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128話 問いかけ

 女性に対して可哀そうだと思うのもあって俺はその男の名を告げた。


「誰だっ!」


 すぐさま剣を抜き俺の方にふり返る。

 美しい青の輝きを持つ剣の刃先は一瞬の間に俺の方向へ向けられた。


「なっ……貴様はっ! いつからそこに居たっ!!」


 ライルの目が見開く。明らかに動揺していることが見て分かる。

 しかし、対照的に剣は全く揺れていない。その対応力に内心で感心する。

 とはいえ最初に質問をしたのはこちらだし、この相手に主導権を渡すわけにはいかない。

 俺は敢えて、もう一度同じ質問を繰り返す。


「……こんなところで何をしているんですか」

「君の知ったことではない。消えろっ」


 そう言うや否や、ライルが距離を詰めてきた。

 振り上げられる剣の動きを見て察する。今回は寸止めをするつもりが無いと。

 俺から見て左上から切りつけられる剣をライルの左側に回り込むことで回避する。


「むっ……?」


 この時点でライルの背後をとったと考えていたのだが――流石に英雄様は甘くない。

 攻撃が空振りに終わったと悟るや否や、瞬時に体を回転させて俺の体を前方にとらえる。


「貴方はシュルージュを守っているはずでは? 何故ここにいるんですか」

「聞こえなかったのか? 消えろと言っているんだ。次は本気で当てに行くぞ」


 目を細めてライルが冷たく言い放つ。

 自分の剣の刃を軽く左手に当てて小さくジャンプ。

 明らかに戦闘態勢に入っている。話をきいてくれるような素振りではない。

 それは分かっているのだが──


「俺の質問に答えてください」

「いい加減にしろっ!!」


 ライルが剣を横に払う。


 ──回避だけ続けても埒が明かないな……


 そう考え、俺は敢えて棒立ちになってそれを受けた。

 ライルの剣が俺の右腕に直撃する。

 その瞬間、剣が当たった所から俺の腕に氷が走った。


「ん……?」


 その現象を何事かと思ったがすぐに察する。

 どうやら、この剣には水属性が付与されているらしい。

 ゲームでもその状態で通常攻撃を放つとこのようなエフェクトになったのを思い出す。

 しかし──


「……特にダメージは無いな」


 強がりでもハッタリでもなく。自然とそんな言葉が口から出た。

 ただ氷が出てきただけで痛くもかゆくもない。ちょっとひんやりするだけだ。

 軽く腕を動かすと俺を包み込んでいた氷がガキンと音を鳴らして砕け散った。

 剣が当てられた場所からは血が出るどころか服すら全く傷つけられていない。


「な、なにっ――!?」


 流石にこれはライルの度肝を抜いたらしい。

 剣を俺にぶつけたままライルの動きが硬直している。


「さて……答えろ。何故、ここにアンタがいる」


 自分で出てきた声の冷たさに驚いた。

 何度も暴力をふるうこの男に対し、流石に怒りが抑えきれていないのかもしれない。


 ──落ち着け、ここで怒りに任せても意味がない……


 なんとか会話を試みようとライルの目をじっと見る。


「……なんだ、その口のきき方は? その目つきは?」


 ぴくり、と眉が動く。その顔に血管が浮き出ているような錯覚を覚えた。

 端正な顔が怒りと苛立ちで、ぐしゃぐしゃに歪んでいく。


 ──こりゃあ、ライルを相手にしても意味が無いな。


 そう考えた俺はそばにいる女性の方に視線を移した。


「そのスクロール、支援魔法のスクロールだな」

「──っ!?」


 俺の言葉にその女性が体を震わせる。抱きかかえていた巻物が一つだけ落ちた。

 スキルスクロールはゲームにもあったマジックアイテムだ。

 使用することでそこに封印されている魔法を使うことができる消耗品である。


「お前がサラマンダーに支援をかけていたのか?」

「え、わ、私は──」


 俺の言葉に目を泳がすだけで女性は答えない。

 図星をつかれたような反応を見せる彼女に畳み掛けて質問を投げかける。


「サラマンダーを召喚したのはお前か?」

「えっ……」

「スイが倒したサラマンダーは召喚獣だったことは分かっている。倒したサラマンダーの光を追いかけてきたらお前達がいた。疑うのは当然だよな」

「──ハッ」


 と、ライルが鼻で笑う。


「ならその女をひんむいて調べてみるといい。サラマンダーを召喚できるようなレベルじゃないことはすぐに分かる」


 顎をつかって女性を指すライル。

 女性はライルの仕草に気づくと俺をじっと見て頭を下げた。


「……どうぞ」


 流石にそこまで自信満々にされては彼女がサラマンダーを召喚していない事は察しがつく。

 となればもう残りの選択肢は一つだ。俺は改めてライルに視線を移す。


「僕がここにいる理由をきいていたな? ――ハハッ、僕はスイがサラマンダーに殺されないか心配だっただけさ。ま、杞憂だったようだけどね」


 俺の視線を受けて舌打ちをしながらライルがそう答えてきた。


「それにしては嬉しそうじゃないな」

「あ……?」


 ライルの目元の筋肉がぴくりと動く。


「本当はスイに負けてほしかったんじゃないのか?」

「はぁ? なんで僕がそんな事を思わなきゃいけないわけ……?」


 ライルが再び剣を振り上げてくる。

 だが、昨日からライルの攻撃は何度も見てきているし受けてもいるせいだろう。

 それを見てももはや恐怖心が湧かない。

 ここで追い詰めてやろうと一歩、前に踏み出す。


「そりゃあスイちゃんに迫る理由が欲しいからじゃないの?」


 と、その動きは俺の背後からかけられた声で止められた。


「誰だっ!」


 当然、俺にはその声の主が分かっている。――トワだ。

 だが、ふり返ると、体をくの字に曲げて耳と尾をピンと立てているアイネの姿が先ず目に入ってきた。


「あぁっ、ライルッ! なんでこんなところに!?」


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