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119話 ポケット

 太陽が真上へと移動した時間帯。

 今まで緑一色だった草原の色が変化してきたことに気付く。

 ところどころで岩が妙な形に露出しており見通しが悪い。草は徐々に禿げてきていて、その色も緑一色から茶色が混じっている。


「ここら辺で降ります」


 岩が多く、やや足場が悪くなりそうなところを前にしてスイが馬車を停止させる。

 確かにこの場所を馬車が進むのは馬にとってかなり負担になりそうだ。

 その判断は間違っていないだろう。しかし一つ疑問が残る。


「馬車はどうするんだ?」

「置いていきます。代わりにこれを」


 俺の問いかけに即答したスイは荷台から金色の小さな装飾がついた宝石のようなものを取り出した。

 大きさとしてはアクセサリー程度だが、アクセサリーにするには少々派手に過ぎる装飾。

 宝石の中心には極小の魔法陣が刻まれている。


「……なにそれ?」


 俺の疑問をトワが代弁した。


「マジックアイテムですよ。かなり低級なものですが魔物避けの結界を張ってくれます」

「そんなアイテムがあるのか……」


 ゲームではこんなアイテムは見た事がない。


 ──まぁ、魔物の位置を意図的にコントロールできるようなアイテムが流通していたらMPKが横行するか……


「結構高級品ですからね。特殊クエストを受ける人にしか支給してくれません」


 魔法陣にスイが触れると、そのマジックアイテムが輝きだす。

 どうも効果が発動したらしい。一瞬、空気が震えるような感覚がした。


「ここら辺にサラマンダーがいるんすか?」



 いつのまにか馬車から降りていたアイネが馬の方から声をかけてきた。

 

「報告ではまだ離れた場所にいるはず。でも馬達は安全なところに置かないと」


 そう言いながら荷台の様子を確認するスイ。

 その後に自分の装備をぐるりと見直すと颯爽と馬車から降りていく。


「一応、ボクが安全なところに送ってもいいんだけど?」


 ふと、トワがそんな事を提案する。

 ……正直、俺はその能力を忘れていた。

 だが、スイは違うようでトワの言葉に即答する。


「昨日も言いましたが鉢合わせが怖いのでやめておきましょう。この結界も私達が泊まったあの場所と同じぐらいの安全性がありますので。リスクを冒す必要がありません」

「そっかー。ボクの出番なしだね……」


 少し唇をとがらせるトワ。

 そんな彼女をなだめるようにスイが笑う。


「そんなことありませんよ。昨日買ったポーションを出してくれますか」

「あ……! はいはい、ちょっと待って!」


 トワがぱちんと手を叩くとポーションがスイの手元に現れる。

 数秒も経てば、その両手はあふれんばかりのポーション瓶で埋められていた。


「あ、ちょっと多すぎ……」

「あれ? そう? ごめんごめん。しまう?」

「いえ、ギリギリ持ちきれ……あっ……」

「とと、大丈夫か?」


 こぼしそうになったポーションを手でおさえる。

 このままでは本当に落としてしまうだろう。俺はスイの手からポーションをいくつか手にとる。

 そんな俺にスイは困ったように苦笑いをみせた。


「はい。あの……すいませんけど、入れてくれますか?」


 そう言いながら自分の腰の方に視線を移す。

 俺がいくつかポーションを手に取ったとはいえ彼女の手は塞がっている。

 それをアピールするように自分の手を軽く持ち上げて、あはは……と笑うスイ。


「え?」


 その意味が分からず首を傾げた。


「あの、ポーションを携帯したいので。そこに」

「……??」


 彼女は視線を自分のスカートに向けている。


 ──どこに入れるところがあるんだ?


 意味が分からずスイとスカートに交互に視線を移す。


「あの、そこにポケットがあるので。入れられませんか?」

「え? ポケット?」

「はい、そこです。……え、見えますよね?」


 ──やばい、全然分からない。


 両手がかなりギリギリの状態なせいかスイの声色は結構焦りの色がにじんでいた。

 それにひっぱられるように俺の中からも焦りが生まれていく。


「おい……」


 俺は助けを求めてアイネ、トワに視線を移す。


「…………?」

「ん、何やってるんすか?」


 無言で訴えるだけでは何も察してくれなかった。

 仕方ないので恥かもしれないが聞いてみる。


「す、すまん……どこにあるんだ? ポケット」

「え、そこですよ? 本当に見えませんか?」


 スイがそう言いながら目を丸くする。


 ──むしろなんで見えるんだ? そもそもスカートにポケットなんてあったのか?


 じっとスイのスカートを見つめるがやはりポケットらしき穴など見つからない。


「え、え……?」


 もう一度トワとアイネに視線で助けを訴える。


「何言ってるの? そこじゃん」

「……本気で言っているんすか?」


 呆れた、というより驚いた様子を見せる二人。


 ──そこまで俺の目って節穴なのか……?


 焦りと混乱ゲージが一気に上昇していく。

 それはスイも同じだったのかもしれない。


「え、えっと……とりあえず、私の腰の横の方、触ってくれますか?」

「は、はい?」


 唐突にかけられた文脈の無い言葉に、変な声が出てしまう。


「口で伝えるので、とりあえず触ってくれますか?」

「いや、でもそんなことするぐらいなら俺が一度そのポー……」

「リーダー君。早くしてよぉ」

「そっすよ。早く早く」


 ──何故、俺に入れてもらう事に拘る?


 これなら俺がポーションを持ってスイに自分でやらせるか、アイネに任せた方がいいと思うのだが。スイもテンパっているようだ。

 しかし、アイネやトワに急かされて俺はその言葉に従ってしまう。

 おそるおそる、スイの腰に人差し指をあててみた。


「そこから指三本ぐらい前に移動してください。そう、そこです」


 スイの言葉に誘導されて、骨盤あたりにふれる。

 傍から見れば完全に怪しい人だ。背中のあたりに変な汗が流れるのを感じた。


「そこからスカートのしわにそって下にいってくれますか」


 彼女の言葉通り、折りたたまれるような形のしわに沿って指をおろす。

すると、自分の指がすっとスイのスカートの中へと入り込んでいった。


 ──なるほど、これがスカートのポケットか……!


 外観からは全く分からないが意外に大きい。そこそこの物が入れられそうだ。


「そこです。手を入れてみてください」

「なん……だと……?」


 ──ここに? ここに、手を入れる……?


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