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133話 スイに謝れっ!

 昨日やったことでもあるし、直前にライルが見せてくれたスキルのエフェクトだ。

 一瞬で体の中の魔力が具現化していくのを感じる。


「な、なんだとっ……!?」


 俺のクリスタルから魔法陣が出現したのを確認するとライルの顔色が変わった。

 ストラも体をがくがくと震わせはじめる。


「ど、どういうこと……? 彼は拳闘士と召喚術師のダブルクラス……? 魔術師ではない……? いえ、それより……」



「完全……無詠唱……?」



 九つの尾を持ち、四つの勾玉をぶらさげた首飾りをつけた狐が目の前に現れる。

 それを見て、唇を横にひきつらせ、大きく目を見開くライル。

 ――彼が初めて見せた恐怖の表情だった。



「は、ははっ! はははっ! いつ詠唱していたのかしらんが……そんな小さな狐で何ができるっ!」



 それを隠すためだろうか。

 ライルが明らかに無理した様子で笑いはじめる。



「やれっ、サラマンダー! ちんけな狐ごと、あの男を焼き尽くせえっ!」



 サラマンダーに視線を送って手を前に払うライル。

 それを受けてサラマンダーが大きく息を吸い込んだ。


「……ちんけな狐、だってよ。言われてるぜ、キュウビ」


 たしかに、キュウビの体はサラマンダーに比べればかなり小さい。

 座り込んでいるキュウビは俺の胸辺りの高さぐらいしかない。

 それだけを見れば彼の言うことも分からなくはない。


 ふと、キュウビに視線を移す。

 すらりと座って目の前の敵を見つめているキュウビ。

 だが、その目は怒りの炎を宿しているように見えた。



「見せてやれっ! 氷霊砕破!!」



 俺がそう言った瞬間、キュウビの首飾りについた青い勾玉が輝き始める。

 そしてキュウビの尾の先に青い人魂のような炎が浮遊しはじめ、魔法陣を作りはじめた。


 キュウビの魔法は範囲こそプレイヤーの魔法より狭いものの、攻撃力や追加効果の確率が高いという特徴がある。氷霊砕破はキュウビが使う水属性の魔法だ。


「──ば」


 サラマンダーがファイアブレスを放とうと少し頭を持ち上げた時に、それが発動した。

 下側から抉りこまれるように天に伸びる氷柱がサラマンダーの体を貫通する。

 そして徐々に氷柱が横へ大きくなっていき、その数秒後にはサラマンダーの体全身は氷漬けにされていた。


「ばか、な……」


 氷のオブジェにされたサラマンダーを前にしてライルは体のバランスを崩す。

 慌ててそれを立て直そうとするが震えた膝では自分の体を支えきれず、ライルはその場で四つん這いになった。


「凄い……これが、リーダーの召喚獣……いえ、召喚神獣というべきですか……」

「アハハッ、瞬殺だねっ!」

「ばかな……ばかな……」


スイとトワの感想はライルの耳には届いていないらしい。

地面を指でひっかきながら全身を震わせている。


「ばかなばかなばかなっ! ばかなああああああああああああああああああっ!!」


 そう叫びながらライルが拳を地面につきつけた瞬間、サラマンダーを閉じ込めていた氷がサラマンダーごと破裂した。

 粉々に砕け散った氷は太陽の光を反射しながら美しく空に舞う。


「こんなこと、こんなことあるはずがないっ! ありえないっ! ありえないありえないありえないっ!!」


 そんな幻想的でいて、圧倒的な力の前にライルはただ困惑しているだけだった。

 俺の方にふり返るキュウビが少し誇らしげな表情をしているようにみえる。


「ありがとう。流石だな」


 その頭を軽く撫でながらキュウビに礼を告げる。

 頭の上に手をあげた瞬間、少し警戒するような表情を見せていたキュウビだったが俺が触れたらすぐにそれを解いてくれた。

 目を瞑って小さく頷くキュウビ。

 そんな中、ライルが怒鳴りながら入り込んでくる。


「なんだそれはっ! その力はっ……お前はなんだっ! なんなんだっ!!」

「そんなことより」


 俺はソウルリターンを使いキュウビをクリスタルに戻し、無影縮地でライルの近くへと移動した。


「ライル様っ!」

「──っ!」


 瞬時に距離を詰められた事に驚く二人。

 それに気を遣うことも無く俺はライルの首をつかんで無理矢理、彼を立ち上がらせる。


「話せ。お前がスイを陥れたのか」


 あまり暴力的な態度は好きではないのだが、状況が状況だ。

 

 ──なるべく怖い雰囲気が出せるように低い声で話してみたが……どうですか……?


 その答えは、上ずった声で話すライルが黙示に答えてくれた。


「ふ、ふふっ……陥れた、だと……? 違うな、スイを導こうとしただけだ」

「……はぁ?」


 だが、その言葉の意味が分からない。思わず呆れた声でそう言いかえす。

 するとライルは俺の手首をつかんで、それを振り払い、俺を突き飛ばしてきた。


「僕についてくるのがスイのためだ……そうだろう? 僕は……そのきっかけを作ってあげただけさ」


 両手を肩の辺りまであげて、ひらひらと動かしながらライルは笑みを浮かべる。


「だいたいは察しているんだろう? だったら話してやるよっ! スイの親のことを皆にばらしたのもっ、観測班を買収してクエストを発注させたのもっ、バカな仲間を紹介してスイの足をひっぱらせたのもっ、影からサラマンダーに支援をかけてスイを負けさせたのも僕が命じたことさっ! だが、これも僕がスイを想うがゆえ」



 ──何を言ってるんだ、こいつは……?



 ライルの言っている事に論理的な説得力も、スイへの愛情も、微塵も感じられない。

 それなのにライルはそう言えば俺が納得すると思い込んでいる。そうとしか思えない表情をしている。


「そう――全部、スイのためなのさっ!!」

「お前っ──!」


 それは、今まで感じたことのないような怒りだった。

 考えるよりも前に手が先に出た。

 そんな犯罪者のような行動を躊躇なくとってしまう。


「ぐっ……がっ!」

「ライル様っ!?」


 さっきとは比較にならない程の強さでライルの首をつかむ。

 ストラの痛烈な悲鳴を無視して、俺はライルに詰め寄った。


「……謝れよ」

「がっ……ごげっ……!?」

「スイに謝れっ!」

「ぐっ、放せっ!!」


 ライルが俺の腰に対して膝蹴りを放つ。

 気にするような攻撃では無い。だが意識がそれたことで俺の手元の力は緩んだらしい。

 その隙をついてライルが後ろに下がる。


「ハァッ、ハッ……くっ、話をきいていたのか? 僕が謝ることなんて一つも──」

「なんでそんなことができるんだよっ! お前はっ!!」


 ライルの言い分は理解できない。

 だから俺はその言葉を遮った。


「もし俺がアンタだったら……スイに……自分が好きな女の子に……あんな、辛そうな顔をさせて平気でなんかいられないっ!!」


 スイが今まで周囲に何を言われ、スイがどんな気持ちでサラマンダーに挑んでいたのか、俺はその全てを完全に把握しているわけではない。

 それでも。今まで見てきたスイの無理に作った態度と表情。

 それさえ見れば、ライルの行動を否定する理由は十分だ。


「謝れ……」


 一歩、ライルに詰め寄る。


 動かないライル。

 話そうとしないライル。

 意味不明だと言いたげに首を傾げるライル。


 気づいたら俺は自分の拳を振り上げていた。



「スイに――スイに、謝れええええええええっ!」


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