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131話 霧散

 と、スイの動揺に満ちた声がきこえた。


 ──なんだ、この言葉……?


 思わず呆気にとられる。

 単語になっているかどうかも分からない意味不明な呟きを続けるライル。

 だがそれがハッタリでは無い事は分かる。


「■■■ ■■ ■■■──!」

「リーダーッ! これは召喚術の詠唱ですっ!!」

「っ!?」


 スイの言葉に俺はライルが持っているクリスタルに視線を移す。


 ──そうか、あれは召喚クリスタルか……


 すぐに気づかなかった事に我ながら呆れてしまう。

 紫のクリスタルはレベル91から100までの召喚獣の魂が封印されている。



 ──だとすれば、ここで召喚されるのは……!



「はははははははっ、さぁ来るがいいっ! 地に這う炎の災厄よっ!」


 強く輝きはじめたクリスタルを天に掲げ、高らかに笑うライル。

 そのクリスタルを中心に周囲に魔法陣が展開されていく。


「ソウルサモン! ──来いっ! サラマンダーッ!!」


 ライルがそう叫ぶと魔法陣が前方へと移動し地面へと降りてきた。

 その中心から炎が現れ、それがトカゲの形にと形成されていく。

 先ほどまでスイと死闘を繰り広げていたその姿が、完全な姿で俺の前に立ちふさがった。


「……お前がサラマンダーを召喚してたのか」

「だったらどうした!? 怖気づいたかこの木偶がっ! はははははっ!」


 腕をブンッ、と前方に振り払いながらライルが笑う。


「スローガル家は代々、炎の魔物による災害から人々を守る事で英雄を排出してきたっ! 僕もまた、その一人!」


 自分の胸を右の拳でドン、と叩きながらライルが叫ぶ。


「ただ殲滅するだけでなく、支配するっ! それがスローガル家の──選ばれた価値ある者の力だっ! それをどいつもこいつも、先祖の受け売りだの借り物の力だの妬みやがって……」


 前髪をぐしゃりとかきあげて奥歯をかみしめるライル。

 サラマンダーの全身からあふれる炎がライルの瞳に映る。

 一歩、前に足を踏み出しライルは思いっきり顔を歪ませて俺に視線をぶつけてきた。


「この力を操れるようになるまで、この僕がどれだけの努力を積み上げてきたかっ! 貴様に分かるか! この愚図で怠惰な凡人どもがああああああああっ!!」

「ライル様……」


 その半歩後ろでストラがライルに憐れんだ視線を送っている。

 そんなストラを無視し、ライルはスイに向かって指を突きつけてきた。


「スイ! お前は黙って僕の物になればいいんだよっ!」

「…………」


 だがスイは反応しない。

 冷え切った視線と表情でライルの言葉をはねのける。


「分かったらこっちに来い! スイィイイイイッ!!」


 それがライルには耐えきれないようだった。

 両手で髪をかきむしりながら、まるで助けを求めているかのように叫んでいる。



「ライル……言ったよな? スイは『物』じゃない」

「あぁあああっ!?」



 俺の言葉にライルが反応して睨んできた。

 その視線を真っ向から受け止める。


 ――もう、これ以上、スイを傷つけさせるわけにはいかない。



「スイの意思を尊重しようとしないお前に──」



 魔法のイメージを思い浮かべ、右手を前につきつける。

 ライル達に被害が及ばないように細心の注意を払って。

 



「絶対、スイは渡さないっ!!」




 俺はその魔法を発動した。

 前に突き出した右手を後方へと振り払う。


「なっ──!?」


 ライルの、ストラの視線が、俺の背後へと移った。

 その直後、俺の視界の上から青色の魔法陣の一片が入り込む。


「いくぞっ! ライルッ!!」


 後ろにある目に見えない物を前にひっぱりこんでくるような感覚で俺はもう一度、右の拳を前に突き出す。

 その瞬間、俺の背後からいくつもの巨大な氷が吹雪と共に降り注いできた。


「ぁ……あ……?」


 三メートルはあろう巨大な氷が数えきれない程に降り注いでくる。

 その一つがサラマンダーに直撃すると、サラマンダーの体は瞬時に霧散した。



 ──って、一撃!?



 声もなくあっさりと消滅するサラマンダーに俺は思わず唖然とする。

 この魔法で倒せるとは思っていたがまさかワンヒットするだけで倒してしまうとは。


「うっひゃああああっ!?」


 サラマンダーが消え去っても魔法の発動は収まらない。

 地面にぶつかった氷が砕け、地面が凍りつき、吹雪が吹き荒れる。


「ちょっ、リーダー君っ! やりすぎっ……」


 急いで後方にふり返る。

 アイネとトワが耳を抑えながら騒いでいる中、スイはじっとライル達を見つめていた。

 とりあえず無事だったことを確認してほっと胸をなでおろす。

 しっかりと絆の聖杯の効果で攻撃が当たらないようになっていたようだ。


 ──やばいな、この魔法……


 少しだけかっこつけようと思ったのが間違いだったらしい。

 俺ができる限りで最小限に威力は抑えたつもりなのだが、それでもこの威力とは。

 かなり後方に撃ったおかげでライル達にはヒットしていないが、あまりの威力に我ながら乾いた笑いが出てきてしまう。


「そんな……サラマンダーが……一撃……?」

「何が、起こっている……?」


 それはライルとストラも同じだった。

 顔を強張らせながら銀世界へと変化した周囲の景色を見つめていた。


「なんだこれは……なんだ……?」

「ライルさん。貴方ではリーダーに勝てません。ですから……せめて正直に話してくれませんか。貴方が何をしたのか」


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