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139話 熱が冷めて

 ──気まずいっ!!


 ギルドの外に出た俺は、肝が冷える思いを押し殺すため、黙々と歩き続けていた。

 行く方向など特に決まっていない。

 だが、立ち止まると嘔吐してしまうのではないかと思うような感覚がはしる。

 それから逃げるように、俺はスイの手をひいて歩き続ける。


「リーダー、リーダーッ」


 そんな俺の意識をひいてくれたのはスイだった。

 必死に呼びかけるような声色で俺の意識は自然とスイに向かう。


「ん、あぁ……どうした?」

「あ、あの。すいません。ちょっと痛いです……」


 おそるおそると言った様子で足を止めたスイが自分の手元に視線を移す。

 その原因は言うまでも無く、俺が力いっぱい彼女の手を握っているからだろう。

 急いでスイから手を離し、俺は彼女に頭を下げる。


「あっ、ごめん……」

「いえ」


 少し顔を赤らめながらスイは俯いてしまった。


「…………」


 女の子の手を無許可でつかむのはデリカシーが足りなかっただろうか。

 やや気まずい沈黙が俺達の間を包み込む。

 その中で俺は先ほどまで感じていた感情を思い出してしまった。


「や、やりすぎた……よな?」

「え?」

「熱くなり過ぎたよな……どうしよう……」


 先ほどのギルドでの俺の言動は周囲にどのように見えたのだろうか。

 脅迫と言ってもいいような態度で怒鳴り散らす俺を見てスイ達はどう思ったのだろうか。

 それを考えると胸が締め付けられるような感覚になる。


「…………」


 数秒の間、スイ達は俺の事を無言で見つめていた。

 だがすぐにスイがクスリと笑みを浮かべる。


「ふふっ――あはははっ、なんですかそれ。さっきまであんなに強気だったのに」

「う……ごめん。ちょっと冷静じゃなかった……」


 からかうような、その笑い方に俺は安堵のため息をつく。

 どうも彼女達が怒っているようには見えない。

 とはいえ、あまりスマートなやり方で無いことは自覚している。

 そう考えると申し訳無いという気持ちは中々消えてくれなかった。

 そんな俺に苦笑いでアイネが話しかけてくる。


「まぁ、ちょっぴり弱気ぐらいな方がいつものリーダーって感じっすけどね。らしいっちゃらしいっす」

「アハハッ、そうかもね」


 トワの相槌にスイも首を縦に振った。


「そんな顔しないでくださいよ。むしろ感謝しているんですから」

「感謝って……」


 少し苦々しい顔で笑うスイを見ると、とても感謝されるような行動をしたとは思えない。

 そんな俺の態度を見るとスイはコホン、と咳払いをして表情を真剣なものへと変えた。


「本当ですよ? 今日は色々と……本当に色々と、ありがとう」

「あぁ……」


 少し照れくさくてスイから視線を外してしまう。

 もっとも、心配ごとはそれだけではない。

 ゆっくりスイに視線を戻して彼女に問いかける。


「でも、あれでスイに迷惑かかったりしないよな……?」

「それは無いと思いますよ。むしろ私はリーダーの方が心配です」

「えっ、俺?」


 小さく笑って即答するスイ。どうもその問いかけは予想通りだったらしい。

 反対に俺はスイの言葉が予想外だったので怪訝な声が出てしまう。

 するとスイはすぐにその事を説明してくれた。


「あれでリーダーがレベル100以上だということがギルドにバレてしまったと思うので。ギルドから監視されることになるかもしれません」

「監視? そんなのがあるの?」


 トワが驚いた様子で口を挟む。

 俺もスイの言葉の意味がよく分からなかった。

 召喚獣はそのレベル以上を有する者ではなければ召喚する事ができない。

 だから俺がレベル100以上だということがバレたという点には納得できるのだが──


「国が把握しているレベル100以上の人間はたった七人。それが大陸の七英雄と呼ばれる人たちです。彼らは全員、少なくとも何らかの形でギルドからマークされています」

「マーク?」

「それだけ強力な力を持っているということなので……管理できないのは恐ろしいということなんでしょうね」

「へー、じゃあ先輩もギルドに何か言われることあるんすか?」


 首を傾げながらそう尋ねるアイネ。

 スイはそれを受けて一度視線を上に泳がせると思い出すように言葉を続けた。


「私はまだレベル100以上じゃないけど……そうだね、ロイヤルガードにならないかって、かなりしつこく勧誘されたことがあるかな。後、私が街を移動する時にはギルドに報告義務があったり……」

「うわー……めんどくさ……ん? ロイヤルガード? 凄くないっすか、それ!?」


 跳び上がるようなポーズで驚くアイネ。

 だがどうもその意味が分からず俺は首を傾げるだけだった。

 するとスイが俺の様子を察したのか話しかけてきた。


「あ、ロイヤルガードっていうのは国王を守護する騎士のことですよ」

「凄い名誉なことなんすよ! 父ちゃんも勧誘されたことがあるって自慢してたっす」

「へぇ。凄いな……」


 具体的なことはうまくイメージできないが、国王という単語をきくだけでもなんとなく凄さは分かる。

 と、スイは感心されることを恥ずかしがっているのか少し居心地が悪そうに苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。


「ただリーダーの場合はレベルが異常ですからね……もしギルドに入ってレベル鑑定を受けたら混乱が起きるんじゃないかと……かといってギルドに入らなかったら入らなかったで変に介入を受ける可能性があります」

「ふーん、そういうものなの?」

「強力な力を持つ人が何をするか分からないと怖いってことなんでしょうね……英雄と呼ばれる人の中にもそういう人がいることはきいていますし。他にもレベル80前後の人ですが、そんな例があったのはきいています」

「なるほどな……」


 確かにサラマンダーという存在は普通の人間からすれば抵抗すらできずに命を奪われてしまうような危険を有している。

 それを自在に使役する者がもし悪事に手を染めたら──


「にしても、ライルって召喚術師だったんすね。知らなかったっすよ」


 ふと、アイネが話題を反らしてきたことでその思考が遮られる。

 するとスイが露骨に嫌な表情を見せてきた。


「……そうだね。彼がダブルクラスだったなんて」

「スイも知らなかったのか?」

「えぇ。ギルドの受付嬢さんも知らなさそうだったので、あの人が隠していたんでしょうね。上層部の人は知っていたのかもしれませんが……」


 そのまま苦虫を噛み潰したかのような表情で沈黙するスイ。

 少しアイネが申し訳なさそうな顔を見せる。


「うーん、もうアイツのことは良くない? 多分もう会うことないでしょ」


 と、トワが空気を読んだのか明るい声色で声をあげた。


「そうですね。もうあの人に興味はありません」


 対照的にスイの声は冷たい。

 どうもライルの話題を振るのはご法度となりそうだ。

 だがアイネが気まずそうな顔をしているのに気付いたのかスイはすぐに笑顔を見せた。


「とりあえず今日はシャルル亭で泊まりましょうか。また明日ギルドに行くことになるみたいですし」

「そっすね。あー、シャワー浴びたいなぁー……」


 そう言いながら前を歩く二人に俺とトワも後に続いていった。


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