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173話 擬態

 安全を確認し、手を離す。

 おそるおそると言った様子で上半身を起こす二人。


「さ、さすがっすね……」

「フロストスピアですか……? あれが……?」


 二人は、半ば茫然としながら後方に離れていくゴーレムの死体を見つめている。

 フロストスピアは、その名の通り氷の槍で指定した相手を貫く水属性の魔法だ。

 ゲームでは射程が短く威力も低いものの、発生が極めて早く相手をノックバックさせるという特性から近距離に潜り込まれた時の反撃手段として良く使われていた。


「あ、危なかったねーっ! よかった、よかった」


 戦闘が終わったのを察知したのか、トワが俺のコートの中から飛び出してきた。

 だがスイはトワの言葉を否定するように表情を暗くしている。


「……これは危険ですね」


 そう言いながら馬達に合図を送るスイ。

 徐々に落ちていくスピードを見て、何事かとトワとアイネが首を傾げる。


「あのゴーレムは周囲の岩に擬態していたみたいだな。だから存在に気づかなかったんだ」


 冷静になって、ゴーレムが出現した時の周りの風景を思い出してみる。

 たしか、馬車はそのタイミングで大きな岩のある場所を通り過ぎたはずだ。


 ──ゲームではそんなことしてこなかったんだけどな……


「擬態するゴーレムですか……」


 スイがやや追い詰められた表情をみせている。

 それもそのはず。テンブルック荒野では大きな岩などそこら中にあるのだ。

 そういった岩の傍を通り過ぎることなど今まで何回やってきたことか分からない。


「ここまで見事に擬態するものなのでしょうか。私も全く気付かなかったのですが……」

「うぅ……そこら辺の岩が全部ゴーレムに見えるっす……あぁいうタイプは気配が察知しにくくて……」


 ぺたりと耳を垂れさせるアイネ。

 それを見てスイもくっと唇を結ぶ。


「それでも、どうにかしてゴーレムの擬態を見破らないと。馬たちだって守らないと……」

「ええーっ! でも、全然分かんないよっ!?」

「…………」


 トワが騒ぎ立てるも、その声に二人は沈黙で返すことしかできない。

 とたんに走る緊張の色。まるで敵に囲まれているかのような雰囲気だ。


「……擬態を見破るのはちょっと無理があるな。別の方法でいこう」


 いくら周囲の岩を睨んでみても、違いや特徴を見つけられる様子は全くない。


「でも、どうするんすか? 遠回りするにしても、こんなんじゃどこが安全なルートかも分からないっす……」


 周囲を一瞥して、はぁとため息をつくアイネ。

 たしかに彼女の言う通り、これではどこに擬態したゴーレムがいるか判別はできない。

 だが──


「要するに安全に通れればいいんだよな。なら、相手に攻撃をさせないようにすればいい」

「えっ……」


 俺の言葉に、皆が目を丸くする。


「大丈夫。こういう状況は何度か経験したことがある」


 ──ゲームの中での話しだけど。


 あるクエストを進行する時にダンジョンの中で指定された場所に行く、というパターンのものがある。

 こういうクエストを楽に進行するために良くプレイヤーが使っているスキルを俺は習得しているはずだ。


「インティミデイトオーラ」


 そう言った瞬間、俺の体から紫色の光の粒子が湧き出てきた。

 アイネが不思議そうに俺の事を見つめてくる。


「……え、リーダーが光ってる……?」

「そのスキルも使えるのですか……」


 どうもスイは俺がなんのスキルを使っているか分かっているらしい。

 やれやれと言った感じで苦笑いを浮かべている。


「盗賊のスキルだよ。付近の相手に恐怖状態をかけるんだ」

「ほえー……?」


 あまり腑に落ちないといった感じでアイネが声を出している。

 その理由が俺の解説不足にあることに、その後続いたスイの言葉で気が付いた。


「恐怖状態になると、魔物は攻撃を仕掛けてこなくなるの。これならゴーレムの擬態をわざわざ見破る必要が無いってこと」

「あっ、なるほどっ! さすがリーダーッ!」


 そう言いながらぐいっと身を寄せてくるアイネ。

 ……やはり、慣れない。恥ずかしくて身が硬直する。

 そんな俺を心配してという訳ではないだろうが、スイがやや困った顔で俺の事を見つめてきた。


「ただ、リーダーにはスキル消費の負担がかかってしまいますが……」

「それは大丈夫。多分、持つと思う」


 少なくともミハが言っていた、スキルを消費した時の気怠さは全く感じていない。

 それにインティミデイトオーラは使用後、一分間効果が持続する。

 何度も使いなおす手間はかかるが半永久的に使い続けることは余裕だろう。


「流石リーダー君。万能のイケメンだね~」

「分かったから……スイ」


 煽るように褒めてくるトワを軽く流して、俺はスイに視線を送った。

 これならば安全に進むことができるはず。


「えぇ。進みましょうか」


 にこりとほほ笑んで手綱を握るスイ。

 だがその瞬間──


「って、……きゃあっ!」

「うひゃあっ!?」


 ガクリ、と馬車が揺れた。

 急に加速されたことで後ろに倒れこむスイとアイネ。


「え、どうしたんですか?」

「え? え?」


 慌てて俺達は周囲を見渡す。

 だが周囲にゴーレムの姿は無い。


「もしかして──恐怖状態なんじゃ?」


 ふと、そんな俺達にトワが苦笑しながら馬の方をさした。

 その方向を見て絶句する。


「あっ、ごめん。え、えっと──」


 さっき肝が据わっていると感心した馬とは思えない程、馬車馬達が逃げるように走り出している。

 どうやら俺のスキルで馬達が恐怖状態になってしまったらしい。


「あ、キュアーッ! キュアーッ!!」


 慌てて精神的状態異常を回復するスキルを使う。

 そんな俺を見て、トワが呆れたようにため息をついた。


「……前言撤回するよ。リーダー君……」

「ぐっ──ご、ごめん!!」


 返す言葉も無い。

 状態異常を防止する修道士のスキル、バッドガードを慌てて馬にかける。

 その後、スイとアイネがフォローの言葉をかけてくれたが──かえって恥ずかしくなってしまった。


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