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147話 寝起き

「もしもーし、入りますよー?」

「ん……」


 やけに甘く作られたような声で俺はまどろみの中から引きだされた。

 覚醒半ばのまま、よろけるように体を起こす。


 ――ふに。


「ん……?」


 俺の腕から手にかけて柔らかいものがおしつけられている。

 何かと思って視線を移してみると、スイとアイネが俺に抱き着くような恰好で眠っている姿が目に入ってきた。


「…………」


 自分の脈が停止したような錯覚に陥る。


 ──どうしてこうなった?


 昨日このベッドで眠った記憶はある。

 だがこんなに彼女達とくっついていた記憶は無い。

 それなりにスペースはとってから寝たはずなのだが……



「あっ」



 ふと。目を丸くしているミハと目が合った。

 それを契機に、自分でも不思議になるぐらい急激に意識が覚醒していく。

 同時に研ぎ澄まされていく触覚。

 白と水色のネグリジェの心地よい布の感触が、朝の生理現象による自己主張を引き立てる。


「あははっ♪ これは失礼しました。では引き続きお楽しみくだ──」

「違っ! 違うっ! 誤解ですっ」

「いやっ、大丈夫。存分にヤっちゃって♪」

「違うんだって!! 待って、待ってくれ!」


 ミハは、親指をぐっと立ててウィンクをすると部屋の入口の方へと逃げるようにかけていく。

 そんな彼女を追いかけようとするが寝起きのせいかうまく足が動かない。


「ぐあっ!」

「えっ? 大丈夫??」


 結果、ベッドの上からバランスを崩し、俺はそのまま思いっきり地面に体を叩きつけてしまった。

 それを見て、ミハが慌てた様子で俺の方にかけよってくる。

 

「んー……あれ?」


 俺の声と部屋に響いた衝撃音のせいだろう。

 スイの唸り声が背後から聞こえてくる。


「あっ、おはようございます」

「お、おう……」


 とても寝起きとは思えないような、はきはきとした声と顔色。

 それを見て、先に起きる事ができたことに対しほっと胸をなでおろす。


「あれ? 何か御用ですか? すいません、こんな恰好で」


 そう言いながら、スイはベッドの上で膝たちになり軽くネグリジェをはたく。

 驚く程にテキパキとベッドからおりてミハの前に立つその姿は、まさにお嬢様といった感じだった。


「私が用ってわけじゃないんだけどね。冒険者ギルドからお呼びがかかってるよ♪」

「ギルドから?」

「私は詳しくきかされてないけどお迎えまで来ちゃってるから。勝手に入っちゃった。ごめんね♪」

「いえお気になさらず。今準備致しますので少々お待ちください」


 手を胸の前で組んであざとく上目使いをしてくるミハと自然な笑みで丁寧に返すスイ。

 着ている服と言動の真逆さに戸惑い、俺は何も言葉を返す事ができなかった。


「……アイネ、起きるよ。アイネ?」


 ベッドの上にいるアイネの体を揺さぶるスイ。

 それから逃げるようにアイネが寝返りをうつ。


「うーっ、先輩……それは剣じゃないっす……パンっす……」

「え? ちょっと、何寝ぼけているの。ほら、起きて」

「んぅ……先輩ならパンでも敵はコテンパン……」

「……ちょっと。どういう夢みてるの?」

「凄い凄い……パンパカパーン…………」

「…………アイネ」


 スイが物凄く気まずそうな顔をしている。

 とりあえずミハに返事をしなければ。


「す、すいません。すぐに支度しますので。後で」

「はいはい。そう伝えておくねー♪」


 何事もなかったかのような笑顔でミハは会釈をすると部屋から立ち去っていく。

 それを確認してスイは大きなため息をついた。


「もう、しょうがないんだから。アイネは……」

「すぅ……」

「ほーら。起きて。起きてよ、アイネ?」

「んぅっ……起きる、起きた……起きたから…………すぅ」

「寝てるじゃんっ! 起きてっ!」

「んぁ? あえ?」


 どうもアイネは朝に弱いらしい。


 ──そういえば、寝起きのアイネをじっくり見たのは初めてだったか。

 テントで一緒に寝たこともあるが、あの時は、俺も寝ぼけていたし。


 ともかく、アイネがじたばたと暴れまわるようにベッドの上で動いているのをどうにかしなければ。


「アイネ。大丈夫か。起きるぞ」

「うぅー……眠い眠い……眠い……うぅ……」

「おーい!」

「うぇえ……」


 アイネの肩をぐらぐらと揺らすと、ようやくアイネは、まともに体を起こした。

 呆れたようにため息をつくスイ。


「えうー……もう、なんっすか? クエストっすか? 眠い……」

「多分ね。それ以外の事で心当たりはないし……」


 少し不安げに目を伏せるスイ。


「まぁとりあえず行ってみようか。俺達も同伴はできるのかな」

「分かりませんけど……」


 そう言いながら、スイはじっと俺を見つめてきた。

 ついてきてほしい――と無言で訴えているようにみえる。

 俺はその視線に対し無言で頷くとトワの寝ている机の方に向かって歩き出した。


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