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132話 意地の召喚

 十秒足らずの間、周囲を彩っていた銀世界が消えていくのを見て、スイが淡々と話しかける。

 だがライルはスイの方など見向きもしなかった。


「……ふざけるな」


 一言。そう呟いてライルは天を仰ぐ。


「ふざけるなあああああああああああああっ!」


 次の瞬間、ライルはガンガンと剣を地面に叩きつけた。まるで駄々を踏む子供のように。


「誰だっ! 隠れているのは分かっている、姿を現せっ!」

「何言ってるの? 誰も隠れてなんかいないよ」


 剣を振り回しながら叫ぶライルにトワが呆れた声色で話しかける。


「あぁっ!? バレバレな嘘を言うな。じゃあ今の魔法はなんだっ!」

「そんなの、リーダーがやったに決まってるじゃないっすか」

「ふざけるなっ! 完全無詠唱を使う魔術師なんぞ……おとぎ話じゃないんだぞっ! それに、こんな威力の魔法が一人で出せるはずがないっ!! どこかに国軍がいるはず──」


 ライルがキョロキョロと周囲に視線を泳がせはじめる。

 だが、当然そんなものがこの辺りに存在するはずがない。

 スイが呆れたようにため息をつく。


「そんな大軍がこの近くにいると本気で思っているのですか? そんな気配を感じると?」

「うるさいっ! 黙れっ!」


 そう叫びながらライルは灰色に変化したクリスタルをしまいこみ、新しく紫色のクリスタルを取り出す。


「へっ、へへっ……まぁいい。こんなまぐれ、何度も起きるわけがない……そう、起きるはずがないんだ……」

「ラ、ライル様っ!」


 そのクリスタルを見てストラの顔から血の気がひいていく。


「残念だが……僕が所持しているサラマンダーの召喚クリスタルは三個あってね。ハハッ、今度こそ……今度こそっ、これで終わりだっ!」

「いけませんっ! それ以上はライル様にかかる魔力の負担が──」

「うるさいっ! 僕は英雄だっ!! 何の準備もしてないと思うなっ!!」

「ひゃっ……」


 自分にかけよろうとするストラを突き飛ばすライル。

 もう片方の手には青い液体が入った細長いポーション瓶が握られている。

 マナポーション。ゲームではMPを回復させるポーションだ。

 それを口に着け一気に飲み干すと、ライルはギラギラとした目つきでクリスタルを天に掲げた。


「■■ ■■■……■■■ ■■……」


 やや荒い息で詠唱をはじめるライル。


「ま、まだやるのか……」


 レベル100を超えると英雄と呼ばれる世界において、レベル100の召喚獣は最強レベルと言っていいだろう。

 それだけに彼は絶対的にサラマンダーを信頼しているようだった。

 ライルの勝利を信じ切った表情がそれを物語っている。


 ──さて、どうしよう。


 正直、めんどくさいので詠唱中に殴りこんでしまうのが得策か。



「こりゃあ、見せつけちゃったほうがいいかもね」



 ふと、トワが話しかけてくる。

 いつの間にかトワは俺の肩の上に居た。

 スイとアイネも俺のそばに歩み寄ってきている。


「どういうことだ?」

「リーダーとライルの力の差を見せつけるってこと、じゃないっすか?」

「そ。まぐれなんかじゃなくて、明確にリーダー君の方が強いって教えてあげるんだよ。そうしないと話しにならなそうだし」

「……さっきのじゃ伝わらないのか?」

「ははっ、さっきのじゃ凄すぎてリーダーが……ってか、人間が使った魔法に見えないっすよ」


 頭の後ろで手を組みながらアイネが苦笑いを見せる。


「ならどうすれば……」


 詠唱を続けるライルを横目に考え込む。

 するとスイが助け舟を出すように提案をしてくれた。


「リーダーも同じフィールドで戦ってみたらどうでしょうか」

「同じフィールド?」

「召喚獣で戦うってことじゃない?」



 ──そういうことか。


 無言で頷くスイと、トワの言葉で察しをつける。

 俺の腰にはコートに隠れるように革のウエストポーチがついている。

 その中にある昨日手に入れた召喚クリスタルの一つを取りだす。


 ──目の前で召喚獣を出せば、流石に戦意を奪えるはずだ……



「リーダー……」


 そんなことを考えているとスイが申し訳なさそうに俺に話しかけてくる。


「ごめんなさい。ほんとに……変なことに巻き込ん──」

「さっきも言ったろ、スイ」


 その言葉を遮って、俺はスイの肩をとんと叩いた。


「俺はスイの力になりたくて、ここに来たんだって。」

「それは……」

「気にするな。俺は嬉しいよ。何も分からない俺に手を差し伸べてくれた。その恩が少しでも返せるなら──なんてことないさ。これぐらい」

「う……そんな……」



 少し涙目になるスイ。

 それに気づかないふりをして俺はライルの方にふり返った。



「ほらっ、リーダー君っ! 敵さん、準備ができちゃったみたいだよっ!」


 トワが俺の肩を軽く蹴りながら注意を呼びかけてくる。

 ライルの握ったクリスタルからは再び魔法陣が展開された。


「ふははははははははっ! どうだっ、もう一度倒せるかっ! サラマンダーをっ! レベル100──最強の一翼を担う、この炎の召喚獣をっ!」


 先ほどと同じように魔法陣が前方に移動してくる。再び現れるサラマンダー。


「見ろスイッ! この僕の力をっ! 分かるだろ、お前が共に歩むべき人間が誰かっ!」


 サラマンダーが炎を口から、体全体から漏らしながら咆哮をあげる。


「それをこの男を殺して証明してやるよっ! ははははははっ!!」


 サラマンダーがライルの高笑いに呼応するように足を地面に叩きつけ地響きを鳴らす。

 ……前の俺なら完全に威圧されただろう。

 だが流石に二度も俺達に敗れた魔物を相手に怖がる程、俺も小心者じゃない。

 たっぷりと皮肉を込めて、笑ってやる。



「随分、熱血なアプローチだな」

「……あぁ?」



 ライルが高笑いを止めて俺を睨む。

 そんなライルに俺はクリスタルを見せつけるように手を前に突き出した。


「でも、召喚獣を使えるのはアンタだけじゃない」

「なに……? 黒のクリスタル……? ハハッ、そんな変な色のクリスタルなんざ、見た事ないぞっ!! ハッタリもいい加減に──」

「さぁ来い、アマツノキュウビ!!」


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