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136話 ライディング

 多分、なんとなくは察しているのだろう。

 トワがニヤニヤとしながらそう話しかけてくる。


「いえっ、べつにっ! その、ありがとうございます……」

「いや、いきなり変なこといってごめん……」

「いえいえ……そんな……」

「…………」


 ──だめだこりゃ。


 俺のコミュ力ではこの空気を回復できそうにない。

 トワの呆れたような視線が痛い。


「ちょっ、ちょっと動いてみましょうか」


 そんな空気の中、スイが上ずった声をあげながらペガサスに合図を送る。

 それを受けて素直にトコトコと歩きだすペガサス。

 見ている感じ、しっかりと乗りこなしているように見える。

 スイも同じような感覚だったらしく満足そうに笑みを浮かべた。


「うん、普通に動ける……これなら騎乗道具があれば、もっと……」

「うっひゃー! グリフォンさん!! 死ぬ、死んじゃうっすーっ!」


 と、アイネを乗せたキンググリフォンがスイの横を飛んでいった。

 それを見てスイが、はっと息をのむ。


「と、飛んでるっ!?」

「アハハッ、まぁグリフォンだからね。そりゃ飛べるよね」

「グリフォンさん! 落ちるっ! 落ちるうっ!!」

「落ち着けアイネ! そんなに高い場所じゃないぞっ」

「うえええっ!!」


 地上一メートル程度の低空飛行だがグリフォンにつかまっているアイネにとってはそう感じないようだ。必死にグリフォンにしがみつきながら叫んでいる。

 と、そんなアイネ達をみてスイが呟く。


「……いいなぁ」

「ん?」

「あ、いやっ……」


 スイの方を見ると彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 そんな彼女にトワが見せつけるように羽を羽ばたかせる。


「スイちゃんも飛びたいの?」

「えっ? いや、私は別に……そんな……」


 ちらりとアイネの方をみるスイ。


 ──分かりやすいなぁ。


 思わず、くすっと笑みがこぼれてきた。


「飛べるんじゃないかな。ペガサスなら」


 そう声をかけるとスイはきょとんと首を傾げる。


「……そうなんですか?」

「そうじゃなかったらそんな大きな翼、あるわけないじゃん」


 カラカラと笑うトワにつられて俺も首を縦に振る。

 するとスイはおそるおそる視線をこちらに移してきた。


「えと、じゃあ……ちょっと……」

「あぁ。ペガサス、飛べるか?」


 俺の言葉に軽くペガサスが頷くのを見て、ほっと胸をなでおろす。

 実際にペガサスが飛んでいる姿はゲームでは描写されていなかったので、実は少し不安だったのだ。

 これで飛べませんでしたとなったらペガサスが見かけ倒しの烙印を押されてしまうことになってしまう。


「あ、本当だ。飛べ……」


 バサッ、と翼を羽ばたかせるとペガサスの体がゆっくりと宙に浮く。

 後ろの馬車馬達が少しざわめいているような気がするのは、その美しさのせいだろう。

 そのあまりに幻想的な──


「うっ、ちょっ……!?」


 ──幻想的な?



「うわっ……きゃあっ!?」



 視界が黒で埋め尽くされる。

 直後、俺の顔に何か柔らかいものがぶつかってきた。


「ぐおっ!!」


 視界が閉ざされているせいで自分の体勢もよく把握できない。

 だが後頭部に走った衝撃と全身が横になった感覚から、後ろに倒されていることは予想できた。

 レベルの恩恵なのだろうか。割ととんでもない転び方をしたはずなのに痛みはさほどない。

 だが顔を覆い尽くす妙に温かくて柔らかい何かのせいで息がしづらい。


「ぶはっ、何が起き……ぐっ!」

「ひぁああっ!」


 スイの悲鳴が上方から聞こえてくる。


「え、なに……? 何がどうなって……って、リー……?」


 もぞもぞと顔に押し付けられたなにかが動く。

 と、スイの声が途中で途切れた。

 次の瞬間に聞こえてきたのはスイが息をすいこむ音と──


「い、いやあああああああああああっ!!」


 とんでもない声量のスイの悲鳴。


「ぐはっ!」


 顔を覆い尽くしていたものが一瞬だけ重くのしかかると俺の視界がクリアになる。

 その時、一瞬見えたスイの姿で俺はようやく気づいた。


 ──え、スパッツ?


「ちょっ、リーダー君、大丈夫?」

「えっ、あっ! ごめんなさいっ!! リーダーッ!!」


 直後に聞こえてくるスイとトワの声。

 二人が思っている程、俺の体にダメージは無い。


「まさか、俺は……」


 顔全体に残るさきほどまでの柔らかな感触。

 その余韻が消えず、呆けている俺にトワが心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫? リーダー君、さっきまでペガサスから落ちたスイちゃんのスカートの中──」

「やめてぇっ! トワ、言わないでええっ!!」

「うあっ! びっくりしたぁ!!」


 トワの体を両手で掴んで俺から引き離すスイ。

 その後、怯えたような表情で俺に視線を返してきた。


「うっ……その顔、分かっちゃいましたか……?」


 ぷるぷると羞恥に震えるスイを見て考える。

 ここは気付いていない振りをするのが正しい選択だろう。


「イヤ、ゼンゼン。ヨクワカラナカッタ」


 ──なんだ、この棒読みは!?


 自分で言っていて自分で衝撃を受けた。

 まさか俺にここまで演技の才能が無いとは。


「うっ……」


 流石にこれではスイを騙しとおすことなどできるはずもなく。

 スイは唇をぎゅっと結んで言葉を詰まらせてしまう。


「……ごめん」

「…………」


 ──何か言ってくれっ! 頼む!!


 内心でそう叫ぶ俺の願いが届いたのか、スイが一つため息をついて話しかけてくれた。


「はぁ……申し訳ありませんでした。お見苦しいものを……」

「そんなことない。凄く……いや、ごめん……」

「気にしないでください……私の不注意だったので……痛い思いさせて、ごめんなさい……」


 だが、重苦しい空気は消え去らない。

 そんな思いつめた表情を見せるぐらいなら殴ってくれる方がまだ気が楽なのだが。

 もしかしたら、ライルよりもスイに辛い顔をさせてしまっているのではないだろうか……


「んー、でもなんで落ちちゃったんだろうね? スイちゃん、馬には乗れるんでしょ?」


 黙りこくる俺達に呆れたような声色で話しかけてくるトワ。

 情けないが、その助け舟はかなり有難かった。


「そ、そうですね……私、ライディングは会得しているのですが……」


 気を取り直したようにスイがペガサスに近寄る。

 ペガサスの方もスイを落としてしまったことを気にしていたようで少し心配そうにスイの方を見つめていた。

そんな二人を見て、俺はあることに気づく。


「あ、空を飛ぶのはライディングのスキルレベルを上げないといけないんじゃないか?」


 ゲームではスキルにはプレイヤーキャラクターのレベルとは異なり独自にレベルが設定されている。それをあげていけば威力や効果が上がったりするという仕様だった。

 完全にスキルの使用を暗記するような事はしてないので詳しくは分からないがペガサスは高レベルの召喚獣だ。完全にその能力を引き出すためにはある程度スキルレベルをあげなければならないのではないだろうか。


「スキルレベル?」


 と、スイが怪訝な顔を見せる。

 どうもこの世界ではスキルレベルという単語は一般的ではないらしい。

 とりあえず代わりに説明できそうな言葉を選んでみる。


「あぁー……習熟度、みたいな?」

「なるほど。確かに私は馬車の移動が多いですし、馬に乗ることはあまりないですからね……」


 どうやらうまく伝わったらしい。スイは苦笑いをみせながらほほをかいている。


「なら練習してみたらどうだ。空、飛んでみたいんだろ?」

「いいんですか?」

「もちろん。ペガサスもいいよな」


 頷く動作をするペガサス。それを見てスイがほっこりと笑みを浮かべた。


「あ、ありが──」

「うっひゃああああああああっ!」


 と、その瞬間に。


「ぐはぁっ!?」


 先に感じたものと似たような感触と衝撃が頭に走る。

 再び地面に後頭部を打ちつける俺。


「あっ、リーダーッ! ちょっ、うわああっ! そ、そこは──」


 見上げると顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げているアイネの姿が。

 それを見て一言、俺は呟く。


「……またかよ。また……」


 俺の頭の上でアイネがまたがっているようだがこれはたまたま起こったことでまた俺がまたの中に入っているのはまったく意図的なものではなく。

 まぁ、たまにはこういうこともあるか……



「リーダー!! 変にもごもごさせないでっ! ひあああっ!!」


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