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118話 リベンジ

「あ、あのー……なんか、ボク達の存在、忘れてない……?」



 と、トワの言葉で息をのむ。 

 その方向を見るとジト目で俺達を見つめるトワと、照れくさそうに笑っているアイネの姿があった。


 ──いつのまにこんな近くにきていたのやら。


「え? い、いや。そんなことないぞ」


 そう言いながらも俺は今の状況に気づく。


 ──ほぼ、スイを抱き寄せているような体勢だな。これ……


 少し恥ずかしくなる。

 どうやら熱くなり過ぎたらしい。


「そうだよね。いやー、まいったよ。なんか二人の世界なのかなって思っちゃって」

「だから違うって……」


 慌ててスイから手を離す。

 そんな俺にアイネが追い打ちをしかけてきた。


「まぁ、ちょっと見てて恥ずかしかったのは否定できないっすね」


 俺達をからかうようにアイネがニヤリと笑う。


「ちょっ……アイネ……」

「でも、先輩」


 それに何か言おうとしたが、すぐに言葉をひっこめた。

 明らかにアイネの声色が真面目なものへと変化したからだ。


「今の話し、ウチはリーダーの言うとおりだなって思ったっす」


 スイに視線を移し、こちらに近づいてくるアイネ。

 他方、スイは少し気まずそうに目を泳がせている。


「アイネ……」

「多分、敵を倒すってこと以外にもやるべきことっていうか、大事なことってあると思うんすよ……さっきまで、そんな事、頭から消えてたんすけど……」


 アイネは、ごめんなさい、と小さく続けて頭を下げる。


「昨日だって先輩やリーダーならドン・コボルトなんて楽勝だったと思うんすけど……でも、ウチに任せてくれたじゃないっすか。嬉しかったんすよ、アレ」

「あれは、リーダーが……」


 俺に目を向けてくるスイに、俺は無言で首を横に振った。

 確かに最初は反対していたが最後はアイネの気持ちを汲んでいた。

 それだけで彼女は嬉しいと言っているのだ。水を差すようなことはしない。


「ウチ、ゴールデンセンチピードには手も足も出なかったから……アイツに勝って自信も少し取り戻せたっていうか……これからも頑張ろうって気持ちになったっていうか……その、上手く言葉にできないけど……えっと……だから……やっぱ、リーダーに任せるべきじゃないって気づいたっていうか……」


 数秒、沈黙を挟んだ後、アイネはスイの手を握りしめた。

 そしてまっすぐとスイの目を見て、言葉を続ける。


「なんていうか、ウチ……先輩に勝ってほしいっす……」

「アイネ……」


 潤んだ瞳でアイネの手を握り返すスイ。


 ──なんか、百合っぽい絵面だなぁ。


 不謹慎だと分かってはいるがそんな事を考えてしまう。


「ふーん、ボクはどっちでもいいと思うんだけどな?」


 と、トワの声で我に返る。


「おまっ、ちょっとは空気読めよ……」


 俺も変な事を考えていたのであまり強くは言えないが。


「アハハッ、ごめんごめん。でもさリーダ君……」


 だがトワの表情は意外にも真剣なものだった。

 言葉こそ軽い感じだが突き刺してくるような妙な鋭さがある。


「今回、スイちゃんがもし負けたら──それこそ、さらに追い詰めることになっちゃうんじゃない?」

「え……?」


 ──あ。


 言われて俺も、その可能性に気づく。


「何もサラマンダーはこの世界に一匹しかいない訳じゃないんだから。今回は見送ってもいいんじゃないってボクは思ったけどな」

「そ、そうか……」


 何も返す言葉が無い。

 彼女の言う通り、ここまで煽っておいて負けました、となっては気まずいってレベルでは済まないだろう。

 今度こそ本当にスイの自信を根底から壊してしまうのではないだろうか。


「う、うーん……それは、えっと……」


 アイネも俺と同じ事を考えていたのだろう。

 かなり気まずそうに俯いてしまっている。


 ──これはまずいなぁ……


「スイ、あ、あのさ──」


 とりあえず何か話そうと口を開く。

 すると──



「ふふっ……あははっ」



 スイが唐突に笑い始めた。

決して自虐的なものではない、今までの重苦しい表情とは打って変わった無邪気な声。


「スイ……?」

「あ、ごめんなさい。でも、なんか嬉しくて……」


 頬を人差し指でかるくかきながらスイが口元をゆるませる。

 そして、すぅーっと息を吸い込むと、


「三人とも、ありがとう。私のために、そんな顔をしてくれて」


 彼女は笑ってくれた。

 すぐに分かる。この笑顔は作ってなんかいない。


 ──というか、可愛いな……


 毎日、顔を合わせているせいで当たり前になってしまっているが彼女がとてつもなくハイレベルな美少女だという事を思い出す。

 シュルージュに来てから思いつめた表情をしている事が多かったせいだろうか。

 その表情に、どこか癒されるような気持ちになった。


「……その。私、挑んでみようかと思います。サラマンダーに」


 不意に向けられた視線に心臓が一つ鼓動する。

 その顔には、暗い感情はもう見て取れない。


「いいの? もし負けたら──」


 トワが眉をひそめながらスイに近づく。

 そんなトワにスイは意地悪そうに笑みを見せる。


「負けたら、もう私と一緒にいてくれないんですか?」

「そんな訳ないじゃん! ボクの方から友達にしてほしいって頼んだのにっ!」

「そ、そっすよ! 当たり前じゃないっすか!」


 トワとアイネが瞬時に、かつ必死にその言葉を否定する。


「だったらもし負けても修行して別の機会に挑めばいいってことですよね。たいしたことないですよ」


 多分……いや、間違いなく、これはただの強がりだ。

 でも、歯を見せつけるように無理してでも笑う彼女の姿は、見ていて気持ちのいいものだった。


「あぁ……ここでスイが戦って失うものは何もない。だから、大丈夫だ……」


 少なくとも俺達の態度は変わらない。俺達の信頼は消えることは無い。

 言葉の外にある俺達の気持ちに彼女はきっと気づいている。


「はい。今度こそ──」


 だからだろう。彼女が、そう力強く答えてくれたのは。


「私は、勝ちますっ!」


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