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145話 異世界の話

 重ねてスイが問いかける。

 

「貴方と出会ってからまだ短いですけど……色々なことがあったと思います。それで貴方の人となりは分かってきたつもりです。だから絶対、悪い人じゃないとは思ってます。でも……」


 少し心苦しそうにスイは眉を曲げて俺の事をみていた。


 ──そういえば、俺のことをちゃんと話したことは無かったな……


 スイからすれば……いや、スイだけでなくアイネにとっても。

 どこからやってきたかも分からず、得体の知れない力を持っている俺は、どこか不気味に見えたのではないだろうか。

 むしろこういう事は最初に話しておくべきだったに違いない。


「分かってる。よく今まで何も聞かないでいてくれたな。ありがとう」

「い、いえっ」


 俺の言葉から、俺についての話が始まると察したのだろう。

 スイは姿勢を正し、やや緊張したように声を強張らせる。

 そんなふうに真剣な態度で俺の言葉に耳を傾けようとするスイが可愛らしくて、思わずくすりと笑ってしまった。


「俺はさ。異世界から来たんだよ」

「えっ……?」


 予想通り、スイの目が丸くなる。

 数秒ほどの間を置いてスイはやや顔を俺に近づけるように上半身を傾けた。


「えっ、異世界……ですか?」


 半笑いでオウム返しをしてくるスイ。


「あぁ。ここじゃない世界だ」

「……あ、もしかしてニホンっていってた、あの?」


 一瞬、俺がふざけていると疑うような目をしていたが、すぐにそうではない事に気づいたのだろう。

 何かを思い出したように斜め上に視線を移すスイ。

 それにつられて俺もスイと出会った時のことを思い出す。

 あの時は混乱していたため良く覚えてはいないが自分がどこの人間か喋ったような記憶はある。

 とりあえず、スイの言葉を首肯して言葉を続けることにした。


「俺も何が起こっているのかまだ理解できてない。でもここは俺がいた世界じゃないってことは確かだ」

「……ちょっ、ちょっと待ってください」


 手を前に突き出して俺の言葉を遮るスイ。


「えっと。異世界……? なんでそんなことが分かるんですか?」

「俺の世界には魔法なんてなかったし魔物もいない。そもそも人間があんなふうに戦えない」

「…………」


 唖然とした表情で絶句するスイ。半信半疑である事が見て取れる。


「えーっ! じゃあなんでリーダーは魔法が使えるんすかっ!」

「うわっ!?」


 ふと、唐突に背後からきこえてきたその声に俺は身を震わせる。

 スイも同じように驚いていたのか息を大きく吸いこむ音が聞こえてきた。


「アイネッ!? びっくりした……」

「ご、ごめんっす。でも、お風呂からあがったら二人ともいなかったから探しちゃって」

「そうだよー。外に出るなら声かけてくれればよかったのに」


 いつの間にその場所にいたのだろうか。

 シャルル亭の扉の横でアイネが肩にトワを乗せて、ぷくりと頬を膨らませている。


「あぁ。ごめん……」

「まぁ別に怒ってるわけじゃないっすよ。それより──」


 くすっと笑って俺の方に歩いてくるアイネ。

 だがすぐにその表情は真剣なものへと変わった。

 

「リーダー。今の話って本当っすか? 異世界って……」

「そこから聞いていたのか……」


 アイネにも話すつもりでいたとはいえ少し恥ずかしい。

 とはいえ二度話すのは手間だしこれはこれでよかったともいえるだろう。


 ──むしろ、問題はどうやって伝えるかだよな……


「とりあえず部屋に戻りましょうか。こんなところでするような話じゃなさそうです」


 そんな事を考えていると、スイは時間を稼ぐようにそう言ってくれた。




 †




 部屋に戻った俺達はベッドに座り込んで話を再開した。

 最初はそのシチュエーションが少し恥ずかしく感じたが彼女達の表情が真剣なものだったのですぐにそんな感情は消えた。

 そこで俺はスイに出会うまでの出来事を話す。

 もっとも、ゲームのことは話さなかった。

 この世界には、オンラインゲームなんてないし、言ったところでちんぷんかんぷんだろう。


「気づいたら森の中に? そんなことあるんすか?」


 話が終わるとアイネが怪訝な顔で首を傾げてきた。

 疑っているというか、確認しているような感じの声色に少し自信が持てなくなってきた。


「無いよな。普通……」


 自分でも突拍子の無いことを言っているのは分かっている。

 すると俺をフォローするようにスイが声を発してきた。


「でも最初に出会ったときはひどく混乱していましたし。私からみると説得力はありますね」

「たしかに。最初に自分が戦えないって思ってたことにも辻褄が合うっすね……」


 口元に手をあてて考え込む仕草をするアイネ。


「トワは知っていたのですか?」

「うん。でもなんでリーダー君がこの世界に飛ばされたかは知らないよ。ボクの転移魔法だって世界を飛び越えることはできないし」

「そうですか……」


 分かっていた事だが何の手がかりも得られず。

 行き詰ってしまった俺達はしばらく気まずい沈黙に支配されていた。

 そんな中、アイネがぽろりとこぼすように声を発する。


「……じゃ、じゃあリーダーって、いつかいなくなっちゃうんすか?」

「え?」

「だって元の世界に戻ったら……」



 ──元の世界に戻る……?



 グサリ、と胸を突き刺されたような感覚を覚えた。

 元の世界に帰る。そんな当たり前に思いつくはずの発想を俺は今の今まで全くしてこなかった。──いや、することから逃げていたと言うべきなのか。



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