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170話 贈り物

「ん?」

「昔、私が作った装飾品。正直、そんなに使える効果じゃないかもしれないけど……」


 ミハがエプロンから取り出してきたのは小さな銀色のロザリオだった。

 首にかけられるようにネックレス状になっている。


「思い入れのある作品なんだ。受け取ってくれないかな?」

「え、俺に?」

「うん」


 俺の目をまっすぐと見て、ミハが真顔に近い表情で頷く。


「……え、なんで?」

「うーん……君が安全でいられるように……かな?」


 僅かに顔を赤らめながら頬をかくミハ。



 ──え、なにその表情?



「はぁ……」


 少し憂鬱気味にため息をつくアイネ。

 ……一気に上半身に熱を感じた。

 スイに視線を移すと、やれやれと言った感じで苦笑いを浮かべている。


「リーダー君、貰っておいたら? せっかくの気持ちなんだからさ」

「あぁ……ありがとうございます。大事にしますね」


 若干の気まずさはあったものの、せっかくのミハの気持ちを無碍にするのも悪いだろう。

 俺は受け取ったロザリオを首にかけるようとする。


「あ、あれ……? どうやるんだ、これ……」


 だがあまりに小さな留め金に固まってしまった。

 普段、ネックレスのようなおしゃれアイテムなどつけた事が無い。

 自分の爪よりも小さなそれを開けることすらできなかった。


「あ……えっと、こうだよ」


 と、ミハが留め具を爪で綺麗に開ける。

 あまりにスムーズに開けるその様子に驚きの感情が隠せない。


「ん、どうやってるんですか?」

「えとね。こう……」

「!?」


 そう言ってミハは軽くしゃがみこむと座っている俺と目線を合わせてきた。

 そして頬がくっつくぐらい体を寄せると、その小さな手を俺の目の前に持ってくる。


「分かった?」

「…………」


 ……正直、大接近するミハに気をとられて全然分からなかった。

 原因はともかく、俺の表情でそれを察したのだろう。ミハがくすりと笑う。

 

「つけてあげようか?」

「お、お願いします……」

「はいはい♪」


 何故か機嫌よさそうに俺の首に手を回すミハ。


「っ…………」


 ミハの頬が自分の頬のすぐ横にある。

 まるで抱きかかえられているような体勢のせいだろうか。他の女子達の視線がやや痛い。


 ――そこで、気を反らすために俺はこのロザリオがどんな効果を持っているのかを調べてみることにした。

 鍛冶師にはアイテムの効果を調べるスキル、アイテムアナライズがある。

 エフェクトは特に無く、いきなり装備品の効果を説明するウインドウが表示されるものだったので、どのようにすれば使えるのかイメージがつかなかったのだが──


「ディフュージョンエンチャント……?」


 そのロザリオの効果を知りたいと思った瞬間、その単語が頭に浮かんできた。

 ディフュージョンエンチャントは一部のスキルの効果範囲を広げるというものだった。

 例えばヒールの場合、ターゲットの近くにいる者にも回復効果が出る。


「えっ!?」


 ふと、ミハが息をのむ音がきこえてきた。

 バッと体を離して俺の視界に入り込んでくる。


「な、なんで分かるの? 私、何も言ってないのに……」

「え、あぁ……」


 どうもロザリオはつけ終わっていたようだ。

 首にかかっている事を確認する──という言い訳を使ってミハから目を反らす。

 そんな俺の肩に手をかけ、ミハがぐぐっと顔を近づけてくる。


「もしかしてアイテムアナライズができるの? あの回復魔法といい……サラマンダーの噂といい……ねぇ、貴方は──!」


 ──まずい。


 そう思ったのは俺だけじゃないだろう。少し空気が冷たくなったのを感じた。

 別にミハに自分の力がバレたところで何か悪い事があるという訳ではない。

 だが、あまりやすやすと人に知られるのも嫌というか──怖い。


 と、そんな俺の感情を読み取ったのか、ミハが小さくため息をつく。


「……ごめん。野暮だったね♪ 気にしないで」


 そう言いながら俺から離れるミハ。

 少しだけ、その表情が悲しそうに見えて──


「ねぇ、スイちゃん」

「えっ」


 そんな事を思ったのもつかの間、ミハはスイに顔を向けてにっこりと笑う。


「良かったね。凄い仲間ができて♪」

「……はい」


 少し照れくさそうに頷くスイ。

 そんなスイを見て満足したように頷くと、ミハは一歩下がってお辞儀をした。


「えと……じゃ、私は仕事があるからこれで。また会おうね♪ ご利用ありがとうございましたっ♪」


 きゃはは、と笑いながら手をくいっとまげて猫のポーズをとる。


「……はい。また」

「おつかれっす!」

「またねー!」


 途中の変な空気はどこへやら。

 明るく返事をする三人を見て、ちょっぴりホッとする。


 ――シャルル亭にはまた来たい。

 そんな、ちょっぴり後ろ髪をひかれるような思いを感じながら、俺は食事を再開した。


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