148話 シュルージュのギルドマスター
俺達を迎えに来たギルドの使いは、落ち着いた感じの初老の執事だった。
どのような用で迎えに来たのかときいても、自分は知らされていないの一点張り。
とはいえ、スイに対して冷たい態度をとる訳でもなく物静かな感じで淡々と俺達を馬車にのせギルドに移動。
ギルドに入っていく時、周囲の冒険者達が何事かといった感じで俺達に視線を送ってきたが執事が壁になるように前を歩いてくれていたおかげもあってスムーズに中に入っていくことができた。
そのままギルドスタッフが入る扉をくぐり階段をのぼり、一際目立つ大きな扉の前に案内される。
「少々お待ちください」
執事はそう言うと俺達に向かって一礼しノックをする。
「マスター。スイ様とそのパーティの方々に来ていただきました」
「うん、入ってほしいのネ」
中から返ってきたのは妙に甲高い男の声だった。
予想外になよなよしたその声に思わず眉をひそめる。
「どうぞ」
礼儀正しく扉を開けて俺達を中に招き入れると、執事は音も無く扉を閉めて部屋から出て行った。
部屋の中には貴族が座るような豪華なソファーが置かれている。
「あ、どうも、ネ。この度はサラマンダーの討伐、お疲れ様なの。うん」
と、奥から一人の男がへこへことしながら俺達に近づいてきた。
年は四十代と言ったところだろうか。身長は男にしてはかなり低めでスイと同じかそれ以下といったところか。
妙にひょろひょろと痩せており左右に伸びた奇妙な髭は先端が丸まっている。
「先輩。この人は……?」
「あ、私の名前はネ、ポルタン・ジェフレッドっていうのネ。うん。ここシュルージュのネ、ギルドマスターをやってるの。うん。スイ君も話すのは初めてだネ。よろしくなの。うん」
警戒するようなアイネの表情を見たせいだろうか。
ポルタンと名乗ったその男は何度もぺこぺこと頭を下げながらソファーに腰掛ける。
──てか、この人がギルドマスターなのか……
視線を外さないまま頭を下げているその姿はどことなく煽っているようにも見え、口調も相まってうさんくささを感じてしまう。
ギルドマスターというとアインベルのような豪快な人間を想像していたのだが、どうもここではそうでもないらしい。
ともあれ、そんな事を顔に出してしまっては失礼にあたることは俺でも分かる。
俺達もポルタンにならい、挨拶をすると部屋の中へと進んでいった。
「はい、よろしくお願いします」
「どうぞネ、ここにネ、座ってほしいの。うん」
「失礼します……」
ポルタンに促されるまま俺達はスイを中心にしてソファーに座る。
だが意外にもポルタンはスイではなく俺の方に視線を向けてきた。
「えっとネ。私ネ、昨日サラマンダーを召喚した人がいたとネ、きいたのネ。それ、本当かどうかをネ、まず聞きたいの。うん」
「…………」
スイがやや表情を険しくする。
昨日言っていた通り、ギルドから何かしらのマークをされるということだろうか。
どう答えていいか分からずスイの方を見ると、スイはどこか諦めたような顔でため息をついた。
おそらく、隠しても無駄だという意味だろう。ポルタンの視線は確信を持った人間のものにみえるし、ギルドの中であんなに目立ってしまったのだ。言い逃れはできそうにない。
「はい。俺が召喚しました」
「あ、やっぱそうなのネ? 妖精を連れた魔術師の恰好した青年ってきいたからネ。そうじゃないかと思ったの。うん」
左右にのびた髭をいじりながらポルタンが俺の方向に体を傾ける。
「君ネ、ギルドに所属してないみたいだけどネ? どこの人なのかをネ、教えてほしいの。うん」
「それは──」
言葉が詰まる。
昨日、スイ達に話したようにバカ正直に答えても信じてもらえるとは思えない。
かといって別に何かうまい言い訳がある訳でもない。
と、そんな俺を見てスイが助け舟を出してくれた。
「あの、彼の素性が何か関係が? 私を呼んだのはクエストの事じゃないんですか?」
「まぁまぁ。ほら、上にネ、報告が必要なの。うん。あとはネ、彼に冒険者として登録してほしいの。うん」
「じゃあ何故私を呼んだのですか? そもそもクエストの事についてはこちらからも聞きたいことがあるのですが」
「んー、それをネ、言われるとネ……」
「彼は悪人ではありません。変に介入するのは止めてください」
「そ、そう言われてもネ。私にそれを決定する権限はないしネ……」
ポルタンが目を泳がせながら伸びた髭を撫でる。
それを見てスイが語気を強めて話を続ける。
「そんなことより。昨日も報告しましたけど、私が倒したサラマンダーは召喚獣でした。貴方はこの事を知っていたのではないですか?」
「え? そ、そんなことないのネ。うん」
スイの声にポルタンはさらにキョロキョロと視線を泳がせる。
誰が見ても動揺しているとはっきり分かるその態度にアイネがジト目を送った。
「……ライルが言ってたっすよ。観測班を買収してクエストを発注させたって。どういうことっすか?」
「ん、あ、いやネ……観測班の動きとかネ、そういうのはネ……私の職務の管轄外なの。うん」
「はぁ……?」
呆れた声をあげながらアイネが顔をひきつらせる。
それを見てポルタンは声をうわずらせながら言葉を続けた。
「ちょ、ちょっとネ、そこら辺まだまだ調査中というかネ、ライル君とものネ、お話ししてるの。うん」
「本当にぃ?」
トワもアイネと同じような声を出す。
「貴方ってギルドマスターなんだよね。ギルドで起こった事なのに把握してないの?」
「え? いや、ネ。ここって結構大きなギルドだからネ、うん。一人では無理なの。うん……」
「でもスイちゃんが受けてたクエストってかなり特殊なものだったんでしょう。出現場所がイレギュラーだし討伐対象のレベルの高さも他とは段違いだし。それなのに把握してないってあり得るの?」
「…………」
もはやポルタンはこちらを完全に見ていない。
貧乏ゆすりをはじめ自分の髭をずっといじっている。
──なんだ、このうさんくささは……