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127話 ピーピング

「ゼーッ、ハーッ、ハッ……!」


 サラマンダーが倒れたことを確認したスイは糸が切れた操り人形のごとくその場で両ひざをつく。

 そのまま倒れこむことを、両手を地面につくことで阻止するスイ。


「せんぱーっい!」


 スイのもとへアイネが走っていく。

 トワと一緒に後を追っていくとスイが剣を地面に突きながらよろよろと立ち上がり笑顔を見せてきた。


「はーっ……はーっ……ア、アイネ……」

「やったねスイちゃん! おめでとうっ」

「ど、どうもっ……づっ……はっ……」

「先輩っ!」


 スイが苦しそうに胸を抑えるのを見て、アイネはスイに肩を貸しながら背中をさする。

 既にヒールはかけているのだがスキルを連打したせいだろう。スイの息の荒さは落ち着いていない。

 どうやらMP──いや、気力切れを起こすとこのような状態になるようだ。


「はぁっ、はぁっ……ご、ごめん、息が……」

「謝ることじゃないっす。ほんと、先輩はすごいっす!」

「うんうん、頑張ったよ! リーダー君もそう思うでしょ?」


 スイを賞賛するアイネとトワ。

 その二人がはしゃぎながら俺に同意を求めている。


「リーダー……?」


 それについて全力で応じたいのはやまやまだが。

 俺の視線はスイとは違う方向に釘づけにされていた。


「まだだ……」

「えっ?」


 勝利の余韻に浸っていた皆もその異常に気付いたのだろう。

 一気に空気が覚めていく。


「サラマンダーが……消えていく……?」


 トワが怪訝な顔でそう呟いた。

 その言葉通り、サラマンダーはその体を光の粒子に変えて消滅し始めている。


「え、これって……」


 この消え方をスイは知っているのだろうか。

 何かを察したように目を見開く。


「やはり、こいつは魔物じゃない」


 今までの戦闘を思い出す。

 アーマーセンチピード、ゴールデンセンチピード、そしてコボルト。

 その全ては倒されてもこのように光の粒子となって消えていくことはなく、亡骸がその場に残っていた。

 そして倒された時に、光の粒子となって消えていくこのエフェクトを俺は知っていた。


「……このサラマンダーは、召喚獣だ」

「えっ──」


 俺の言葉に皆が息をのむ音がきこえた。


「うそ、じゃあ誰が……まさかっ……」


 特にスイの表情は凍りついている。



 ──なんとなく、見えてきたな……



 ふと、空を見上げる。

 すると予想通り俺がその場にいるのではないかと考えていたモノが存在した。


「あいつ……ピッピーじゃないか……」


 俺が知る召喚獣の中に偵察に良く使われるハイディバードという鳥がいる。

 カメレオンのように羽毛の色を変化させて周囲の景色にとけこむ能力を持っており、視界共有というスキルを持つことで敵の様子を探るために使われるものだ。

 意外に可愛らしい見た目をしておりその容姿はインコに近い。

 ピッピーというのはその見た目からこんなふうに鳴きそうだというイメージとピーピングをかけてプレイヤー達がつけた俗称だった。


「え、ピ……? えっ?」


 俺の呟きにスイが首を傾げる。


「リーダー君。何やってんの?」

「何かいるんすか?」


 皆が俺と同じように空を見上げるが何も見えないようだった。

 それもそのはず。ピッピーは、その小ささと羽毛の変化から普通に見てもその姿を確認することはできない。

 弓士のイーグルアイというスキルを所持していれば見破る事ができるのだが……当然、この場でそれを所持しているのは俺だけだ。皆が空の色にとけこんだアレを見つけるのは不可能だろう。


「皆、ちょっとここで待っててくれないか」


 召喚獣がここにいるのであればそれを呼び出した者もこの近くにいるはずだ。

 であれば、すぐにでもその人物を探し出さなければならない。

 俺は三人にそう声をかけると時間切れで効果が切れた練気をかけなおした。

 

「え?」

「行ってくる」

「え、ちょっ、どこへ──」


 俺を引き留める声に後ろ髪をひかれつつも、無影縮地を使う。


 途切れる声と切り替わる視界。

 俺は周囲で一番高い岩の上に移動していた。この場所なら辺りを一望することができる。

 サラマンダーが消滅する時に現れた光の粒子は天の川のように空高くのぼり、ある方向へと流れていた。

 その先には……


 ──やっぱりな。


 俺の思っていた通りの人物がいた。

 もう一度、無影縮地を使いその人物に近づく。



「この愚図がっ! 不良品なんて買ってきやがって!」


 最初に聞こえてきたのは男の怒号。見えてきたのは藍色のマントを翻す銀髪の男の姿。

 その横でボロボロになった給仕服を着た二十代半ばの女性が必死に頭を下げていた。

 いくつかの巻物を胸の前で抱きかかえながら涙声で叫んでいる。


「も、申し訳ございませんっ! 申し訳ございませんっ!」

「謝って済むか! 金払うだけじゃすまねえぞっ!!」


 ショートボブにきられた紫色の髪をつかみあげ声を荒げる男。

 どうやら俺がこの場所にいる事に気づいていないらしい。

 その隙をついて俺は練気を解除しておいた。下手にこちらの手の内は見せたくない。

 その間にも男の暴力行為はエスカレートしていく。

 

「まさかお前、謝ってれば許されるとか勘違いしてんじゃねえんだろうなぁ!」

「……何しているんですか。ライルさん」


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