178話 パーティ結成
リルトの言葉にフレッドの動きが止まった。
その隙をつくようにアイネがスイの前に立ってフレッドに言い放つ。
「最近はそこにサラマンダーを倒したってのも加わったんすよ」
「なに……?」
「サラマンダー? ってことはあれからさらに強くなったのかい?」
ジョニーとフレッドは、サラマンダーを倒したという事実がどのように評価されるのかを理解しているらしい。
「なんだ? そいつらは筋肉では倒せない敵なのか?」
「え、えーっと……」
反対にノーマンは全くそれを理解していないようだ。
呆けた顔を向けられたスイは苦笑いを返すことしかできていない。
「あぁもう。ほんと恥知らずな奴等だよ……すまないねぇ」
「かまわないです。それよりもクエストの話しをききたいのですが」
「そっすね……なんか疲れてきたっす……」
「ならばさっさと済ませちまおう。ほらっ、皆注目。今からクエストの説明をするよ」
もう一度、手を叩いて全員の注意をひくハナエ。
全員の視線が集まったのを確認すると、彼女は机においてある紙を配り始めた。
「さて、とりあえずフルト遺跡の地図を渡しておくよ。全員しっかり一枚携帯しておくように」
文字が読めない俺だが図形となれば話しは別だ。
フルト遺跡はそこまで危険度が高いダンジョンではない。既に一度踏破されていたのだろう。
かなり丁寧に作りこまれている。
「もう知っていると思うけど改めて確認だ。最近カーデリー周辺でゴーレムの数が異常に増えている。フルト遺跡に近づけば近づくほどその傾向が顕著になっていることから既に調査隊がそこに向かったがそのまま消息不明。ギルドでは調査隊は全滅と認定した。そこでフルト遺跡探索の経験があり、かつ残存している中でレベルが高いアンタらに調査の依頼が回ってきたというわけだ」
「任せろっ! この俺の──」
「私語は慎めっ! 話しを最後まできくっ!!」
ビシッとした指摘にノーマンが体を縮ませる。
──ギルドマスターっていうより、オカンだなこの人……
「はっきり言おう。アンタらのレベルは今まで出した調査隊のレベルより低いし今回遭遇するであろうゴーレムとの相性も悪い。このままじゃどう考えても全滅だ。そこで今回、アンタらには彼らの指示に従って行動してもらう」
そう言うとハナエは俺達の方に視線を移した。
いまいち緊張感の無い空気を正そうとしたのだろうか。その表情はやや怒っているように見える。
「フレッド、ノーマン。一応伝えておくよ。彼女はアンタらとは──いや、ギルドに居るような冒険者とは桁違いの強さだよ。記録されているレベルは95」
「!?」
その言葉に、二人が絶句する。
だがジョニーは反対に無邪気に手をあげて口を挟んできた。
「オレは知ってたぞっ。大陸の英雄、その八人目として名高い剣士。実はオレ、憧れてたんだぁ!」
「……こいつは結構ミーハーなところがあってね。英雄様の活躍をきくのが昔から趣味なのさ」
「そうですか……」
苦笑するスイ。シュルージュの時とは正反対の扱いをされている事もあってかなり居心地が悪そうだ。
「そこでっ! お前さんらにはパーティを組んでもらう。ほれっ、絆の聖杯だ」
そう言いながらハナエはエプロンのポケットから金色に輝く杯を取り出した。
だがそれは前にトワが出してくれた物より遥かに小さい。片手にちょんと乗る程度のものだ。
「しょーがないわね……」
特に異議を立てることもなくエイミーが短剣を取り出して自分の指を切っている。
それを見てアイネがハッとした表情を浮かべた。
「あ、ウチら……」
「分かってる。一度パーティを解散しましょう。リーダー、解散するって念じるだけでいいのでお願いします」
そう言って俺の事を見つめてくるスイ。
俺達はトワの出してくれた絆の聖杯でパーティを組んでいる。それを解散するということだろう。
彼女の言葉に従ってみるも、特に何か起きた様子は無い。本当にこれで大丈夫なのだろうか。
そんな不安を込めてスイを見つめていると、彼女はにこりと笑ってくれた。
どうやら本当に大丈夫らしい。
「は、はい……これ……」
「あ、どうも」
リルトが怯えたような顔をしながら絆の聖杯と短剣を手渡してきた。
どうやら俺達以外は血を入れ終えたらしい。
中には僅かな血液が入っており杯は淡い光を放っている。
それを確認するとスイは自分の指を切って杯の中に血をいれた。
「ん。スイさん。何をしているんだい?」
「え?」
ふと、ジョニーが怪訝な表情を見せながら声をあげてきた。
きょとんと首を傾げるスイ。
「パーティリーダーになる者が先に血を入れてどうするんだ。しっかりしてくれよ」
「あぁそのことですか。私はリーダーになりませんよ」
「え?」
理解できない、といいたげにジョニーが眉間にしわを寄せた。
それに続くようにエイミーが口を開く。
「ちょっと。リーダーってレベルが一番高い人がなるんでしょ?」
「だから、その通りにしてるんすよ。ほいっ」
「んっ……」
ジョニー達が不思議そうに見つめる中、アイネとトワが淡々と自分の血を杯に入れていく。
まさか──と言いたそうな張りつめた皆の視線。それを真っ向から受けるのは俺の度胸では無理だった。
「あとはリーダー君だけだね」
「あぁ……」
俯いている俺の頬をトワがつん、とつついてきた。
俺の表情の意味を勘違いしたのだろうか。アイネは仕方ないなぁ、と言いたそうに笑っている。
「またやってほしいっすか?」
「いや……やってみるよ……」
短剣を手に取り目を瞑って一気に指に押し当てる。
じわり、と血がにじむ感触と嫌な痛みが走った。
すぐにでもヒールを使いたい衝動を抑えてなんとか杯に血を入れる。
──確か、承認って念じるだけでいいんだっけ……
スイ達とパーティを組んだ時の事を思いだしながらそう念じてみると、杯が強い赤い色の光を放った。
この輝きには見覚えがある。どうやらちゃんとパーティが組めたらしい。
「──!」
ふと、周囲の人間がハッと息を吸う音がきこえてきた。
顔を見上げてみると──予想通り、ジョニー達が畏怖しているかのような表情が目に入ってくる。
「ど、どういうことだ? 君はスイさんよりレベルが高いのか……?」
「えぇ。まぁ……」
「ちょっと待って。あの子のレベルって95なんでしょ。ってことは……」
何か不気味なものを見ているかのような視線をそれぞれが送ってくる。
アイネとトワは少し誇らしげに笑っているが、俺としてはとてつもなく居心地が悪かった。
「ほらっ。無駄話しするんじゃないよ。まだ話しは終わっていないんだ」
そんな俺の助けを求める視線に気づいてくれたのか。
ハナエが大きな声を出して全員の注意をひいてくれた。
「地図をみな。アンタらがどこまでの範囲を調査してくればいいのか、じっくり頭にたたきこんでもらうからね」
やや不満げに俺のことをちらちらと見つめてくる者もいたが。
彼女が話しをはじめると、それも少なくなっていった。