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161話 毒と欲望

「そのことじゃねえっ!」


 ミハは、怒鳴り声をあげながら、店内で比較的広いスペースがある場所へ移動する。

 そして武器を持った男二人に向かって人差し指をクイクイと曲げて挑発を始めた。


「ちょうどいい機会だ。テメェらみたいな腐ったヤツ、追い払うだけで済ませてたのがそもそもの間違いだったワ。ぶっ潰してやるっ! かかってこんかジャリどもぉ!!」


 この場所なら思う存分戦える。自分の力を全て出せる。

 言動とは裏腹に彼女は冷静にそれを判断し男達を誘導しようとしている。

 そうミハが考えていることを店主は分かっていた。

 だからこそ彼はこう考える。

 

 ――その自信、打ち砕いてやる……!


「やれるもんならやってみろっ! やれっ!」


 一度パイプに息を通し店主は顎を前に突き出す。

 それと同時に一人の男が銃をミハに向けて放った。


「フッ!」


 放たれる弾丸を剣の柄をつかって弾くミハ。

 しかしその衝撃で崩された体勢に二つ目の弾丸が襲い掛かる。


「づっ、このっ……」


 かわせないと察したのか。ミハは左腕を前に出してその弾丸とむかいあう。

 ガンッという肌との接触では考えられないような音。

 気力という概念により強化された肉体は、地球の人間では考えられないような防御力を持っている。それでも無傷でいることはできず、ミハの左腕には血が滴っていた。

 痛みで顔を歪めるミハ。それを好機と見たのか短剣を持った男が襲い掛かる。


「ナメんな、ゴラアァァッ!」


 剣を突き立てて強引に体勢を戻すミハ。

 必死に顔を歪めながら右足を振り上げる。


「おらぁっ!」


 それは向かってくる男の頬をえぐった。

 見事なミハのカウンターに、銃を持った男が目を見開く。


「ハッ、相変わらずテメェの親衛隊は雑魚だなぁ。おー? ソードアサルトッ」

「かはっ!?」


 その隙をミハは見逃さず一気に距離を詰める。

 手に持った剣を横にして男の腹にめりこませた。


 ――勝った!


 ミハの口元が僅かに上がる。


「ふっ。相変わらず……か。それはこっちの台詞だ」


 だがそれも一瞬のことだった。

 ミハは自らの耳元から放たれた店主の声に息をのむ。


 ――コイツ、いつの間に……!?


「うああああああっ!?」


 その疑問を感じた瞬間、ミハは自分の首に走った激痛で大きくのけぞる。

 直後、彼女を襲ったのは今まで感じたことのないような脱力感と眩暈。

 目に見える光景が全て歪んでいくようなその感覚に抗えず、ミハはその場に体をうちつける。


「てっ……てめぇっ! な、なにをっ……」

「お前は一つの事に気を取られ過ぎる。相変わらずだな」

「このっ……!」


 店主がどの方向にいるのか。自分は今、剣を握っているのか。

 それすらも把握することができない朦朧とした意識の中で、ミハは苦悶に満ちた声をあげる。

 地面に這いつくばるミハを見て勝負がついたことを確信したのだろう。

 店主は悠々とした表情でパイプを口にくわえ煙を吐く。


「一応俺も元冒険者でな。お前相手に不意をつく程度のことはできる。今度は俺も混じってやろうとしたが……出向く手間がはぶけたよ。正当防衛の名目も手に入れられるしな」

「て、てめぇ……ざけっ……なにしやがった!」

「きかないと分からないのか? 優等生のお前にしちゃあ珍しいな」

「クソがっ……ど、毒……?」

「それ以外の何が考えられる? なかなかの効力だろう。やはりエイドルフ様は素晴らしい……こうもレアな毒も、配布してくださるのだからなっ!」


 ミハがつけられた首の傷からはあまり出血はしていない。

 しかしその傷周辺のミハの皮膚は人間のものとは思えない程に紫色に変化していた。


「安心しろ。死なせはしねぇ。エイドルフ様の大事なカモだからな。だが――」


 そう言いながら店主は倒れている男達の肩を足でつつく。

 そして店主は起き上った彼らの背中を手でバンッと叩くと勝ち誇った表情で声をあげた。


「ハハッ、いい表情をするようになったじゃないか。どれ、お前も成人したんだ。そういう経験をしたっていいだろ」

「あぁ……? なんの話しだ?」


 虚ろな瞳をしながら、ミハが絞り出すように声をあげる。

 じたばたと動きはするものの、彼女の手足が地面から離れることはない。

 そんなミハを見て店主は失笑しながら話を続ける。


「そんな言葉づかいしたところで所詮まだまだガキんちょなんだろ? いい機会だ。二度と逆らえないように灸をすえてやるとしよう。……おいっ!」


 ふと、店主は不気味にほほ笑むと男達に視線を移した。

 それを受けて男達も禍々しく口元を吊り上げる。


「お、いいんすか。ダンナ」

「おう、成人したてのピチピチだ。たっぷり楽しむといい。あいにく俺は趣味じゃねえんだが……お前らはこういうの好きだろう。多分だが初物だ。だよな?」

「っ!?」


 明言はしないものの、その意味を理解したのだろう。みるみるうちにミハの頬が赤く染まっていく。

 そんなミハの表情を見て、男はじゅるりと音をたてながら自分の唇をなめた。


「うっひょーっ! そそるねぇ!」

「おい、今度は俺が膜破る番だからなっ」

「テ、テメェらっ……! どこまで腐ってやがるっ……!!」

「なに、安心しろ。すぐにお前も楽しめるようになる。こいつらは割と経験豊富だからな」

「ふざけっ……うぐっ! かっ……」


 さらに必死に、さらに激しく。そう思ってミハは体を動かしているつもりなのだろう。

 だが客観的にはミハは寝返りをうつこともせず小さく手足を痙攣させているだけだった。

 そんなミハの姿に男達はさらに不気味に笑みを浮かべる。


「んじゃ、まずは脱がせますか」

「だな。こんな色気のねぇ服じゃ全然そそられねーし」


 体は動かせなくても、その声は聞こえていた。その意味は理解していた。

 だからこそ、ミハは目に涙を浮かべて声をあげる。


「いっ、いあっ……」


 だが、そんな彼女の抵抗も男達の欲望を満足させるための道具にすぎなかった。

 自らの体に伸びてくる男達の手はミハの目にはうつっていない。

 しかしその気配は、悪意は、確かにミハに伝わっていた。

 だから、彼女は――


「いやああああああああっ!!」


 羞恥心から。嫌悪感から。絶望感から。

 失われそうな意識の中で、本能的にその悲鳴があげられた。

 だが当然、男達がミハの気持ちを尊重することもなく。

 その手は彼女の服を無慈悲に脱がしていく――


「……え?」


 はずだった。

 今まさに、男達の手がミハのケープに触れようとした瞬間。

 ミハの姿は男達の視界から消えた。


「なにやってるんですか」


 代わりに男達にかけられたのは静かな青年の声。

 急いで声のした方向にふり返る。


「……あ?」


 紋様が刻まれた黒いロングコート。金のラインが入った黒のズボン。

 革の手袋をつけ、優しくミハを抱きかかえるその姿を見て、店主が顔をしかめた。


「どういう状況なのか教えてくれませんか」


 青年がじっと店主を見つめる。

 無言のまま動かない店主と男達。


「あれ、君は……」


 儚くかすれたその声が青年に向けられる。

 どこか焦点のあってない瞳で、青年に語りかけるミハ。

 それを見て青年の目つきが一層するどくなる。


「……返答次第じゃ、容赦しないですよ」


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