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154話 察知

 ちらり、と男がスイに視線を移す。

 するとスイは諦めたようにため息をつき、ギルドカードを取り出した。


「……分かりました。失礼しました」

「とんでもございません。お気になさらず。やはりこのお値段ですと驚かれるのも無理はないですから」


 あまりに優しい声色で話す男に、どこか不気味さに近いものを感じてしまう。

 だがそれを表に出してはそれこそ失礼になるだろう。俺は黙ってスイの様子をうかがっていた。


「ではそれを一品。サイズについては後で変更はできますか?」

「もちろんでございます。ただ、明らかな傷がありますと……」

「それは大丈夫です。確認するだけなので」

「ご理解いただき誠にありがとうございます。では少々お待ちくださいませ……」


 そう言うと男はカウンターの奥にある扉を開けて別のところに行ってしまった。

 ここに展示されているのはあくまで見本ということなのだろう。

 ふと、アイネが男の姿が消えた事を確認するとスイに耳打ちするように話しかける。


「大丈夫なんすか? かなり怪しいっすけど……」

「でもシュルージュで買えるのはここだけなんでしょう? 私なら全然払える額だし……」

「むー……」


 どこか納得していない様子のアイネ。それを見て俺も不安が強まってきた。

 

 ──何か変なものを買わされていないのか……?


 すると、スイは俺の不安を読み取ったのか恐縮したように微笑んできた。


「大丈夫ですよ。馬車を借りるのって結構面倒なんです。お世話とかしなきゃいけないし……だから負担とは思ってません」

「まぁ、そうだよな……」


 冷静に考えてみれば騎乗用具が欲しいと言ったのはスイの方だ。

 向こうから買わないかと持ちかけてきたのならともかく、こちらから出向いているのだから必要でないものを買わされることなんてありえない。

 そう考えて安心した俺は話題を変えてみることにした。


「そういえば、今買ったのってペガサス用?」

「はい。普通に走るだけなら私でもできそうなので」

「グリフォン用のは無いんすかね? ウチはあの子にのってみたいんすけど」

「その前にライディングを習得しないといけないんじゃないか」

「うー、まぁリーダーの言う通りっすけど……」


 不満げに唇をとがらせるアイネ。


「おお、グリフォンに騎乗されるのですか」


 そんな時だった。いつの間にか騎乗用具を持って戻ってきた男がアイネに話しかける。


「あ、いや……えっと……」

「国王軍の上位兵にはグリフォンに騎乗される方もいらっしゃると聞いております。失礼ながらわたくしめは貴方様のことを存じ上げておりませんが、どうやら相当な実力を有しているご様子。グリフォンに騎乗されるとしてもなんら不思議ではありません。はい」

「いや、ウチは……」


 にこにこと笑いながら男はアイネの方に近づいていく。

 だが営業モードの男の笑顔はライディングを習得していないアイネにとって居心地の悪いものだったのだろう。アイネは両手を前に出して軽く押し返すモーションをする。


「もしご用命とあればそちらの方もご用意させていただきますよ」

「え、マジっすか?」


 だがそれも一瞬のことで、男の声にアイネはぐっと身を前に乗り出した。


 ──いや、だからどうせライディングが無ければ意味ないだろ……


 興味を示した様子のアイネを見て男はやや声を高くして言葉を続けていく。


「はい。ただ数が少ないので少々値が張りますが……」

「そ、そっすか……」


 一喜一憂という言葉を体現したかのように今度はしゅんとするアイネ。

 それを見て、スイが困ったように微笑んだ。


「一応、話をきかせてください。将来的に必要になるかもしれないので」

「はいはい。ではこちらに……」

「お、おっ!」


 ──忙しいやつだなぁ。


 目まぐるしく変わるアイネの表情に思わず苦笑する。

 そこまでキンググリフォンのことが好きならば、なんとかその間をとりもってやるのも召喚主のつとめだろう。


「……ねぇ」


 そんな風に内心で決意しているとトワが俺の頬をつついてきた。

 何事かと思いトワに視線を移すと、彼女は小声で俺に話しかけてきた。


「気を付けた方がいいよ。あの人、くさいから」


 ──え?


 真顔で俺の事を見つめているトワの顔。

 それが視界に入った時とほぼ同時にトワの言葉が耳に入る。


「くさいって……それって、あいつに悪意があるってことか?」


 無言で頷くトワ。その目つきが冗談ではないことを物語っている。

 急いでスイの方へ振り返る。


「では早速ですがグリフォン用の騎乗用具をご紹介させてもらっても……」

「はい。おねが──」

「待て、スイ」

「え?」


 不意に、俺はスイの手首をつかむ。

 当然、二人は俺に対してきょとんとした顔を向けてきた。


「あの。一日だけ考えさせてくれませんか」

「はい?」

「少し考えさせてください」

「リーダー……?」


 俺の行動の意味を探っていたのだろうが分かるはずもない。

 だが少なくともスイは俺が冗談でこんなことをしている訳ではないということを察してくれたらしい。

 手をひっこめると男に向かって軽く頭を下げる。


「すいません。また後でお伺いしてもよろしいですか」

「は、はぁ……かまいませんよ」


 困惑の色が強すぎて男が何を考えているのかを読み取ることはできなかった。

 とはいえトワがこういった冗談をいうようなキャラでないことも知っている。


「じゃあスイ。ちょっとこっちに来てくれ」


 そしてスイも俺が冗談でこんなことをするキャラでないことは分かっているのだろう。

 しっかりと頷くと、何も言わない俺のあとについてきてくれた。


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