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138話 過激な証明

 と、予想通りというべきか。

 周囲にいた冒険者の一人が声を荒立ててスイに話しかけてきた。


「えっ、いや──」


 慌ててそれを否定しようと振り返るスイ。

 だが男が一声かけたことで、皆のたかが外れたのだろう。

 周りの冒険者達が一気に声を荒立てはじめる。


「そんなことしたって誰も信じねーよっ! バーカ!!」

「お客様。一応、ギルド内での喧噪は──」

「いい加減にしろっ! 勝てないならライルさんに任せて帰れっ!」

「消えろっ、犯罪者は消えろっ!!」

「…………」


 受付嬢の声かけなど全く聞こえていないのだろう。

 周囲の人たちが円になるようにスイを取り囲んで野次を投げかけている。

 そんな状態を見て受付嬢はどこか諦めたようにため息をつくと、自分は関係ないと言いたげに遠くの方を見始めた。


「いきがるな小娘っ! もうこの街から出ていけっ!」

「冒険者やめろっ! 奴隷になれ、ガキ!!」

「かえれっ! かえれっ!!」


 広がっていく悪意の嵐。

 大きくなっていく悪意の波。

 それに飲み込まれて思考が止まるのを防ぐため一度大きく深呼吸をする。


「…………」


 ふと、スイを見る。

 全く反論することもなく、諦めたように目を伏せている姿が目に入った。

 その横ではアイネが何か叫んでいるように見えるが周りの声にかき消されて何を言っているのかよく分からない。



 ──これは、もう仕方ないな……



 そう考えて俺は一歩足を踏み出す。


「……? リーダー君……?」


 横から聞こえるトワの怪訝な声を無視して俺はスイの前に立つ。

 すると一瞬だけ、周りの人間の注意が俺の行動に向かい罵声の量が少なくなった。

 その瞬間、俺は一気に息を吸い込んで──




「黙れええええええええええええええええええっ!!」




 全力で、叫んだ。

 周囲の冒険者達の悪意に負けないように、持てる力全部を込めて声を張り上げる。



「「「「──ッ!?」」」」



 周囲の動きが止まる。

 静寂が辺りを支配した。

 その隙をついて、俺は受付嬢に話しかける。

 

「おい。このクリスタルにサラマンダーのソウルがこめられていると、証明すればいいんだな?」

「え……?」


 受付嬢はひきつった顔で俺の事をみあげてくる。

 スイやアイネも、まさか俺がこんな行動に出るとは思っていなかったのだろう。

 絶句しながら俺のことを見つめていた。

 だが、今はそれにかまけている暇は無い。

 俺はクリスタルを一個手に取って受付嬢に詰め寄った。


「ここで、サラマンダーを召喚すればいいんだな?」

「は……? え、それは……え? 召喚?」


 突然の俺の行動に理解が追いついていないらしい。

 仕方ないので俺は答えを聞く前にクリスタルを握りしめて冒険者達の方へ振り返る。


「ちょっ、リーダーッ! そんなことしたら──」

「ソウルリザレクション」


 固まっていく魔力の感覚をクリスタルに送り込む。

 するとクリスタルは中心部分から一気に綺麗な紫色に染められていった。

 それを上に掲げて俺は叫ぶ。


「いいか、お前らっ! そこでよく見ていろっ!! スイの言葉は嘘じゃないっ!!」


 まさか──と言いたげに冒険者達が俺の手元に注目する。

 一瞬だけ不安がよぎった。


 この召喚クリスタルは俺の物ではない。

 それでも召喚はできるものなのだろうか。

 少なくともゲームでは可能だったが……


 ──ええいっ! やけだっ!!



「ソウルサモン! 来い、サラマンダーッ!」



 叫んだ瞬間、右腕に集まった魔力が強制的にクリスタルに吸い込まれていく感覚がはしる。


「いっ──!?」


 瞬時に広がる赤色の魔法陣。

 誰かが息をすいこむ音が聞こえてくる。

 それを遮るように魔法陣は風をきるような音を出しながらクリスタルから地面へと移動する。

 その直後、中心部分が強く輝きはじめた。


「ま、まさか……」

「うそ──」


 徐々に形を作っていくそれを見て周囲の人々の顔色が変わっていく。

 赤黒い鱗とたてがみのように生えた無数の棘。

 何度も敵として現れた炎のトカゲが俺達を守るために前方へ出現する。

 


「なっ……」



 時間を止められたかのように静かになった空気が、誰かの声で一瞬震える。

 それに呼応したかのようにサラマンダーの全身から炎が小さくあふれ出した。

 その瞬間──



「う、うわあああああああああああああああっ!!」

「サ、サラマ──!?」

「ぎゃああああああああっ!!」



 一気に多くの悲鳴が周囲に響き渡った。

 ギルドの出口に向けて猛スピードで走る人。

 その場でぺたりと座り込む人。

 混乱する彼らの注意を強制的に集めるために俺はサラマンダーの背中に飛び移り声を張り上げる。



「いいか、よく聞けっ! スイはサラマンダーを倒してきた。そいつは召喚獣だった!!」



 全力で声を張り上げ皆の注目を集める。

 サラマンダーも俺の感情に呼応するように唸り声をあげていた。



「これが証拠だ! これ以上スイのことを傷つけるなら──」



 周囲を一瞥して、すぅっと息を吸い込む。

 そして、この場に居る誰もが俺の言葉を聞き逃すことのないように、もう一度全力で声を張り上げた。



「俺は絶対、お前らを許さないっ!!」



 ――しん、周囲が静まり返る。

 周りの人々の視線が俺とサラマンダーに集まっている事を確認した俺は、サラマンダーの背中から飛び降りると受付嬢に視線を送った。


「――これでいいんだな?」

「えっ……?」


 引きつった顔で、呆けた声をあげる受付嬢。

 俺はソウルリターンを使ってサラマンダーをクリスタルに戻すと、そのクリスタルをカウンターに叩きつけるように置いた。


「証拠を示したろ。スイはサラマンダーを倒してきた。それは召喚獣だった。召喚主はライルだ」

「は? ライルって……えっ、あのライルさん……?」

「報告は以上だ。そうだよな、スイ?」

「えっ、えぇ? まぁ、はい……」


 受付嬢の困惑の言葉を無視してスイの方にふり返る。

 するとスイは、ハッとしたようにこくこくと首を何度も縦に振った。

 それを確認して俺は再び受付嬢に視線を移す。


「他に何かあるか」

「え?」

「何か証明してほしいことはあるかってきいてるんだよっ!!」


 俺の言葉に受付嬢は目を泳がせる。

 だが流石に無言になることはなく、たどたどしくも返事をしてくれた。


「え、いや……その……と、とにかく上と連絡して事実確認をしますので……今日はお引き取りを……」

「分かった。行こう。スイ」

「えっ、あ──」


 周囲の人間が唖然とした表情でこちらを見つめているのは少なくとも心地良くは無い

 俺はスイの手を引っ張ると逃げるように受付から立ち去った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここから主人公君が犯人にされていくんですね! さてそのピンチをどう乗り越えるのか……
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