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184話 前夜

 食堂に戻ると、スイ達がほっとため息をついているのが見えた。

 トワですら疲労の色が見えていた。よほどあの二人に振り回されたのだろう。

 エイミーが怪しい視線を送ってくる事もあって、結局俺達は早めに食堂を去ってしまった。

 親睦を深めるという目的が達成できたとはとても言えないような気がするが──そこは現場でなんとかするしかないだろう。


 部屋に戻ると真っ先に俺が風呂に入ることをすすめられた。

 ……臭かったのだろうか。彼女達は一番風呂を譲りたいだけだと慌てて否定していたが。

 ともあれ、そこは深く考える事なく俺が先に入ることになりあがったら女性達に交代。

 それから約二十分が経過した頃。


「んー、すっきりー」

「おかえりー」


 さっぱりしたアイネの声が後ろから聞こえてきた。

 少しずつ慣れてきたとはいえ湯上りの彼女達を見るのはやはり照れ臭い。

 それもあって俺は振り返らないままそう返事をしてしまった。


「お? リーダー君、なにしてんの?」


 そんな俺の態度を怪訝に思ったのだろうか。

 トワがふわりと俺が向かっていたテーブルに飛んでくる。


「あぁ。一応地図を見ていたんだよ。フルト遺跡の」


 そこに置かれているのはハナエから貰ったフルト遺跡の地図だ。

 効果があるかどうかは分からないが彼女達が風呂に入っている間に探索範囲とされている場所の確認をしておいたのだ。


「へぇ。真面目っすねぇ」


 そう言いながら、髪をおろしたネグリジェ姿のアイネが俺の横に座り込む。

 当然のように反対側には同じくネグリジェを着たスイ。

 彼女達はそこまで意識していないようだが少し火照った顔が妙に蠱惑的だ。


「まぁ……命に関わる事だしな……」


 それを振り払いたいこともあって敢えて真面目っぽい言葉を選ぶ。


「えーっ、ビビリすぎじゃない?」

「そんなことないですよ。今回のクエストは何かイレギュラーが起きているのは間違いないのですから」

「そっかー」


 トワの言葉に、スイが真面目なトーンで返す。

 ……そうなのだ。カーデリーギルドの人たちの陽気なキャラクターでいくらか忘れてしまっていたが、今回のクエストは人が死んでいる。

 正確には死んでいると認定されているにすぎないし、直接見た訳ではないので強い実感がある訳ではないのだが。

 それでも一人、静かな空間の中にいるとじわりと恐怖感がこみ上げてくる。


 初めてアーマーセンチピードと向かい合った時、ゴールデンセンチピードに襲われた時の恐怖。傷だらけのアイネやトーラギルドの人達を見た時の感情。サラマンダーに腕を貫かれた時のスイの表情。


改めて冷静になってみるとそんな事を思いだしてしまい穏やかな気分ではいられなかった。


「変に意識しすぎるのもアレだけどな」


 とはいえ、もはや今更だろう。下手に狼狽することは流石にない。

 シュルージュでクエストを受ける事を決意した時に覚悟したことだ。

 少なくともレベル2400の恩恵が俺にはある。それを認識してから戦闘において苦戦したことは全く無いのだ。

 俺がしっかり判断すれば今日出会った彼らも、そしてなにより目の前にいる彼女達の命を失うことはありえないだろう。


「……まぁ、今日はゆっくり休まないとな」


 そう自分に言い聞かせて、努めて冷静な声色でそう言った。

 するとトワがやや不満げに唇をとがらせる。


「んー、じゃあもう寝ちゃうの?」

「それでもいいのですが、ちょっとまだ早くないですか?」

「そっすね。まだ眠気がこないっす」


 ──まぁたしかに。


 眠気が全くない状態で無理矢理寝ようとするのは、意外に疲れるものだ。

 変に緊張が走ってしまい逆に眠りが浅くなる可能性もある。


「じゃあお話しタイムだっ! ほら、リーダー君」

「結構寝心地よさそうですよ。これ」

「リーダー、早くくるっす! おいでーっ!」


 そうこう考えているうちに彼女達はベッドの上へと移動していた。


「おいでーって……」


 そういうつもりでは無いのはその無邪気な笑顔を見ていると分かる。

 分かるのだが、そう両手を広げて手招きされると──


 ──まずいまずい。いい加減慣れないと……


 彼女達と同じベッドで寝るのは初めての事ではないのだ。

 そしてそのタイミングで何かあったこともない。

目立たないように深呼吸してベッドの上に座ってみる。


 ──とりあえず、適当に話題を振ってみるか……


「……そういえば、さっきシラハさんと会ったんだけどさ。あの子、ミハさんの妹なんだってな」

「あ、やっぱり!」


 深く考えないで選んだ話題だったのだが、どうやらヒットしたらしい。

 トワが目をキラキラさせてくいついてきた。


「ウチら、お風呂でその話ししてたんすよ」

「アハハッ。結構似てるから、もしかしたらって思ったんだよね」


 トワとアイネが目を合わせてニッ笑う。

 なるほど、彼女達もシラハを見て同じような感想を抱いたようだ。


「でも、なんでその事を知っているんですか?」


 と、そう言いながらスイが僅かに首を傾げる。


「あぁ。席を外した時があっただろ。その時にシラハさんに会ってあのロザリオを見られてさ」

「……なるほど」


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