイネが苦笑いをみせながらそれに答えてくれた。


「『未来の王子様へ』って刻んであるっすよ」

「はぁ!?」


 その言葉のチョイスに、さっきトワが出したような声を俺も出してしまった。


「アハハッ、リーダー君はやっぱモッテモテだねっ」

「おいおい……」


 いつの間にか俺の肩に戻ってきたトワがニヤニヤと俺を見上げている。


 ──こいつ、他人事だと思って……



「王子様にロザリオ……そういえばそんな物語をきいたことがあります」


 ふと、スイが顎を人差し指で軽く叩きながらそんな事を言ってきた。

 それにつられるようにアイネも顎に手を添える。


「ウチも、昔そんなことをきいたことがあるような……」

「あれ、そうなの? どんなお話しかきかせてよ」


 トワの言葉にスイは一度、頷く。


「はい。子供向けの童話なんですけどね。貧乏で孤独な女の子が王子様に偶然助けられた事をきっかけにその人の事を好きになるんですけど……王子様が旅立つ時にその子はついていけなくて、代わりにロザリオを渡すんです。神様のご加護があるようにって」

「あっ、そうそう。思い出したっす。ロザリオ以外にもなんか渡してたと思うけど……だいたいそんな感じだったっすね」


 ぽん、手を叩いて嬉しそうにはにかむアイネ。

 だがトワの顔は少しだけ暗かった。


「えー……離れ離れになっちゃうの? 複雑な終わり方だね」

「え? そんな事ないですよ。ちゃんと続きがあります」

「続き?」


 きょとんと首を傾げるトワ。


「その後、女の子のところに戻ってきてくれるんすよ。王子様」

「戻る?」

「はい。その女の子が辛くて泣いている時に戻ってきてくれて、幸せになるっていう結末だったと思います」

「へー。ちゃんとハッピーエンドなんだね。よかったよかった」


 にこにこと笑うトワにスイとアイネもふっとほほ笑む。


 ……だが。

 どうも俺は彼女達のように笑う気分にはなれなかった。


 ──その物語ってどうみても……


 ふと、今までの出来事が頭をよぎる。

 シラハは俺の事を王子様だと言っていた。

 もしかしなくても、その原因はこのロザリオに書いてある王子様という単語のせいだろう。

 そして、そのロザリオをミハが作った事を知っているという事は、ミハはシラハ達と一緒に居た時にこのロザリオを作ったということだ。

 それがどのぐらい前の事なのかは分からない。だがスイ達が話した物語の少女と、ミハが重なるように感じるのは気のせいじゃないだろう。


 もしかしたら、このロザリオはミハが出した精一杯のSOSだったのではないだろうか。


「……リーダー?」


 と、不意にかけられたスイの声で我に返る。

 気が付くと三人とも心配したような顔で俺の事を覗き込んでいた。


「あ、あぁ。なんでもないよ。なんでも」

「そうですか?」


 そう言いながらスイが少し顔を近づけてくる。

 言葉では疑問形だが表情は何かを確信しているようだ。

 アイネが真剣な面持ちで口を開く。


「ねぇリーダー。もしかして──」

「アイネ」


 アイネの言葉を遮って、スイが首を横に振った。

 そしてスイは俺に視線を移して優しく──そしてどこか寂しそうに微笑む。


「すいません。今日はもう寝ましょうか」

「……そっすね。ちょっと眠くなってきたかも」

「ボクもかなー」


 わざとらしくあくびをするアイネとトワ。


「そうだな……」


 そんな彼女達のみえみえな気遣いに、少し気の抜けた笑みがこぼれてしまった。


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