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183話 次女と三女

「ごめんなさい……証拠は無いです……でも盗んでません。信じてください」


 とにかくここは誠意を伝えるしかない。

 頭を下げてなんとか信じてもらうように頼み込む。

 すると、クレハは小さくため息をついて俺に話しかけてきた。


「……なら、お姉ちゃんがどういう人か……言ってください……」

「え?」

「泥棒じゃないなら、お姉ちゃんの事良く知ってるはずだから……そうじゃなきゃ、お姉ちゃんがそのロザリオを渡すはずがない……」


 少しは誠意が伝わったのだろうか。与えられたチャンスに内心でガッツポーズをとる。

 しかしあまりに質問の内容が抽象的だ。もう少し何か指摘はないのか──と、クレハを見つめ続けるも何も言葉が続かない。

 しかたなく、俺はたどたどしくも言葉を繋いでくことにした。


「そうですね。シュルージュのシャルル亭のオーナーで……シラハさんやクレハさんと同じ茶髪で虎耳があって……」


 とりあえず容姿についての特徴を言ってみる。

 しかしクレハの表情はかたいままだ。


「あとは……よく笑う人ですね。こう、『きゃははっ♪』って」


 ミハがよくとっていた猫のようなポーズをとってみる。

 ……しかし、クレハの表情はかたいままだ。


「……ほかには?」

「そうですね……えっと……シラハさんが着てるような服を着てました……」


 とりあえずシラハの服を指さしてみる。

 …………しかし、クレハの表情はかたいままだ。


 ──どう答えるのが正解なんだよ!!


「あ、あとは……優しい人……ですね。俺の友達のために本気で怒ってくれたり、ちゃんと接してくれたり……心配してくれたり…………」


 とにかく言葉を詰まらせないように何とか言葉を繋いでいくと、不意にクレハが表情を緩めた。

 初めて見えた突破口に俺は頭をフル回転させてミハの事を思いだしていく。


「あー……あと……昔はミハさんが貴方達を養ってたって、ききました。すごく妹想いの人なんだなと……」

「──っ」


 少しクレハが顔を赤らめる。


 ──なるほど、なんとなく分かってきたぞ……


 どうやらミハのいいところをあげればいいらしい。


「色々辛いことも抱えているみたいですけど、いつも笑ってて……凄い人ですよね?」

「そのとおりですっ!」


 ふと、シラハが両手を大きくあげて口を挟んできた。

 そのままクレハの肩をつかむと真剣な表情で言い放つ。


「クレハ、おにーさんは泥棒じゃないよっ!!」

「う、うん……」


 シラハの行動に目を丸くしていたクレハだったが、すぐに俺の方にふり返ってきた。

 その表情は先ほどまでとは違い緊張が走っているものではない。



 ――計画通り……!



「貴方はお姉ちゃんのこと、良く知ってる……ちゃんとお姉ちゃんが認めたってことかな……」

「王子様っ、王子様っ!」


 シラハが俺の方に抱き着いてくる。

 王子様というのはよく分からないが──悪くないな、これは。


「ミハさんの事、好きなんですね」

「うん。おねーちゃん、凄いんだよっ! なんでもできちゃうんだからっ!」

「そうみたいですね。シュルージュのシャルル亭は彼女が建てたって。驚きましたよ」

「ふふっ……でしょ……」


 少し自慢げにほほ笑むクレハ。

 初めて俺に見せたその笑顔はとても可愛らしいものだった。

 

「お姉さんにはお世話になりました。ありがとうございます」

「えへへーっ」

「ど、どうしたしまして……」

「おやおや、声が聞こえると思ったら──こんなところにいたのかい」


 と、背後からきこえてきたハナエの声に二人がハッと息をのむ。


「あ、ハナエさん」

「スイちゃんが心配してたよ。いつのまにかリーダーがいなくなってるって」


 腰に両手をあてて、やれやれと言った感じにハナエがほほ笑んでいる。

 なるほど、確かにそれはまずかっただろう。席を外す時一言もスイ達に断っていなかったことを思い出す。


「そうですか。すぐに戻ります」


 そうでなくてもノーマンもフレッドもなかなか強烈なキャラクターだ。

 女の子達に会話の相手を任せ続けるのも酷だろう。一応、親睦会という名目なのだから俺も彼らと交流しておく必要があるだろうし。

 そう思って立ち上がると──


「えっ……戻っちゃうの……?」


 クレハがコートの裾をちんまりとつかんできた。

 その様子を見てハナエが目を丸くする。


「おや? 珍しいね。クレハが気を許すなんて」

「お姉さんと知り合いだったので、それで」

「ほぅ、ミハとかい。それはそれは」

「ミハさんを知っているのですか?」


 そう尋ねると、ハナエはふっと笑いながら答えてくれた。


「あぁ。カーデリーに宿を出さないかって持ちかけたのは私でね。色々と困っていたようだったから」

「なるほど……」


 ふと、シラハとクレハがやや暗い顔をしているのに気付く。

 ミハの──自分達の境遇を、彼女達は認識しているのだろうか。

 だが今の俺がそこにつっこむのも野暮だろう。できる事が思いつかないのだから。

 だからせめて。俺は彼女達に視線を合わせて声をかけてみることにした。


「俺はまだミハさんと出会ってそんなに時間が経ってないけど……また今度、お姉さんのお話しをしましょう」


 俺の言葉に、一瞬二人は僅かに目を見開いて黙りこくる。

 だがすぐに二人は満面の笑みを見せてくれた。


「う、うんっ……!」

「約束だよっ、おにーさんっ!」


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