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137話 報告

 数時間程、召喚獣とたわむれた俺達はトワの転移魔法を使ってシュルージュ近くにまで移動した。

 その後、馬車を使って普通にシュルージュギルドまで移動。

 日はやや傾いてきており報告をするなら丁度良い時間だろう。


「んーっ、着いた着いた」


 馬車が止まったのを確認すると、トワがぐぐっと背伸びをする。

 するとスイが困ったように笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

「先に宿屋で待っていてくれてもよかったのですよ?」

「いや。ついていくよ。報告だけなんだろ?」


 そんなスイに俺はそう答える。

 正直……シュルージュをスイ一人で歩かせるのは怖かった。

 その点について、誰も言葉にはしていなかったがアイネもトワも同じような事を考えていたのだろう。

 無言で俺の言葉に頷く。

 するとスイが申し訳なさそうに眉を八の字に曲げた。


「まぁ……そうですけど。疲れていませんか?」

「何言ってるんすか。一番疲れてるの、先輩っしょ?」

「そだよー。それに、やっぱ不安だしねー……」


 アイネとトワの言葉に俺も首を縦に振る。


「……分かりました。じゃあ行きましょうか」


 言葉は消極的だが、やはり不安な点はあったのだろう。

 スイがほっとしたようにため息をつく。


 そして、それが杞憂で無いことがシュルージュギルドの扉を開けた瞬間に判明した。


「うわぁ。見られてるねぇ」


 トワが俺の肩で苦笑する。

 昨日軽く騒ぎになったことから予想はしていたが、スイが今日サラマンダー討伐クエストに向かったことは知れ渡っていたのだろう。

 シュルージュギルドの受付広場に入った瞬間、俺達を待っていたかのように冒険者達が視線を投げかけてきた。


「…………」


 無言の圧力にスイがごくりと喉をならす音がきこえてくる。


「スイ……」

「大丈夫ですよ。心配しないでください」


 一度、俺にふり返りニコッと笑うスイ。


 ──まぁ勝ったんだし、大丈夫だよな。


 俺達はアイコンタクトを交わすとスイについていく。

 軽く見渡した限りでもギルド内には数十人の冒険者や職員がいる。

 それでも不気味な程にギルド内は静まりかえっていた。


「こんにちは。報告ですか?」


 一番奥にある受付カウンター。

 その近くまでいくと座っている受付嬢の一人が凛とした姿勢で話しかけてきた。


「はい。サラマンダーを倒してきました」

「──!?」


 スイの言葉でギルド内の空気がざわめく。

 受付嬢も表情がひきつっていて動揺の色が隠せていない。


「それと他にも報告が。ライ──」

「ま、待ってください。確認しますのでギルドカードを」


 スイの言葉を遮って受付嬢が手を差し出してくる。

 それを見てスイは一度、鼻でため息をすると受付嬢にカードを手渡した。


「……分かりました。これです」

「お預かりします」


 カードを受け取った受付嬢はギルドカードを裏返してじっとそれを見つめる。


「……ん?」


 と、受付嬢が変な声をあげ怪訝な顔でスイを見上げてきた。


「……?」


 意味が分からないと言いたげにスイも同じような顔を見せる。

 すると受付嬢は少しだけ眉を吊り上げた。


「貴方はサラマンダーを倒したのですか?」

「えぇ」

「…………」


 即答するスイに口をあんぐりと開けて呆れた顔をする受付嬢。

 それを見てアイネが少し苛立ったように声をあげる。


「ちょっと、なんなんすか? 何が言いた──」

「そんなバレバレな嘘、なぜつくんですか?」

「えっ……」


 受付嬢の良く通った声が強く俺達に向けられる。

 その意味が分からずスイは──そして俺達も言葉を詰まらせた。

 畳み掛けるように受付嬢がギルドカードを示して言葉を続ける。


「ご存じですよね? 貴女のギルドカードには討伐カウントの魔法がかかっています。サラマンダーを討伐したのならカウントがされているはずです」

「えっ……? あっ!!」


 そのギルドカードに何が書いてあるのかは俺には読むことができない。

 しかし何のカウントもされていなかったのだろうということはすぐに察することができた。

 スイが、しまったと言いたげに顔をしかめる。


「あっ、そうか! あれ、召喚獣だったから……先輩っ!」

「うん、分かってる……」


 スイとアイネのやりとりをきいて俺も察する。

 どうもギルドカードにかけられた魔法は、魔物としてのサラマンダーを倒さないと討伐記録を残してくれないらしい。


 ──もしかして、ライルはここまで計算して……


 あそこまで狼狽していたのだ。そうではないとは思うが――もしそうなら最悪だ。

 どこまで意図的なのか分からないが、ライルは決して達成できない依頼をスイに任せていたことになる。

 英雄という肩書からは想像できないような陰湿な手口に吐き気に近い嫌悪感が湧き出てきた。


「あの。討伐依頼が出されていたサラマンダーは魔物じゃなくて召喚獣だったんです。これがその証拠です」


 カウンターにライルが持っていた召喚クリスタルを乗せるスイ。

 三つのクリスタルは濁った灰色で染められていた。


 召喚獣は戦闘不能になるとソウルリザレクションというスキルを使うか一定時間が経過しない限り召喚が不可能になる。

 クリスタルが灰色になっているのは召喚が不可能な状態になっているという証だった。


「えぇ……?」


 受付嬢があきれ果てた表情でスイを見上げてくる。


「申し訳ありません。意味が分からないのですが」

「色々あったんすよ! ほんとに先輩はサラマンダーを倒してきたんす!」

「…………」


 必死にアイネが抗議するも受付嬢は疑いの眼差しを向けたままだ。

 アイネが不満げに唇を横に結んで耳をピンと立てる。


「アイネ……」


 そんなアイネの前に手を挟んで落ち着かせるスイ。

 アイネの気持ちも分かる。だが、受付嬢もはいそうですかと簡単にクエスト達成を認めるわけにはいかない立場にあることも分かる。

 それはスイも同じだったのか、彼女は努めて理性的に淡々とした声色で言葉を続けていった。


「これはサラマンダーの召喚クリスタルです。調べれば分かるはずです」

「サラマンダーの……?」


 受付嬢はクリスタルの一つを手に取り怪訝な表情でそれを見つめる。

 数秒ほど、じっとそれを見つめていた彼女は小さく一度ため息をつくとスイを見上げてきた。


「……本気で仰っているのですか? サラマンダーを操る召喚術師がいると?」

「いたんすよっ! ラ──」

「仮にいたとして、召喚クリスタルにどの召喚獣のソウルが入っているかは実際に召喚してみなければ召喚主以外、判別ができません。それを証明できる人がいるとでも? レベル100以上の召喚術師なんて、少なくともギルドは把握していないのですが」

「それは――」


 スイが額に手を当てて顔をしかめるのが見えた。

 ライルは召喚術師であることを隠していた。どういう理由かは分からないが――それが最悪の方向に作用してしまっている。


「ぬぐぐっ……あぁいえばこういうっすね……!」


 そんなやり取りを見て歯を食いしばるアイネ。

 受付嬢が追い打ちをかけるように言葉を続ける。


「そもそも何故、召喚主を連れてこないのですか?」

「…………」


 スイが無言で唇をかみしめる。

 あの時ライルを拘束していれば──そんな後悔が俺を支配していく。



「おいおいなんだ? 勝てないからってごまかそうってのかぁ?」


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