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151話 検討

 ポルタンの部屋を出た後、執事に案内され俺達は一度ギルドの外に出た。

 そのまま隠れるように路地裏に移動し、人気が無い事を確認する。


「どうしますか……」


 話を始める空気になったのを見計らってスイが声をあげた。

 まだ朝だというのに全員の顔がやや疲れているように見える。


「ウチはちょっと、あの人信用できないっす。トワちゃんも言ってたけど、なんかうさんくさいっていうか。先輩があんな目にあってたのに危険なところに行かせようとするなんて。自分のことしか考えてない感じが凄いっすよ」


 改めて不満を漏らすアイネ。目でスイに対しクエストを受けない方がいいと訴えている。


「フルト遺跡だっけ。そこにスイちゃんは行ったことあるの?」


 やや曇った表情でトワがスイに問いかける。


「名前は知っていますが行ったことはありません」

「じゃあ不慣れな場所なんだ。ますます危険だね」


 質問というより確認という意味合いだったのだろう。

 言葉には出していないが、アイネと同じような目でスイのことを見つめている。

 スイは二人の視線を受けると片手を腰につけ、鼻でため息をした。


「んー……でも、そんなに危険な魔物が出るような場所とはきいてませんでしたが……」


 思い出すように視線を上に泳がすスイを見て、俺もゲームでの記憶を探る。

 ゴーレムは経験値がおいしい敵ではないためフルト遺跡は攻略サイトで情報を確認する程度のことしかしていない。

 それでもスイの言葉は正しいはずだ。ボスモンスターは出現するがレベルが100に満たないことは確かだし、最初からスイのような高レベル冒険者に依頼しなかったポルタンの行動とも合致する。


「たしかゴーレムが増加したから調査しにいったんすよね。……あれ?」


 ふと、唐突にアイネが首を傾げた。

 その反応の意味が分からず俺達は怪訝な顔をアイネに向ける。


「アイネ?」

「いや。なんかちょっと似た話があったような……なんだっけ……」

「?」

「……あはは。なんでもないっす」

「そう?」


 気まずそうに苦笑いをうかべるアイネ。

 意味が理解できなかったが追求することでもないだろう。

 俺は改めて話題を戻すことにした。


「とにかく、どうしようか決めよう。得体がしれないし受けない方が安全だと思うけど」

「そうですね……でも、私は……」


 何か言いにくそうに眉をひそめて唇を結ぶスイ。


「先輩っ……!」


 その表情の意味を察したのだろう。

 アイネは不満げにスイに詰め寄った。


「見過ごせないか?」

「えっ?」


 そう言葉をかけると、スイが、きょとんとした視線を返してきた。


「たしかにポルタンのことは信頼できない。でも、少なくともフルト遺跡に行ってほしいってクエストはポルタンが自分の都合だけで依頼しているとは思えなかった」

「…………」


 無言のまま目を鋭くするスイ。

 ポルタンは、今までスイのことを無視していた。とてもじゃないが信頼なんてできるはずがない。

 しかし今回のクエストは本来カーデリーギルドで対処するような内容のはずだ。

 本当の悪人であればそのために戦力を渡そうと必死になるだろうか。


「でもっ、なんで先輩が!」


 と、アイネが片足で一回、地団駄をふむ。

 やはりアイネはスイの件を放置していたポルタンに協力するのはかなり抵抗があるようだ。

 その点については確かに俺も不信感はあるだけに気持ちは良く分かる。



 ──でも、それはポルタンの全ての言葉に耳を貸さない理由になるのか……?



 アイネが感情的な部分の俺の言葉を代弁してくれている分、どこか俺は冷静になっているのかもしれない。

 なるべくアイネを刺激しないように声色に注意を向けて言葉を続ける。


「たしかに敢えてスイが行く必要はない。でもスイが行かなかったら代わりに誰かが行くことになる。二度、調査隊が全滅したところにな」

「あ……」


 俺の言葉にアイネはハッと息をのむ。


「そういうのが、スイは嫌なんじゃないか」

「それは……」


 きゅっと唇をかんでアイネがスイに視線を移す。

 俺よりもずっと長くスイと一緒にいたアイネだ。スイのそういった責任感について俺より強く感じているのかもしれない。

 とはいえアイネの気持ちも分かる。いくらスイが強いと分かっていても二度、調査隊の連絡が途絶えた場所に行くのだ。不安にならないはずがない。


「まぁリーダー君がいれば死ぬことはないでしょ。ね?」


 と、そんなアイネを励ますようにトワが明るく声をあげた。


「そこは分かってるんすけど……でも、そうしたら……」


 ちらり、とアイネが俺の方を見てきた。

 数秒程、その意味が分からずアイネのことを見つめ返していたが、すぐに俺が彼女の気持ちを勘違いしていたことに気づいた。


 ──そうか、不安の対象はそれだけじゃなかったんだ……


「そうだな。召喚獣もいるしアイネだってゴーレムには相性が良い拳闘士だ。戦力が不安ってことはないと思う。受けてみてもいいんじゃないか」


 そう言いながら俺はアイネの肩を軽く叩いた。

 と、予想通りアイネは目を輝かせてくいついてきた。


「え、ウチも? 連れてってくれるんすか?」

「既に適任と思われた人がいないならアイネは貴重な戦力になるだろ」

「で、でも……」

「ゴーレムの数が増えているんだろ。ゴーレムと戦闘する時は間違いなく来るはず。だったらアイネは必要だ。調査隊を護衛するのが今回のクエストなら、俺が派手に魔法で吹き飛ばす訳にもいかないんじゃないか」

「…………」


 無言で僅かにはにかむアイネを見て、自分の言葉が選択ミスでない事を確信した。

 アイネはフルト遺跡の危険を不安に思っていた訳ではない。自分とスイだけでその場所に行ってしまう事を不安に思っていたのだ。今更な不安な気もするが気持ちは分かる。

それを感じ取ったのか、スイは穏やかにほほ笑みながらアイネに話しかける。


「アイネも付いて来てくれる?」


 その言葉に、少しの間アイネはきょとんとした顔をみせていた。

 だがすぐに身を乗り出してそれに答える。


「も、もちろんっす! 絶対、役に立ってみせるっすっ!」


 ぐっと拳を握りしめてやる気を示すアイネ。


 ──スイは止めるかもしれないと思ったけど……


 ドン・コボルトとアイネが戦った時の事を思い出す。


「…………」

「ん、どうした?」


 ふと、いつのまにかスイとアイネがじっと俺の事を見つめていることに気づき、我に返った。

 俺の反応を見たスイはくすりと笑うと、からかうように話しかけてくる。


「いえ。やはり貴方はリーダーだなぁって思っただけですよ」

「は?」


 意味が理解できず頓狂な声が出てしまう。

 だがアイネには分かっているようで、スイと同じような表情を向けてきた。


「そっすね。なんかちょっと恥ずかしいっす」

「え、何が?」

「……そこは分からないんですね」

「えっ?」

「アハハッ、分からないならそれでもいいんじゃない?」

「そうですね」


 三人が何やらアイコンタクトをかわして笑っている。


 ──どういうつもりなんだ? 


「あー……そういえばトーラには戻らなくていいのかな。一応、俺ギルドの職員のはずだけど」


 どうも考えても分からなさそうだったので俺は話をそらすことにした。

 少々、無理矢理な感じはしたが俺の意図を察したのだろう。しょうがないなぁ、と言いたげに三人は苦笑いを見せる。


「そこは大丈夫っすよ。ウチとしてはこのまま一緒に旅するのが一番楽しそうかなーって思ってて」

「え、むしろそうするんじゃなかったの? ボクはそうなのかなって思ってたんだけど」

「その点は、はっきりさせてはいませんでしたね。でも、私もこのまま皆で旅ができたらなって……実はクエスト受けようかなって思ったのって、責任感だけじゃなくてその理由が作れるからってのもあります……」


 へへへ、と恥ずかしそうに笑うスイ。

 ……少しくすぐったくなって目をそらす。

 だがスイはわざわざ俺の視界に入るように体を移動させてきた。


「トーラを出た目的は達成してしまいましたが、それでも貴方は一緒にいてくれますか?」


 その質問の答えは分かっているはずなのに。

 少しだけ──ほんの僅かに不安の色がスイの瞳に混じっていた。


「あぁ。改めてよろしく」


 だがそれもすぐに消える。

 交わされる握手と照れ臭そうなスイの笑顔。

 それを見て俺は、今更ながら自分の居場所が出来たのだと実感していた。


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